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青年の後悔

恐らく文章になっていません、大変申し訳ありません

ここは辺境に位置する街


自然豊かで木々が広がる表通りには多くの店が構えており、一日を通して人声が途絶えることのない活気ある場所である


冬になり少し寒さが増してきているにも関わらず、店の売り子達の声がひっきりなしに聞こえてくる


年越しに備え、買い込む客とお店の商売人が見える


そんな平和な雰囲気を漂わせる大通りを少し外れた細い路地。そこには逃げる一人の男と、それを追う者達がいた


ーーーー



「絶対に逃がすな、やつはここで何としても殺せ」


追う者達のリーダーらしき人物が叫ぶ声が聞こえた。と同時にすぐ後ろで鳴り響く爆音。上司の怒声を聞いた部下は武器を構えて襲いかかってくる。


だが


「遅い」


そこそこ剣に覚えのある自分にとって、雑兵程度のそれをかわすことは造作もなかった。


敵は前から後ろから、わらわらと出てくる。


「くそ、ここでくたばりやがれ、死にぞこないの国家反逆者め」


そう言い放ち、目の前に立ちはだかった敵にも流れるような動きで捌いていく、今は構っている暇すら惜しい、俺はひたすらに目的地を目指し路地を抜ける


「悪いな、まだ死ぬわけにはいかない。」


「うぅ、くそ、この薄汚い(からす)め」


切り裂いた敵の一人がそう言い残して、事切れた


烏、それは軍内での自分達が属する諜報機関に対する蔑称である。国の上層部しか知らないはずの自分達を知っているということは、敵は恐らく・・


「今はどうでもいいか」


一瞬で張り巡らせた思考を止める。生き残ること。重要なのはそれだけだ。


そうして走っていると少し広い路地に出た。


目の前には多くの敵。俺は囲まれていた。


「よし、誘導成功だ、複数人でかかれ」


なるべく敵と遭遇しないように道を選んで逃げていたが、読まれていたらしい


そこには先ほどまでの軽装兵ではなく鎧兜を着込んだ重装備をした敵兵も待ち構えていた。まずいな。


「もう逃がさんぞ」


そうこうしているうちに追ってきた後ろの敵も合流する


「敵は第三王子の小飼だ、手負いとはいえ、取り囲んで数で圧倒しろ」


追い付いた敵リーダーが前方の仲間にも指示をだす


今更、後ろに戻ることは出来ない以上


「前に進むしかないか」


先手必勝。囲まれる前に一人に照準をあわせ斬り込む


「この売国奴めが!」


大振りな獲物から繰り出されるその一撃、食らえば無事では済まないが俺の目的は逃げることだ


剣の面部分で受け流し衝突を防ぐ、と同時に相手を振り切り前に逃げていく、重量があるため小回りがきかず隙が出来る


「逃げるのか、卑怯だぞ」


多少広いといっても、ここは所詮、狭い路地。この人数にそんな重装備では思うように動くことが出来ない。


行ける、そう確信した俺は道を塞ぐ前方に向かって走りだした。


「ふふ、甘いわ。ものどもアレを使え!」


「イエッサー」


何か来る、号令がかかった瞬間


「うっ、」


肩に鋭い傷みを感じた、振り返り見ると氷の刃が突き刺さっていた、目を遠くに向け放った相手を確認する


「あれは魔法師か」


数にして三人。熟練の魔法師は一人で師団一つに相当する戦力を持つ。魔法の源となる魔力は全ての生き物に流れているけれどそれを行使出来るほど持つ者は少ない。それを三人も。敵も本気ってことだな。


