【ニコ生企画】閉鎖【お題:シェルター】
-…いつからここにいるのやら。なぜ、ここにいるのやら。
狭い空間。見えない天井。高い壁。冷たい床。孤独。
いつ日が沈んでいつ日が昇っていつ月が出て…それが分からない辛さ。
草木も川も何も無い。辛い。風も吹かない。雨も降らない。何も起こらない…。
食料、飲料。それは十分にある。それは問題ない。問題は、それしか無い事だ。
食事と睡眠以外の時は、うろうろ部屋の中を歩いてみる。数えられる程度の歩数で一周まわり終えてしまう狭さ。歩いたところで何も変わりないのだが、いつでも横になっているばかりでは、辛い。
こんな状況を楽しめる者もいるのだろうか?何もせずに、ただ食って寝て起きて食って寝て、を繰り返すだけの生活に満足できる者がいるのだろうか?聞いたことはないが。
辛い。ここに来るまでの俺は充実していた。毎日が活動的で充実していた。家族を食わせるために一生懸命働いた。暇を見つけて、子供達と遊ぶのも楽しかった。…ああ、孤独が何より辛い。
誰かに寄り添いたい。誰かと心を通わせたい。
そうだ。心を通わせる相手が無いのが、辛い。孤独が辛い。
部屋は、天井は、壁は、床は、食料は、飲料は、俺と心を通わせない。それらはそれらなりに、生まれた理由を全うしているのかもしれないが…その心は俺には伝わってこない。
俺はただ部屋に在り、天井を見上げ、壁を眺め、床を踏みしめ、食料を食べ、飲料を飲むだけ。それらは決して俺に語りかけてきたりしない。辛い。
辛い。
…まあ、しかし、こうなったものは仕方がない。ここに押し込められた理由もわからないが、生きているだけマシという考え方もある。辛い辛いと繰り返しても何も変わらないのだから、自分のすべき事をしよう。
食べて、飲んで、眠る。生きるために。生きてここを出るために。それしか出来る事は無いのだから、それが俺のすべき事なのだ。
…ああ、いつからここにいるのやら。なぜ、ここにいるのやら。俺は。
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-…いつからここにいるのやら。なぜ、ここにいるのやら。
そんな事を考えても仕方がない。僕は既にそれを悟っていた。
ここに来るまで平和に穏やかに生きてきた僕は、この狭い空間で、かつてない経験を嫌というほどした。見たこともないものを見た。人の死。恐怖。無縁だったそれらと何度も何度も向き合った。
最初は、死なないためにここに入ったはずなのに。
アパートに突然黒服の人が来て、戦争が起こるからシェルターにお入りなさい、と言われたのだ。どうやら隣の人も、その隣の人も言われたらしく、半信半疑のままでみんな黒服の人について行ってみた。戦争なんて現実味がなさすぎて、その人について行く危険もまた現実とは遠かった。それまで平和に暮らしすぎていたのかもしれないな。平和ボケというやつだ。自分にこんな危険が起こるなんて想像もしなかった。
黒服は、この部屋に一ヶ月も入っていれば十分だ、と言った。僕はどうせ仕事もしていなかったし、まぁ何かの秘密実験だったとしても、一ヶ月タダで暮らさせてくれるならいいと思って素直に入った。治験みたいなものだとしたら、ひょっとしてバイト代とか出ないかな、とか思いながら。本当に戦争だとしたら、どうなるのかな、とか思いながら。
二十人ほどがひと部屋に収まっている中に、同じアパートの人たちがいることに安心した。彼らと「他に何部屋くらいあるのかな」とか「戦争だったらどうなる」とかを話して、20枚ちょうどあった毛布をかけて、とりあえず眠った。
悲鳴に飛び起きると、一人死んでいた。
人の死。恐怖。無縁だったそれらと僕は向き合った。
逃げようにも、シェルターの扉は固く閉ざされていた。やっぱり何かの実験だったんだ。でなければ、こんなことは起こらない。誰がどう得する実験なのか分からないが、そんなことはどうでもいい。
…ああ、いつからここにいるのやら。なぜ、ここにいるのやら。あんなものが。
その時僕は、実際には一度も見たこともないものを見た。テレビでは何度か見た…一頭のトラ。
奴は僕らを食料と飲料が合わさったものとしか思っていない。言葉も心も、通じようはずもない。
逃げなければいけないのだろうに、ここはシェルター。閉鎖空間。
二日に一度、減っていく。