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ああ、神よ、さいは投げられた

「ここは・・」


意識ははっきりとしない



暖かく柔らかい感触が頭に伝わる



ゆっくり目を開けるとそこには女性の姿がぼんやりと見えた


「レミ?」


無意識にとある人の名を呼ぶ、もう二度と会うことのできない懐かしい名を


だがよく見るとそれは全くの別人であった


「申し訳ございません、私の名は女神セレスティアと言います」


そう答えた女性はこの世のものとは思えないほど美しく神々しい雰囲気をまとっていた


セレスティア、あまり聞かない人名であった。確か昔に読まされた聖典の中に出てきたような記憶がある


六神の一人、運命を司る女神だったか?


注意深くよく見ると彼女からは白い翼が生えていた、翼を持つ種族はいたがここまで美しく幻想的でない、まるで天使のようといっても過言ではないソレに心を奪われていた


天使がいる・・・・ということはここは天国だろうか、数秒の沈黙の中でそう判断する


そうか、俺は死んだのか


別に驚きはない、最後の記憶が正しければ致命傷を何度となく受けたはず、死んでしまうのは当然の結果だろう、気掛かりだったことを尋ねる


「すまないがリーゼンハイムの国の政治家、いや宰相と殿下はどうなったか分かるだろうか」


女神は微笑みながら答えた


「ええ、貴方の死後、指揮官らしき人物が駆けつけて救出しておりました」


よかった


さすが師匠、俺も無駄死にではなかったということか


「しかし、その後は思わしくありません、恐らく、貴方の居られた国は・・・・」


「そうか」


仕方がない、残念だが死んでしまった以上、どうも出来ない



暫く沈黙が流れる


冷静さを取り戻した俺は膝枕をされるのも恥ずかしくなり頭をあげ起き上がり、周りを見た


「見渡す限り、自分しかいないが俺に何か用でもあるのだろうか?」


この広い空間には俺一人と女神しかおらず、他には何もなかった、今回の戦では多くの者が死にこちらに来たはずだ


「ええ、その通りです、ですが」


そこで女神はにっこりと笑う


「まずとある話をしましょう、よろしいですか?」


女神の意図が読めなかった、だがもはや自分は死んだ身である、さしあたって、急いでいるわけでもないので話を聞くのもよいだろう


そう思い黙ってうなずいた


「では、はじめましょう」


そうして聞いた話は、自分の想像をはるかに越えるこの世にまつわる途方もない話だった


まず世界とは無限にあり、父なる神とその使いである彼女らが管理していること


世界が消滅しかけた場合、様々な手段を用いて助けている


今回も別の世界が危機に陥ったために、そこの住人の人間に力を与え、世界は無事救われた


ところがその後その住人は女神の力を奪い、元いた世界を抜け出して、とある一つの世界の管理権を盗み干渉出来なくさせた


困ったことに、女神を強制的に従えて、その世界の事象をも自分の好きなように作り替えてしまった



その世界では魅力の魔法で自分に男を惚れさせて、無事、上手く行くと過去に戻り同じことを繰り返してるのだという


その結果、その世界は幾度となく滅茶苦茶にされてしまっているそうだ



それを聞いて、俺は違和感を覚えた


その話はまるで・・・・


「まさか、その世界というのは」


「そうです、この話は貴方がいた世界です」



国を破滅させたとも言える女

俺は同じ学校で、それも同期で面識もあった


確かに美人ではあったがそこまでのものか?と疑問に思っていた


周りの男達も狂ったかのように傾倒していたが、そういう理屈だったのか



「納得が言ったよ、皆が正気じゃなかった、だが世界は繰り返されてきたってのはどういう意味だ?」


「言葉通りの意味です、女、ここではプレイヤーとしましょう、そして期間はそちらにある育成機関入学からスタートし長くて戦争中盤までです、それが終わると共に初めに戻ります」


率直に思ったことを聞く


「な、なんのために?」


「青年よ、貴方には好きな人は居られますか?」


女神はそんな唐突な質問を聞いてくる


「ああ、だが今の質問とは関係はないのでは?」


「通常なら限られた人としか愛し合うことはできません、が、もし人生を繰り返すことが出来るならば・・」


そこで女神は言葉を切ったが、その続きは安易に想像できた


背筋が凍る

何回も世界を繰り返す、それもそんなことのために?