全員が次の詠唱に入っているのが確認できた。


不味いな、こんな狭い道では逃げ場がない


「ちょこまかしおって、だが取り囲んだ以上、もう逃げられんぞ」


追い付いた敵のリーダーはしたり顔で笑う。前方には、さらに増えた軍団兵。後ろには一騎当千の魔法師。確かに一見すると絶対絶命の状況。


しかし、俺は焦る必要が全くなかった、なぜなら


「作戦通りだな」


「貴様、この状況で何をいってい、」


その後の彼の言葉が紡がれることはなかった、突如して魔法よりも恐ろしい鉄の玉が敵に降り注いだからだ。


「隊長!」


「な、なんだ!何が起きている?!」


「攻撃されているぞ、魔法か?」


その正体は鉄玉と呼ばれる高速で打ち出される金属の弾だ


遠距離攻撃において魔法が主流と言われるこの時代において、それ以外の遠距離方法はほとんど知られていない


だからこそ、俺の隊では研究し開発してきた


それは原理は簡単だが、取り扱うのは魔法以上に難しい


「う、うわぁ、助けてくれ」


「みな、撤退だ、逃げろ」


不様な姿を晒しながら物陰に隠れようとする敵兵、こうなってしまえば簡単だ、逃げ惑うものを殲滅していくだけだ。



「く、くそ、あれだけの人数を・・、化け物め」


最後の一人を殺す、これで追跡者を撃退出来ただろう。俺は剣をしまう


「油断をするな、グレイス、武器は構えておけ」


そこにこの惨状を作り出した人物が現れる


「裏方のお前が出てきたってことは安心してたんだが?」


「ふんっ」


部下の一人で信頼の置ける実力者だ、そして、この場所は有事の際の合流地点としており、それに付随してある程度のことは話し合っていた、例えば敵に襲われたらとかな


「で、状況はどうなっている?」


お互い時間がない、無駄話も切り上げ本題に入る


「こちらは最悪だ、敵により第一門城はこじ開けられた」


「他の者は?」


「ルーベンスと数名が城砦に籠り、およそ5500人の敵を引き寄せている内に我々は逃げ出してきた、向こうは今頃は、、、」


途中で言葉を止める、あの城はあくまで見張りとして建造されたもので籠城するだけの設備はない、大軍に囲まれたとあっては生存率は限りなく低いだろう


「そうか、ご苦労だった、こちらも似たようなものだ、密命で出掛けていたのだが不意に襲われてな。左腕を犠牲にして、なんとか、命からがら逃げだしてきたところだ」


「満足に止血も出来ていないじゃないか。こっちにこい!」




「全く、本当に手がかかる。で、この次はどうすればいいんだ、隊長さん」


「殿下と合流する」


目的地にむかった。


俺たちは先ほどいた場所から地下におりた。初代皇帝が帝国に地下を作った。今では下水道が存在している。初代のころは下水道という概念がないため、どういう目的で造ったのか今となってはわからないが、そこには広大な土地が広がっており、何も知らぬものなら一度降りたら二度と出てこれまい。帝国の上訴部でも主要な道筋しかわからないときている。しかし、非常時を考えて道筋を調べていた。


