DNA兵器 ー日本以外の先進国を崩壊させる最終兵器とは・・・
2019年、日本の南方諸島にC国船が上陸したのが始まりだった。
日本政府は、翌年に東京オリンピックを控えおり、
軍事衝突を避けるため、海上自衛隊ではなく、
海上保安庁の船籍を派遣したのだった。
日本の弱腰を見透かしていたC国は自国艦隊を増強し、
一気に緊張は高まっていった。
沖縄基地の米軍海兵隊はいつでも出動できる態勢を構えているが、
肝心の日本政府の要請がなく、動けずじまいだった。
ヨーロッパは無関心だった。
というより、ロシア・ウクライナ問題、中東問題でそれどころではなかった。
C国に経済依存している韓国など期待できるはずもなかった。
日本国内は「戦争やむなし」という声に埋め尽くされていた。
もし仮に、数年前に安保法案が通っていなかったら、
現政権は倒れ、より軍事色が強い政権が誕生しただろう。
テレビや新聞は国民に冷静を呼びかけたが、
安保法案に反対していたため、
国民からそっぽを向かれ、
主戦論意見はネットで構築された。
それでも、東京オリンピックは無事に終わった。
日本選手団の成績は振るわなかった。
国民の戦意の高まりが、そのままオリンピック選手に向けられ、
選手は、観客の異様な応援で持ち前の力を発揮できなくなっていた。
政府はようやく重い腰を上げ、C国への対策会議が遅まきながら開かれた。
しかし、半年で十数回の会議が行われたが、何の結果も得られなかった。
ついには核兵器の開発という意見が出された。
この意見は耳にした米国は日本政府に冷ややかになった。
米国は日本との協調を主張したが、先陣を切るつもりは毛頭なかった。
マスコミだけでなくネットでも、この会議の無能ぶりに怒りを募らせた。
このため首相は防衛大臣を更迭し、官僚出身の中堅政治家Oを新たに選任した。
Oは長身で、自身の特徴である顎のように意見も性格も鋭かった。
Oは連日連夜、極秘会議を開いた。
以前の対策会議では、軍事政権と呼ばれるのを恐れ、情報を公開していたが、
Oは非公開とした。
出席者の一人はスパイに気を付けているとOを評した。
O主導で政策は決定していった。
「俺が責任を取る」と宣言したため、他の政治家も官僚も口出しできなかった。
そして、政策は決定した。
「・・・・・・5年後を目指し、予算は9.7兆円とする」
Oはこう宣言して会議を終結させた。
2年後、C国は国連安保理に日本非難決議案を提出した。
「日本はDNA兵器を開発している恐れがある」と。
それは日本人以外を滅ぼす兵器だという。
そんな馬鹿なッ!
と普通の人はいうだろうが、
安保理決議は可決したのだった。
「・・・これにより、日本以外の先進国は滅びるでしょう」
一部不明瞭な部分があるが、確かに防衛大臣Oの音声だった。
C国スパイはこの音声を入手し、主要各国に送っていた。
西側先進国は最初は信用しなかったが、
日本の軍事費が9.7兆円に急増したことが明らかになり、
疑心暗鬼となった。
C国はスパイ活動により、その兵器がDNA兵器と特定した。
日本人以外に効くということにも合致していた。
安保理は日本に対しウイルス、病原菌研究所の臨検を要求した。
当然、日本政府は拒否した。
C国は対抗策として軍事費をGDPの30%に増強し、
世界に旋律を走らせた。
日本も機密費を使い、軍事費を増加させていることをC国スパイは掴んでいた。
翌年、C国はさらに軍事費を増やした。
翌々年、日本政府は米国の仲裁で国連からの調査団を受け入れた。
C国が指摘した研究所を臨検したが、怪しいものは何もなかった。
しかし、C国は信用せず、さらに軍事費を増やした。
そして、あれから5年が経った。
防衛大臣OはC国に対し、こう宣言した。
「30日以内にC国が南方諸島から撤退しない場合、
日本はC国との国交を断絶する」と。
その瞬間だった。
市場経済が崩壊した。
株価が大暴落したのだった。
情報に敏感な各国株式市場は、
日本とC国が国交を断絶すればC国経済が立ち行かなくなると察知し、
そうなれば各国経済は大打撃を受ける、と瞬時に反応していた。
OはC国との戦争回避をするため、世界恐慌をしかけたのだった。
ヨーロッパ各国が無関心でいられなくするために。
日本でも株価と円は急落し、
民衆も動揺した。
しかし、食糧、エネルギー備蓄が3年分あるという政府の発表で動揺は静まった。
Oは軍事予算を武器調達にまわさず、食糧やエネルギー備蓄に費やしていた。
兵員の増強は、幕末の土佐藩にならった。
それは「一領具足」だ。
土佐藩郷士は普段農業に従事し、戦の時は兵士になるのだ。
Oは、これを自衛隊に採用した。
農閑期に自衛隊士として訓練するのだ。
この対策は農業問題の解決にも一役買い、食糧備蓄と一石二鳥だった。
また軍事費を流用し、石油生産も行った。
石油を生成する海藻オーランチオキトリウムのプラントを全国各地に建設していた。
5年後には石油輸出国にもなるという予想だ。
これは地方経済に未来を見せた。
世界各国は慌てに慌てた。
各国の圧力により、C国は南方諸島から撤退した。
そして、C国は崩壊すると思われた。
しかし、予想外のことが起こった。
逆に民衆が安定し、親日の風が漂った。
株価暴落で富裕層が没落するのが痛快だったのだ。
また地方出身者にとっては、一時ながら兵隊になり給料を得ることができたのだ。
しかし、日本にとってC国は以前と変わらないC国だった。
Oの戦略は見事に成功した。
将来、総理大臣になることを見据え、優秀なブレーンを揃えていた。
C国スパイに情報が漏れることも想定済みだった。
「世界恐慌になっても日本は崩壊しないさ。
日本人には我慢強さがある。
なんたってあの震災を乗り越えた。
日本の本当の最終兵器は、我慢強さ、さ」
Oは友人のアドバイスを聞き入れ実行したのだった。