それぞれの道
ヒカリちゃんの力は偉大だった。
というか、ダークフォレストの主の力が偉大だった。
試しに召還したシロと名付けられた彼はヒカリちゃんの従順な僕と化しており、シロの一吠えで見渡す限りのモンスターたちは光の速さで逃げて行った。そのおかげでフォースシティまでは大変早く着くことが出来たんだが、全くレベルがあがらなかったことに一抹の不安を覚えた。
まあ急いでいたから良しとしよう!
フォースシティは何て言うか大都会だった。ファーストシティなんて普通に土の地面に小さな家がぽつぽつあるTHE田舎って感じだったのに、ここは道はレンガで綺麗に整備されてるし、大きなデパートや医療施設、図書館まである。とても同じゲームとは思えない。
まあ無駄にギャンブル施設が多かったり、絶対ゲームでは必要ないだろっていう家具屋や保険屋がある辺り、ちょっと忘れかけてたくそゲーの片鱗が見え隠れしているわけだが。
「とにかくまずはサホの治療じゃな」
サードシティ以来すっかり仲良くなったイバラさんがサホちゃんを気遣いながら医療施設へと向かうのにオレたちもついて行く。
「こんにちは! どうされましたか?」
施設に入ると出迎えてくれた看護師の顔を見て、ああそう言えばここも本来勇者のストーリーで通る道だったなと言うことを思い出した。
と同時に、何とかして目の前の男を仲間にせずにスルー出来ないかと本気で思った。いや、ほんと切実に。
「これは相当痛いでしょう。よく我慢していますね」
「いえ、まあ、痛みには強い方なんです」
施設に入って少し待ち、現在サホちゃんは医者の診断を受けている。そんな中での何気ないやり取りだったのだが、オレはそのせいでシロと戦う前サホちゃんがゼンに怒られて嬉しそうだったのを思い出してしまった。
サホちゃん、Mだったんだ……うーん、今度から冷たく接してあげた方がいいのか?
「すぐに手術が必要ですね。骨が一部粉砕してしまってますから、もしかしたら手術後も元通りにと言うのは難しいかもしれません。仮に手術が成功したとしても、しばらくリハビリが必要になります」
「そう……ですか」
「日程はこちらで指定させていただいても?」
「かまいません。よろしくお願いします」
「わかりました。今日のところは痛み止めのお薬出しておきますね。くれぐれも絶対安静でお願いします」
診察が終わり、医療施設を出たところでサホちゃんが立ち止まった。予想していたとはいえ、症状は深刻らしい。イバラさんも心配そうにサホちゃんを見つめている。
「トキ様、イバラ様、ゼン様、ヒカリ様。すみません、私はここに残らないといけないみたいです」
サホちゃんは本当に悔しそうに、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「サホ、わらわたちのことは気にするでない。それより、ちゃんと自分のことを考えて、しっかり治療するのじゃぞ。わらわの方こそ、付き添ってあげられなくてすまない」
イバラさんの言葉にサホちゃんが首をふった。
「その怪我はほとんどウチのせいですから、サホさんが気に病む必要なんか一ミリもないんですよ? むしろウチが気にせんといけんくらいです。ということで、ウチがサホさんの分までしっかり魔王さんのこと懲らしめてきますから、それまでにサホさんはウチのためにもしっかり治しとってくださいね!」
ヒカリちゃんの言葉にサホちゃんは頷いた。
「逆について行くなんて言いやがったら殴ってでも止めるとこだったぜ。選択を間違えなくてよかったな、ちゃんと治せよ」
ゼンの言葉にサホちゃんは泣きそうに顔を歪めた。
「サホちゃん、ここまで君がいてくれて本当に心強かったよ。オレたちが不甲斐ないせいでサホちゃんに頼ってばかりだったと思う。けどそのおかげでオレ達も成長できたし、サホちゃんには感謝しかないんだよ? だから絶対に魔王を倒してまたサホちゃんに会いに来るから。だからサホちゃんも、早く良くなるように治療頑張ってね」
ついにサホちゃんは泣き出してしまったが、しゃくりあげながら告げた言葉はごめんなさいではなくありがとうに変わっていた。