まさか、こんなに早く使うことになるとは想像していなかったがな


少し歩き、目的の人物と合流する。


特徴的な銀髪、それは王族の血筋の証。われらが主だ。


「おお、無事であったか」


「殿下もお変わりなく。通路の先では我々、親衛隊と第四機構師団の者が待機しております。」


「さすがグレイス、頼りにしている」


「勿体なきお言葉、感謝します。」


「それでは、近況を聞かせてもらおう」



ーーーー


状況は絶望的だった


今、我が国リーゼンハイムは隣に位置する武力国家ミゼルによって攻め込まれている


主だった防衛地点の多くは陥落し各地で内戦が勃発、かろうじて国の要である王都、及び幾つかの大都市は無事であるものの敵の手に落ちるのも時間の問題であった


本来であれば、簡単に基盤が揺らぐような小国ではない、そもそも先進国の一つであるリーゼンハイムを無闇に攻める国など存在しえない


はずだったのだが



たった一人の女性によって、この国は狂ってしまった


それは傾国の美女と呼ぶにふさわしい美貌を持つ女


一部の例外は居たものの、余多の男は彼女の虜となりその気を惹こうと行動した


そして、彼女が求めるまま全てを投げうったのだ


それがもし一般人だけならば、ここまで大きな被害はなかったかもしれない


なんと驚くべきことにこの国の中枢を担う人物達までもが周りを省みず、行動し始めてしまったのだ



商いをして財ある者は湯水の如く、私用で財を使い目的のために市場を狂わせて

民を護るべき者は兵を使い勝手に争いを始め

人々の信仰を集める者は信仰を忘れ、宗教を己のために世俗的に利用して

国を導かねばならぬ者はその権力を振りかざした。


かの女性を自分に振り向かせたい、ただその一心で


皆、正気の沙汰ではなかった。そしてその暴挙の結果


戦時中だというのに国軍はまともに動かないどころか、上の者の度を越えた散財により警備隊すら解散されたために犯罪が蔓延り


経済体制がおかしくなったために、食料や生活必需品などが高騰し民の生活は低迷、さらに嘘のような悪法が制定され牢にぶちこまれる人々


耐えきれなくなり善良だった民でさえ犯罪に手を染め、暴動と反乱が各地で起きていた




数年前は高い軍事力と生活水準を誇った大国であった我が国が嘘のように崩れてしまった



そんな狂ってしまったこの国に敵が雪崩れ込むのも当然のことだったのかもしれない



しかし、そんな状況を打破しようと立ち上がった人もいる


我が主君、第三王子もその一人であった


王子は王になることにより、この国を正そうと考えた


最初は他のものに譲る気でいた王やその側近も国の現状を知るやいなや決心がついたようだ


そして、先日、正式に王となることが決まった


国を正す、それはきっと長く険しい道となるだろう


しかし、あと少し、あと少しでその一歩が叶う


そんなときだった


突如として、五千の敵兵が王子の滞在する町へ攻め込んできたのだ、恐ろしいことに自軍の兵すら見受けられた


貴重な将でもあった王子は近々、戦闘になろう場所へ出向き準備をしていた


そのため、既に主力部隊を戦場となる関門に向けており、手元には誰が敵か分からぬ今では信頼できる手駒は親衛隊が二十名程度と軍の古参達、戦うには圧倒的不利な状況


しかし今や、唯一の希望ともいえる王子をこんなところで失うわけにはいかなかった。


そう判断した俺達は多くの犠牲を出しながら裏道を通り、町から脱出してきたのだった


向かうは第三王子を支援している公爵家。




「よし、休憩だ」


食事の時間となり魔物避けの焚き火の近くで飯をとる


城下町脱出後、もう何度目になるか分からない襲撃を迎え、周りの兵の疲労の色は隠せなかい。だが、止まる訳にもいかなかった。



単純な疲労だけではなく、精神的なものも大きかったかもしれない


かくいう俺も、この戦争で多くのものを失った


親友、財産、愛するもの、、、挙げればきりがないだろう


「俺たちはどうなるのだろうか」


誰かが呟く、いつもはガヤガヤとうるさい第四師団の連中も皆、無言だった



そんな兵達を励ますかのように指揮官である師団長たちがやって来た


「戦闘不能者は・・・・いないようだな、ここを抜ければ、後少しだ、この方は唯一の希望、辛いかもしれんが頑張ってくれ」


唯一の希望、それを聞いて兵達もやる気を取り戻す


しかし、王家の者である殿下に対して反乱が起きた、これは武力手段を用いることが行われるほど王家の権力が低下していることに他ならない、無事、戴冠出来たとしてもこれでは上手くはいかないだろう


