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彼の正体は

「本当に……本当にありがとうございました!」


 うん、良いことするのって気持ちが良いね!

 あの後無事やり遂げたヒカリちゃんがホッとしてぶっ倒れたり、いつも以上に力を使いすぎたイバラさんがぶっ倒れたり、腕が大変なことになってるサホちゃんがもう一方の腕とは言え無理に拳銃を使ったことに対してゼンがお怒りだったり、籠は諦めるとしてもぶっ倒れた二人をゼンと体力の限界を超えたオレとで何とか連れて帰ったり、帰りに森のモンスターに襲われたり、意識を取り戻したイバラさんになぜかチョークスリーパーをくらってオレの命が危ぶまれたり、まあいろいろあったけど何とかサードシティに生きて戻って来られてめでたしめでたしってことで!

 ただサホちゃんの腕は思った以上に重傷だったらしく、フォースシティの医療施設で診てもらう必要があるらしい。今更だけどゲームだからって全ての怪我が薬草で治るわけじゃないんだよな。

「できるだけ早く診てもらった方がいいのですが、そのまま行くのは危険です。出来る限りの応急処置はしますので、とりあえず今日はうちの宿でゆっくり休んでください」

 確かにすぐに出発するにはオレ達はボロボロすぎだよな。今ならスライムにだってやられる気がするので、宿の主人の厚意に甘えることにした。


「すぐにパニックになるのは悪い癖だ」

「はい」

「あともっと体力をつけるべきだな」

「わかってます」

「判断も甘い」

「おっしゃる通りでございます」

「それから余裕があればもっと周りを見るように」

「善処します」

 口は禍の元。先人の言葉は偉大だとオレは今まさに実感しています。


 食事も終わり後は寝るだけという状態で、珍しくゼンが今日のオレの機転を褒めてくれた。それに調子に乗って、つい、ぽろっと、言ってしまったのだ。

「まあまだまだ反省点だらけだけど、オレ今日めちゃくちゃ頑張ったよな!」

 って!

 それから反省点が出てくる出てくる。これ明日出発できるかな? 精神の方がガンガン削られてるんですけど。

「もしものことを踏まえて、先の事を想定して動くことも覚えろよ」

「先の事と言えば! ヒカリちゃんって仲間になってくれるんだよね!」

 かなり強引だったが、とにかく話題よ変わってくれ!

 ゼンはまだ言い足りないのか微妙な顔をしていたが、どうやらオレの話に乗ってくれるようだ。

 よかった、本当によかった!

「まあ順当に行けば来てくれると思うがな。元々勇者のパーティメンバーなわけだし」

「けど、ここまでの旅って大分イレギュラーが多くない? 元勇者が襲われたりサホちゃんが仲間になったり」

「あのな、元勇者の事は確かにイレギュラーではあったが、それ以外は特にイレギュラーでも何でもないぞ?」

「えぇぇ?」

 ゼンの言葉にオレは首を傾げた。どういうことだ? オレの見た攻略サイトがガセだらけだったのか?

「あのなぁ、お前は勇者じゃないんだぞ?」

「んん?」

 ゼンの言っている意味がいまいちよくわからなくてアホの子のような顔をしていると、呆れたように溜息を吐かれた。これはオレがアホなんじゃなくてゼンの説明が悪いんだと思うんだけど、オレにはそれを声に出して言う勇気はない。

「お前の名前は?」

「藤堂トキでっす!」

「その前は?」

「? 前世でも藤堂トキでっす」

「アホ。その間だ、あ・い・だ」

「間? ……あ」

「やっと気づいたか。お前は元々村人Aなんだよ。だからお前が見たっていう勇者用の攻略サイトには当てはまらないわけ。お分かり?」

「なるほど!」

 道理で想定外のイベントばっかり起こるわけだ。なんかめちゃくちゃスッキリした気分!


 ……ん?


「ゼンってナ……じゃない、イベントキャラなんだよな?」

「そうだな」

 危ない危ない、危うく『ナビ』って言うとこだったわ。

「じゃあこれから起こること、全部知ってるわけ?」

 オレの質問に対して、ゼンはニヤリと意地の悪そうな顔をした。


 オレはゼンについて、最初はオレと同じように前世でこのゲームの事を知っていて、だからこのゲームのことを『大体知っている』のだと思っていた。

しかし勇者のストーリーを知っているオレが感じていた違和感をゼンは最初から感じていなかったようだし、ここまでの旅のイレギュラーは元勇者が襲われたことのみだと言った。

それはつまりゼンが村人Aのストーリーを知っているということを現しており、普通のプレイヤーであればそれは知ることのない話である。


「その質問には答えられねーな」


 そうだ、ゼンは最初からプレイヤーではないと言っていた。

 つまり、最初からゼンとオレは違うのだ。


「さて、明日に備えてそろそろ寝るか。しっかり休めよ」

「ああ、おやすみ」

 この時なぜかオレは自分の知っているストーリーと全く違う展開が待っているという不安より、結局ゼンもただのゲームのキャラクターの一人だったのかという寂しさの方が圧倒的に大きくて、自分でもくだらないと思いながらその沈んだ気持ちを上手く消化することが出来なかった。

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