「狂ってる」


「己が野望のため、プレイヤーはこの世界を都合のいいお伽噺に作り変えたのです」


そのせいで俺達はこんな仕打ちを受けてきたってことか


「さしずめ、俺らは主人公にとって物語の住人ってわけか」


皮肉で言ったつもりかがどうやら当たっていたらしい


「鋭いですね」


「物語の人物には役割がありプレイヤーもそれに従っています、といっても何度も繰り返す内に侵入者の力は増大し、制限はなくなってきていますが」


ふと青年は疑問に思う


「てことは、もしかして俺にも何か役割でも?」


冗談でいったつもりだったのだが


「その通り、貴方は家の力を使い様々な情報を得てそれをプレイヤーに与えるという役割がありました」


確かに、俺の家はそこそこ大きく、傘下の者から色々な意見を聞くことが出来た


実際、あの女に男性絡みで情報を教えたこともあった


それが決められていたことだと知ると腹が立つ


「そして情報屋は物語の進行上、恋愛対象とはなりえてはいけない、言い換えれば能力が効かないようなのです」


ふむ、裏方は裏方に徹しているということだろうか、俺があの女を好きになれなかった理由はこれなのだろう


「つまり、貴方は恋愛対象人物でもないのに物語性には欠かせない、そんな特殊な立場のサブだったのです」


俺は謙遜して否定する


「そんな、俺はどこにでもいる出来損ないの中流貴族の馬鹿息子さ」


「ふふ、大切なのはここからです、今回も物語にのっとり進んでいましたが、彼女はある間違いを犯してしまった」



「間違いだと?」


「ええ、この世界を繋ぎとめる楔であった攻略者達を、一人も愛さないで物語を終えてしまったのです、プレイヤーである彼女が基盤を壊したことにより、歪みが生じ、結果として貴方の魂は昇華したのです」