そう思案していると一人の男が話しかけてきた


「隣いいか?」


その男は二メートルを越える巨体で第四機構師団副団長の肩書きをもつ猛者であり、昔馴染みでもある


「いいぜ、なんだ作戦の確認か」


「それもあるが、お前とこうして飯をとるのは久しいなと思ってな」


巨体が隣の椅子にすわる


「そうだな、もう学生以来か、思い返すとお前んとこの隊長には教官としてよくしごかれたよ」


「まさか、王家親衛隊になっちまうとはよ、てっきり俺らと入隊するものだと思ってたぜ」


「ふふ、幸いにも殿下に声を掛けられてな」


しばらく会っていなかったためか、他愛ない話が続く、途中で急に真剣な顔をした重そうな口調で続ける


「今回の事で多くの隊員を失った、親衛隊もそうだろう」


「・・・・ああ」


報告があっただけでも半数以上の死傷者を確認している、王子を逃がせたのだからこれでも奇跡的な状況とはいえ、被害は計り知れない。


優秀な隊員達、同じ学友もいれば、引き抜きを行いようやく集めた、かけがえのない部下、またあの人材をまた揃えるには何年かかるだろうか。



「失った戦力を補充するために団長もそろそろ引退して若手育成に専念して、その座を俺に譲るらしい」


俺は驚く、師団長といえば軍部の中では総司令官、大将軍に続く偉い地位だ


「いいじゃねえか、出世したな」


「ありがとうよ。それで単刀直入に言うぜ、副団長になってくれないか?」


思いもよらない言葉だった。


「俺は腕っぷしだけなら誰にも負けない。だが頭のほうは、てんで駄目だ。あのときみたいにお前のその力を俺に貸してくれ」


こいつはこんな時に冗談を言うようなやつではない。本気で思っているのだろう。少し考え、そして告げる。


「お前の誘いは嬉しい、だが今は、誰が敵か味方か分からない。殿下のそばを俺が離れるわけにはいかないんだ」


敵軍には隣国である帝国以外に自国の兵が紛れ込んでいた、途中、王宮が押さえられたという報告も受けている、これからのことを考えると人手が足りなくなるのは明白


お互い長い沈黙が流れる


どちらが声をかけようかとしたとき、こちらの方に偵察兵が駆け寄ってきた


「大変です、副団長、敵襲です。」


巻いたと思っていたが追い付かれたか、はたまた別のものか、このまま無事にと願っていたが敵は休ましてはくれないようだ


「分かった、すぐいく、他のものにも伝えろ」


「はっ!」


「俺は先に行く、お前は簡易鎧と盾の準備をしてこい」


副団長ガウス、鉄巨人の二つ名と呼ばれ恐れられているが、その性質上、装備があるとないでは大違いだ


だがそれを拒む


「王子に何かあったら大変だ、なに夜襲を仕掛けるような軟弱者なら大したことないさ」


少し思案して、王子に何かある前に行きたい。


「分かった、すぐ行こう」



俺達は報告のあった場所に向かう、そこでは既に戦闘が始まっていた


「見つけたぞ、前方にて敵あり!」


見た限り、自分達の倍以上はいる


我が国屈強な精兵揃い、さらにその中の精鋭を選りすぐって、しかし、敵の数は見たところ三倍以上はいる、数は力であるこの時代に倍以上の敵兵は状況は異なってくる


「少々、まずいかな」


俺は瞬時に判断する、同じく指揮官も危険と判断したのか命令を下す


「やっと来たか、お前らと師団数名は殿下と一緒にそこの森に入り、事前に決めた安全圏まで待避だ」


ガウスが反論する


「団長、この程度なら問題ありません、むしろ自分達が抜けたら数で負ける我が軍は」


「目的を忘れるな、殿下にもしものことがあったらどうする、それに」


師匠の瞳が鋭くなる


「俺を誰だと思っている?」




殺気を感じた俺達は無条件にうなずく、学園の教師でもあり幾度となくしごかれた


殿下も頼もしそうに言う


「ふふ、頼んだぞ、リベリー団長」


「はっ、」


それを聞いていた敵兵は笑う


「あん?この人数だぞ、逃がすわけないだろ、無能ども」


「うるせぇ」


そういうと金獅子と呼ばれた男が剣を抜く



団長の振るう剣は煌めく軌跡を描き


ソレはまるで生きているかのごとく敵へ食らいついた


敵兵は恐れ戦く


「なんだと、魔法剣の使い手か!」


敵が一瞬怯んだ、そんな隙を戦い慣れた武人が見逃さすはずがなかった


教官のあの構えは、、、閃光剣


意図を素早く察し、護衛人物を誘導する


「行きましょう、殿下、殿は任せたぞ、ガウス」


「りょうかい!」


直後、激しい音と光が辺りを包む


「う、目眩ましか!」


「逃がすな、追え」


敵兵が騒ぐ、そんな声を後ろに俺たちは走り出した


ーーー



森に入り走り続けること幾分、完全に戦闘音も聞こえなくなった、ある程度距離は取れたのだろう


「グレイス隊長、敵部隊を引き離せたようです」


「御苦労」


今はもう暗く視界も悪くなりつつあるために離れすぎると合流するのに時間がかかってしまう恐れがある



「どうする、予定より進んでないがここで待つか?」


ガウスの問いかけに俺は迷う、敵が追ってこないとはいえない、しかし夜の森で深く離れるのも危険だ、この辺で待機するのが得策か


「よし、ここで指揮官と合流する」


そう言い、近くにいた味方の兵に警戒させようとした


が、傍にいたガウスが叫ぶ


「不味い、気を付けろ、狙われてるぞ!」


咄嗟に俺は剣を構え、不意打ちに備える



酷い爆撃音と目映い光が辺りを包む


「くそ、閃光か?!」「な、なんだ、見えねぇ」「ぐう、ぁあ、痛っ!」


味方の赤き飛沫が飛び散る、気配を消す魔法、そしてこの魔法の一斉攻撃、綿密な準備をしていなければまず行えない、まさかこちらの行動ルートが読まれていたのか


この味方の混乱に乗じてすぐさま、襲ってきた


数名がそれに反応して剣を構える、半分以上が目眩ましにやられたが俺達は昔から慣れていた


「今だ、やれ!」


敵が仲間に指示を出した、その瞬間、俺の横を敵かが通り抜ける、しかし、王子と距離があり、その前に次の一手で殺すことができる


しかし、その敵兵が持つ武器、それを見たとき、自分の過ちを知る


その敵は武器を構えていた、それはトホマーク呼ばれる投擲武器の一つ、普段はこのような戦場で使われることは少ない、それが活躍するのは主に暗殺、恐るべき特徴は直線的に放つことが出来るからだ


