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少女たちの秘め事

 泣きながら何度も頭を下げた宿の主人は、それくらいしないと気持ちが収まらないからと言い宿泊及び夕食代をサービスしてくれた。トキたちも最初は遠慮して断ったが、あまりにも主人が折れないためそのお言葉に甘えることにした。

 部屋はファーストシティの時同様男部屋と女部屋に別れることになり、皆で夕食を食べた後それぞれの部屋へと向かった。

「ご主人、良い方でしたね。娘さんも、きっと今まで犠牲になって来た方たちも……。あんな罪の無い方たちを犠牲にするなんて許せません。イバラ様、明日は絶対にダークフォレストの主を倒しましょうね」

「もちろんじゃ」

 サホは相当頭に来たらしく、未だに興奮気味だ。そんなサホに対して、イバラはどことなく元気がない。いつもは気の利くサホも目の前の出来事に気をとられてその事実に気づかなかったのだが、部屋で二人きりになったことでようやくイバラの様子がおかしいことに気が付いた。

「イバラ様、どうかされたんですか? そういえば、体調の方はもう大丈夫そうですか? すみません、私、全然気が利かなくて」

 サホはイバラがサードシティに着く前に戦線離脱していたことを思い出し、気遣うように声を掛けた。しかしそれは逆効果だったようで、イバラはますます落ち込んでしまった。

「あれだけ大見えきって出発したのに、わらわは自分が情けない。きっとトキにも呆れられてしまったじゃろうな」

 イバラのそんな態度にサホは驚いた。出会ってこちら、サホは強気で自信満々なイバラしか見ていなかったからだ。

「サホ程の力があれば、勇者のパーティとして申し分ないのじゃろうな。しかしわらわでは……明日も足手まといにしかならんじゃろうし、大人しく身を引いて村に帰った方がトキの為かもしれんな」

「なっ! そんなことありません! 確かにイバラ様はまだまだ粗削りなところがありますが、確実に成長しています! トキ様も、絶対イバラ様のことを頼りにしていると思います!」

 寂しそうに言うイバラに、サホは全力で否定した。

「サホ……! ありがとう。わらわは勝手なわらわの事情でにサホに冷たい態度をとっておったというのに……。サホにとっても、わらわがいない方が都合が良かったのではないか?」

 サホの言葉に慰められて少しだけ元気になったイバラだったが、素直にお礼だけ言うのが気恥ずかしくてついつい余計なことまで言ってしまい、しまったと思ったがもう遅い。

 言ってしまった言葉にばつの悪さを感じて微妙な顔をしていたイバラだったが、言われた当人であるサホの方は言葉の真意が理解できずにきょとんとしている。

「冷たい態度……ですか? イバラ様の態度はファーストシティのことで未だ私を警戒してのことだったと認識していたのですが……それにイバラ様がいなくなって都合が良いことなんて私にあるのでしょうか?」

 どちらに対しても、サホには全く心当たりのない事らしい。イバラは急に自分だけがムキになっているようで馬鹿馬鹿しくなってきた。

「あのな、今から言うことはあの二人には黙っておいて欲しいんじゃが」

 といっても、ゼンにはすでにバレバレだろうということはイバラにもわかっている。イバラの言葉に、サホは神妙に頷いた。

「わらわはトキのことが好きじゃ」

「え、えええ!? そうだったんですか!?」

 サホはそのことに全く気付いていなかったらしい。ものすごく驚いている。イバラはひとつ頷いた。

「じゃからトキに気に入られているサホが妬ましかった。要は嫉妬じゃ。別におぬしを警戒していたわけではない」

 拗ねたように気持ちを吐露したイバラに、サホはほっと息を吐いた。

「そうだったんですね。私、ずっとイバラ様に信用してもらえてないんだろうなって思って、正直ちょっと悲しかったんです。けど今のを聞いて安心しました」

 そして今度は悪戯っぽく笑って、

「話してくれてありがとうございます。私もイバラ様の思いが通じるよう、出来る限り協力しますね」

 そう告げられたので、イバラはポカンと口を開けて固まってしまった。

「何言って……と言うか、サホもトキのことが好きなのではないのか?」

 イバラの言葉に、今度はサホが驚いて目を丸くした。

「えぇ!? どうしてそう思ったんですか? 確かに勇者様として尊敬はしていますけど、それ以上の気持ちは全くないんで安心してください!」

 慌てて訂正するサホの言葉を聞いて、イバラは安心するとともに自己嫌悪で頭を抱えた。

「ほんとに……サホには何てお詫びをすればよいか……」

「ふふっ、気にしないでください。結果的にこうしてイバラ様と仲良くなれたんですから」

 そう言って嬉しそうに笑うサホに、イバラはほっとしたと同時にいろんな面でとても敵わないと思った。

「サホが恋敵じゃなくて良かった……が、もし今後トキのことが好きになったとしても、遠慮する必要はないからな?」

 そうならないように願いつつ、イバラは冗談交じりにそう言ったのだが。

「その心配はいりませんよ。私、ゼン様をお慕い申し上げておりますので」

 内緒ですよ? とサホは照れ臭そうに笑った。

「趣味が悪いな」

「そうかもしれません」

 肯定的な言葉が返ってくると思わなかったイバラはまじまじとサホの顔を見つめ、一拍置いて二人同時に吹き出した。


翌朝、突然異様に仲の良くなった二人にトキとゼンは揃って首を傾げ、それに気づいた二人はそれぞれ人差し指をひとつ立て、内緒、と囁いて笑いあった。

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