「魂がし、昇華?」


「ええ、分かりやすく言うと貴方はサブキャラにしてプレイヤーと同じ権限を持った、ということです」


青年は難しいながらも、なんとか理解しようとする


「ぷれいやーと同じ、そういえばぷれいやーとはどういう者をいうのだろうか?」


「プレイヤーは運命として定められた事象に干渉して世界のいく末の選択を選ぶ事ができる特権を持ちます」


「ぷれいやーは自由に世界を動かせるってことか?」


女神は首をふる


「それだけではありません、スキルツリーという個人に決められている魂の限度を強くすることができるようになりました」


青年にはもう何を言っているのか、さっぱり分からなかった


「すまないが、すきるつりー、とは?」


「人の才能は最初から決まっています、しかしこのプレイヤーは世界を繰り返すたびに、あらゆる才能を好きなだけ伸ばすことが出来ます」


青年は興奮したように問う


「ほう、俺もすきるつりーを手に入れたということは天才になれる、ということか」


女神は肯定する


「ええ、しかしサブキャラであるために伸ばせる才能と延び幅には限度があり、いくらプレイヤーと同数の世界を繰り返してきたとはいえ、その幅は微々たるものです」


段々と青年も今の状況を理解してきた


だが肝心な内容、青年にとって一番聞きたかった質問の答えがまだ謎のままだ


「俺が他と比べ、特殊なのは分かった、しかしどうしてこの話を?」


ここで、話が途切れる。女神の顔が緊張の趣きになった。


つられてこちらも緊張の度合いが高くなる。


沈黙の後、女神は告げた。


「プレイヤーでもある青年よ、この世界を一緒に救ってください」


「他の人では駄目なのか?」


聞いたところによると確かに俺は特殊なのだろう、だがこんな落ちこぼれのクズよりももっとふさわしい人がいるのではないか、そう思い尋ねる


「はい、この世界の事象に自由に働きかけられるのは物語のプレイヤーのみ、つまり貴方だけです」


女神の言うことをまとめると


プレイヤーである女性は、当初こそ一人の男性と結ばれ問題なく世界が終わったが、最近では暴虐の限りを尽くし必ずといって多くの人を不幸にし私欲のために動いた


それだけではなく


今回の繰り返しでは世界の基盤を壊すという大きな過ちをしてしまう


その結果、物語を繰り返させる力が失われてしまった


青年がいた世界はそのうち止まり、次も同じように過去に戻って物語が始まるが


物語は今までとは似て非なるもので二度と繰り返されず、これが歴史として決定されてしまう



言い換えれば次の歴史さえ上手くいけば、今までのことはなかったことになるらしい



「私が後に起こるであろうことを予知し伝えます、貴方はそれに対して行動を起こして下さい」


「ふむ、次の世界では実際にどうすればいいのだ?」


恐らく、何かをすればいいのだろうが、目的が分からないことには、どうしようもない


「リーゼンハイム国が滅ぼされない、さらにいえば繁栄していることが条件です、理由は言えませんが、王国の滅びることが世界が滅びるきっかけにつながっています」



女神はもう一度、青年に質問をする


「貴方の、そして私たちの大事なものを一緒に救ってくれませんか?」


青年は考えてみる



青年は目をきつく閉じる


そして、小さく一言つぶやいた


「俺に出来るだろうか」


青年はすぐにでも提案を受け入れたかった、そうして世界を救いたい


でも、青年は不安だった、ちっぽけな自分が世界を救えるのか


そして、青年は怖かった、また大事な者を失うかもしれない


いや、女神の言うことが正しければ、次にもし失敗すれば自分が殺したも同義ですらあるのではないかという事実に


あまりに壮大すぎて考えが纏まらず、そんな一言が口からでてしまったのだ


女神はそんな青年をそっと抱きしめる


「分かりません、貴方は本来なら不可能であろう決められた運命に抗うことが出来ます、しかし、それゆえに、大きな試練と困難が待ち構えていることでしょう」


女神は続ける


「言うならば、これもまた選択です、貴方の望むべきことをすればよいのです、どのような結果になれ貴方を恨む人などいないでしょう」


青年と目を合わせる


「神はいかなるときも貴方を見守っています」


青年は自分に問いかける


無念に死んでいった者たち、彼らを救えるかもしれない、あの当たり前だった日常が帰ってくるかもしれない


いや違う、俺が掴みとり


そして


取り戻すんだ


「女神様、決めました、俺は、、、」




~~~~~~


青年が去った後、どこからか少年が姿を現し、近づいてくる


「うわー嘘ばっかり、本当に大切なことは言わないんだね」


先程までとは別人のような冷たい笑みで答える


「あら、いたのですか?盗み聞きとは趣味の悪い」


少年は少し笑いながら


「くく、そんな顔しないでよ、情報を持ってきたんだ、空間の神エウレスは異界の民を一人呼び込んだらしい、戦いの神ドードレアに至ってはなんと自分を武器に封じ込めて下界に降りたそうだよ」


女神にとって、だいたい予想どおりだったため、驚きもしなかった


「そうですか、あやつらならそれ位、当然ですね、さて貴方はどのように力を使ったのですか?まさか、この崩壊の危機に何もしてないわけはないでしょう?」


少年は自慢するように答える


「僕は、えーと秘密、言わないことに意味があるんだ、ごめんね」


散々嗅ぎ回った上に、あきれたとばかりに女神も皮肉を言う


「何も言わず秘するとは、これはまこと真実と嘘を与える神らしからぬことですね」


少年はまずいと感じたのか話題を変える


「それともう一つ、全知全能の神である我らが父は大罪神である愛を司る神ミラールを廃神とし、新しい、、」


その話は女神は途中で遮られた


「ありがとう、でもその話は、、、、聞ききたくない」


女神の怒気の含んだ声に少年は少し焦り謝る


「ご、ごめんよ、気分を悪くさせる気はなかったんだ」


女神は気付いていた、少年は口は悪いが自分を思いやって訪ねてきてくれたことを


大人げないなと反省しつつ話しかける


「ふふ、気にしてないわ、さて、他のお話しも聞かせて、貴方が持ってきてくれた御菓子でも食べながら、ね」


機嫌が戻ったことに安心した少年


「ちぇ、ばれちゃったか、ん~、他の話し、それなら・・・・」


話しは続く




しかし、女神は話ながらも先程のことを考えていた


どうか、願わくばあの青年に幸あらんことを






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