森と共に在る街
サードシティは異様な雰囲気に包まれていた。異様と言っても、人が全くいないわけでも、家が壊されているわけでもない。じゃあ何が異様なのかって?
――BGMだよ。便利な世界ですね。
もうヤバい事起きてるのまるわかりですよ。ってか何このおどろおどろしい音楽! 怖っ!!
「空気が淀んでおるな」
あ、イバラさんおはようございます。ってかそういう表現になるんだ。
「何かあったのでしょうか? トキ様、とりあえず街の方たちに話を聞いてみませんか? 力になれるかもしれませんし」
すぐにそんな言葉が出てくるサホちゃんはなんていい子なんだろう。ゼンなんかあれ、明らかに面倒くさいって顔だろ。
「そうだね。今夜はここに泊まることになるだろうし、宿の人にでも聞いてみようか」
オレの提案に、サホちゃんは嬉しそうに頷いた。
「生贄……」
一言で言えば、そういうことらしい。どういうことかって?
「つまりこの街は、この先にあるダークフォレストの主が悪さをしない代わりに、毎年一人ずつ子供を捧げていて、明日がその年に一度のXデーってわけだ」
ゼンの言葉に、宿の主人は力なく頷く。
「その子供たちはどうなるのじゃ?」
「恐らく、生きてはいないでしょう」
「そんなのあんまりです! どうしてそんな決まりに従ってるんですか!? 子供たちが可哀想です」
サホちゃんの訴えに、宿の主人が悲痛な面持ちで叫んだ。
「私たちだって! ……私だって、従いたくて従っているわけではありません。けど私たちには力がないのです。勇者様さえ来てくだされば……」
最後の方は消え入るような声で言うと、宿の主人は俯いてしまった。
勇者様―、ご指名ですよー?
当然皆の視線は一斉にオレに集まった。デスヨネー。
「あの、顔を上げてください。オレが何とかしてみせますから」
「え?」
オレの言葉に、項垂れていた宿の主人がこちらを見た。
「一応、オレ、勇者らしいんで」
「そこはビシっと言い切れよな」
そう言われても、イマイチ実感がないのだ。あと自分で勇者を名乗るのってものすごい恥ずかしいんだよ。
「勇者様……本当に……?」
宿の主人は信じてもいいものか決めかねているようだ。すいませんね、勇者らしくなくて。
「そうですよ! トキ様は正真正銘の勇者様です!」
サホちゃん、ありがとう。でも彼女は何を根拠にオレが勇者だって信じてるのかさっぱりだよな。オレまだ何もしてないし、サホちゃんより弱いからね。
「そうじゃ! トキに任せれば全て安心じゃ! その主とやらもあっという間に倒してくれるじゃろうて」
イバラさん、ちょっとハードル上げすぎじゃないかな? オレは君と同レベルくらいなんだよ? 最近やっとスライムが一撃で倒せるようになったところなんだよ?
「ああ、すいません! 疑っているわけではないんです。ただあまりに都合が良すぎて信じられなくて……何せ今年は私の娘の番だったものですから」
そりゃあ都合は良いさ。ゲームだもの。
とかついつい思っちゃうけど、この人たちにとってはこれが現実なんだよな。それにオレにとってももう……。
「どうか、よろしくお願い致します。この街を助けてください」
深々と頭を下げた宿の主人に対し、オレは力強く返事をした。
「わかりました。必ず何とかしてみせます」
まあ内心冷や汗まみれだったわけだが。




