父娘の決断
おはようございます、村人Aこと藤堂トキです! 気持ちのいい朝ですね!
いや、なんていうか、やっぱり弱ってるときって良くないね。一晩休んだらすっかり元気になったオレは、昨日あれだけ凹んでたのが嘘のようにあっさりいろんなことを受け入れた。だってゼンはゼンだし、前世云々言っても結局はオレも今はこの世界の住人なわけだし。
しかも昨日の言い方だと、あれ絶対この先の展開も全部知ってるよね? 手助けしてくれるかどうかははっきり言って微妙だけど、なんか展開知ってる人がいてくれると妙な安心感があるっていうか。
「これからもアドバイスよろしくお願いします」
「だが断る」
うん、やっぱりゼンはゼンだな! 泣いてなんかいない。
部屋を出ると、食堂の方から騒がしい声が聞こえた。どうやら宿の主人とヒカリちゃんが口論しているようだ。
そりゃあそうだよな、生贄になりそうだった娘が奇跡的に無事に帰って来たと思ったら、今度は魔王を倒しに行くってきっと言ってきただろうからな。父親としては反対するよな。
「だから! ウチはトキさんたちと一緒に行くって決めたんや!」
「だからダメだって言ってるのがわからないのかこのバカ娘が! お前が行ったところで足手まといにしかならんわ! 相手さんの迷惑も考え!」
……なんか思ってたのと口論の方向性が違った。
「おはようございます」
「ああ、すみません騒がしくて。すぐに朝食の準備をしますね。ほら、お前も!」
「はーい」
そう言って二人はキッチンの方へと入って行った。
うん、きっとさっきのは宿の主人なりの娘への心配の裏返しなんだろうな。まだキッチンの方で言い争っているけど、きっとそうに違いない。
朝食を待っていると、イバラさんとサホちゃんも起きてきてみんなで一緒に朝食を食べた。サホちゃんは利き手が使えないからさぞ不便だろうなと思ったが、そんなこと全くなかった。え? 両利きなの? ああ、違うの。
「サホちゃんなら利き手じゃない方で剣を振るってもオレより強そうだな」
「確実にな」
ゼンはもう少し気を遣うってことをした方がいいと思うな。
「トキさん!」
そろそろ出発するかと話していたところに、ヒカリちゃんから声を掛けられた。その後ろには不満顔の主人がいる。どうやら軍配はヒカリちゃんにあがったようだ。
「ウチも一緒に連れてったってください! 私も皆さんみたいに誰かの役に立ちたいんです!」
「勇者様、足手まといなら足手まといってはっきりおっしゃってくださいね」
「お父さんは黙っとき!」
ヒカリちゃんにピシャリと言われ、宿の主人は渋々口を噤んだ。
オレはどうしたものか決めかねて、少し悩んだ後口を開いた。
「ご主人、ヒカリちゃんは足手まといなんかじゃありませんよ。今回も、彼女がいなければダークフォレストの主を倒すことは出来ませんでした」
それを聞いて宿の主人は目を丸くして驚いている。まさか自分の娘が倒したなんて思いもしなかっただろう。
「けどね、ヒカリちゃん。せっかく助かった命だ。危うくなくなってしまうところだった命なんだよ? お父さんの心配する気持ちもわかるよね?」
ヒカリちゃんにそう諭すように告げると、なぜか宿の主人が慌てだした。
「待ってください勇者様! 私が反対していたのは娘が心配だからではありません!」
「え」
「本当に! 心から! 勇者様の足手まといにならないか心配だったのです!」
「ええと……そんなことありませんよ?」
主人の力強いカミングアウトに対して、オレは辛うじてそう答えるしかなかった。えぇぇ? 百パーセント本心だったの?
「でしたら、ぜひ連れて行っていただけませんか?」
「えぇぇっと……本当によろしいんですか?」
娘さん、昨日死にかけてるんですよ?
「元より、勇者様に救って頂いた命です。勇者様の役に立てるのならそれは幸せなことだと思いませんか?」
「危険な目にあったとしても?」
「勇者様と一緒ですから心配などしておりません」
その信頼しきった笑顔が重い!!
けどまあ。
「じゃあよろしくね、ヒカリちゃん」
「! はい! よろしくお願いします!」
ほんとありがとう!
実際イバラさんと二人とか、フォースシティに辿り着ける気がしなかったから内心めちゃくちゃ不安だったんです!




