とある物語の終わりにて
国で最も人気のあるカフェレストラン「エルキリエッテ」
味の魔術師と言われた宮廷料理人、キリエ・メッザルーナが経営しているお店で、オープン初日から人が絶えず予約は最低でも三ヶ月待ち、そこで食事をしたことが一つの自慢になる位だ
店内は明るくモダンな雰囲気で、窓からは大きな湖が見える、特に晴天では日差しがキラキラと反射して輝き照らす、さらにその向こうには有名な山々がそびえ立ち、絵画のような風景を見ながら、新鮮で味豊かな料理を楽しむことができるのだ
今はお昼を過ぎてお茶会の時間帯、そしてお茶会のオススメメニューは最高級ミーカ産の紅茶と三種の果物のケーキとなっており、必然と入れたばかりの紅茶の香りが辺りを包み心を穏やかにさせる
いつもなら騒がしい時間だが今日は特別で最も見晴らしのよい席に座っている客が貸し切りにしたために静かだった
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「ごめんなさい」
一人の女性が四人の男性に謝る、そして顔を上げ、いかにも申し訳なさそうな顔をして言う
「私、好きな人がいるの」
「そ、そんな、何かの間違いだろう?」
「や、止めてよ、冗談がきついよ~」
先程までの幸せな逢い引きから一転、自分達が振られるなど予想もしていなかったのか、慌てふためく男達
それはよくある痴情のもつれ、強いて違いを挙げるなら、女の方は傾国の美女と例えられるくらい美しいことと、四人の男性もまた釣り合う程に顔が優れていてそれに似合う地位も名誉も持っていることだろうか
いや、持っていた、といったほうが正確かもしれない
「間違いではないわ、今までとても楽しかった、だけどもう私と貴方達は終わりにすれべきだと思うの、でも安心してね、次の世界でも仲良くしよう」
女の言動には、たまに理解しづらい時があった、しかし不思議と気にならなかった、それに今はそれよりも聞くことがあった
「な、なぜ急に?俺達は君をこんなにも・・」
男達は愛の囁きを紡ぐが、一方の女性はその話に飽きたかのように遮り、別の話題をふる
「ねぇ、そういえばエルマン君はどうしたの?」
話に出てきたエルマン、彼は王国でも有数の武家の子息で、若くして国が誇る師団の副団長しを務める軍人だ、しかし先の戦場のに出兵後、行方不明になっていた
「か、残念ながら彼なら戦死したという報告が」
「あー、そっか、死んじゃったのね、あんな杜撰な軍の構成じゃあ負けちゃうのも仕方ないね、君のせいだよ、反省してね」
「っ、それは・・・・」
言われた男は何も言い返すことができない、彼は宰相の息子であったがそれでも軍を作ることはできない、しかし、配属予定の人数を秘密裏に弄ることは可能であった
「ま、おかげでこの剣を手に入れられたんだけど」
そう言い、腰に差してある剣を抜く、剣の名は、天空剣クラウソラス
その一振りは聖書の一説によると、ありとあらゆるものを切り裂くといわれ、その昔、父なる神がお与えになったとされる最近まで存在すら疑われていた伝説の神具である
そう、彼が軍から人を徴兵したのも目の前にいる、この女が戦時中にも関わらず、探索したいなどといって兵を希望するから
殺意に近いほどの怒りが沸く
しかし、不思議とその気持ちは無くなっていき、彼女に嫌われたという不安と悲しみが大きくなる
「確かに、親友を失ってしまった、でも、そのおかげで君が愛してくれるならそれで良かったよ」
彼にとって、彼女に好かれるためなら何を失うとしても惜しくはなかった、歪な愛である、しかし女性は嘲笑うかのように否定する
「愛している?そんなわけないじゃない」
こんな顔の彼女を見たことがなかったためか驚く
「お金も地位もなくなってしまった、婚約者だって捨てて私を選ぶ、そんな貴方達の取り柄は顔だけよ、ま、私を好きでいてくれたのはうれしかったけど」
事実、彼らはかつては地位も名誉も持つ将来有望な男達だった
「俺は君を愛してる、君さえいれば何もいらない」
例えば今、話しかけた男は有名商家の長男だ
将来は家を継ぐことが決まっており、外見も非常によく、優しそうなその目に心を奪われる女性も多かった
しかし
彼女に傾倒するあまり家の財を無断で使い込み、大損害を与えた
終いには、怒り狂った当主により家を追い出されて貴族の名を剥奪されてしまう
他の三人の男も似たような境遇だろう
「だから、もう終わり、ね?そうしましょう」
男達の顔には、激怒か、哀愁か、諦めか、どれとも分からない表情を浮かべる
「じゃあね♪」
女は男達に向けてをふった、その瞬間、空間に裂け目が生じる、それは女と男を分けるように広がり、さながら壁のようになっていく
「ま、待ってく、、、」
男達は手を伸ばすが見えない何かに阻まれ触ることが出来ない
そして
男達の声が届くことはもうなかった
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国を崩壊させ、誰とも恋仲にならず裏切るルート
通称、破滅エンディング、女にとって誰にも愛されず終わるのは自分のプライドが許せなかったため、一回もそのエンディングを迎えるつもりはなかったが、とある助言によりそのルートを今回だけは進むことにしていた
「そういえば、いつもならあの女神が来るのに今回は来ないわね、ま、いいけど」
もう女の頭には先程の男達のことはないようで、これからのことを想像しながら楽しんでいた
「あー、結局、王子様は落とせずか、まさかあそこでフラれるとかないわー。多分、今頃は敵兵士に夜襲かけられて死んでるわよね。何回やらせんのよ。もう次こそは王子様をゲットしなきゃ。そして次ルートで解禁になる帝国の隠しキャラも落としてあげる」
両手を空に上げて高らかに叫ぶ
「目指せ、私のハーレム!」
そんなことを思いながら、女は次の物語へと歩みを進める