俺は気付く


王子が直線上にいること、さらに先程の閃光を受け、王子は視界が見えていない


「しまった!」


敵兵が王子に投げ手斧を投げた、この距離では自分では剣が届かず弾き落とすことが出来ない、このままでは間に合わない




その瞬間、何かが殿下を覆い被さるように飛び込んだ、投擲された鉄の塊はその壁により防がれる


「ふんっ!」


それは二メートルを越える巨体、鉄の巨人兵と恐れられたガウスであった。


「お怪我はありませんか、殿下」


「余は大丈夫だ、ガウス、お前の方こそ」


すぐさま、目の前の敵を倒して駆け寄る。




ハルバートはガウスの胸に深々と突き刺さり、背中を貫通していた、致命傷と言われても過言ではない


「ガウス、手当てを」


ガウスは俺の手を遮る


「やめろ、致命傷だ、それにこの匂い、この刃先にはどうやら、ご丁寧に毒まで塗ってあるみたいだ、もう間に合わないさ」


ガウスはよろける


「おいっ、しっかりしろ」


「つい鎧来てるときの癖で体で受け止めちまったよ、こんなことなら・・。まぁ間一髪で救えた訳だし、最後はお前と一緒に戦えたんだ、それでよしとするか」


「すまん、俺がもっと警戒していれば」


「はは、気にすんな、それより・・・、後は、頼んだぜ」


仲間が倒れる


感傷に浸っている暇はない、今の不意打ちにより、ただでされ分断した戦力は大きく減少して、生き残るのがかなり難しくなったのだから


周りを見渡す、必殺の攻撃が失敗したからか敵もこれ以上、捨て身は無意味と見たか一旦、距離を取った


「随分とやられたな」


殿下は無事だが味方の半分が今ので倒れてしまった、どうやら相当手練れの伏兵がいたようだ、恐らく今までの敵とは違う


俺たちを敵兵が嘲笑う


「けけけ、見つけたぜ、王子さんヨォ~、ったく、殺し損ねたか、まぁ作戦通り、金獅子も引き離せたし上々カナ」


ここまで敵の術中とは周り込まれていたか、こちらの行動が筒抜けになっていたのだろう、最悪の場合、間者が紛れ込んでいた可能性もある


「その訛り、帝国ですらないな。異国のものか?」


「そんなこと、今はどうでイイダロ?どうせ、ここで死ぬのだカラ。」


考えても仕方ない、今はこの状況を何とかしないと


敵兵は戦闘体勢に入る


ー、二、三、、、


またも敵兵はこちらより断然多い


数も負けている上にこちらには護衛対象もいる



いくら練度で勝っていても分が悪い


殿下も嘆く


「仮にも我が領地のはずなのに、ここまで敵が忍び込めるとは」


敵兵が嘲笑う


「ハンっ、やれっ手下ども」


やはり、砦を出てからのとは兵の練度が違う、恐らく、ここで仕留める気のようだ


「固まれ、時間を稼ぐんだ」


俺は生き残った味方に声をかける、あちらで戦っている兵が合流するまで十五分はかかるだろう、それを稼げば助けがくる


しかし、数や支えであった将が討ち取られたことと疲労が重なっていたためか、あれよという間に味方がやられ、残るは俺一人となってしまった




「こりゃ、正念場かな」


十名以上の敵に、俺と殿下の二名だけ、さすがにこの状況を楽観視できるほど俺もバカではない


だが諦めるわけにもいかなかった、俺の使命は政治の重要人物である殿下を命に代えても守護すること、そのためにはなんとしても指揮官率いる主力部隊が来るまで持ちこたえなければならない


「殿下、俺の後ろにいてください」


後ろにいた人物は剣を抜き、並んでいた


「ふ、ここまで来て、余は蚊帳の外か、寂しいのう」


「で、殿下、危険です、もし御身になにかあれば」


「あー、やめろ、昔の口調でよい、それにお前まで死んだらもう余に勝ち目はない」


殿下は一回決めたことは決して曲げない、学生時代はよく苦労したものだ


「はぁ、そうか分かったよアレス、後ろは任せたぜ」


「余に任せろ」


敵も口を開ける


「そろそろお喋りはいいカイ?逃げないように取り囲めたからそろそろ殺したいんだケド」


返事の代わりに殿下が言葉を唱える


ーーーセルギニア・フォードーーー


周りに雷が蠢く


「チッ、高位の雷魔法ダト!」




「ちゃんとネラエ、敵は二人、目標を殺せば終わリダ!」


殿下の魔法は一流の魔術師にもひけをとらない、少し時間を稼ぐだけでいい。これならいける。


その時だった。何か冷たいものがゾクリと俺の背中を伝う


俺は師の教えを思い出した、一握りの人間は死の可能性があるとそれを感じとる、死にたくなければそれに従えというソレを


実際、今まで生きてきて何度となく死の瞬間が訪れてきたが、自分の直感を信じるとこにより何度も命を救われてきた


一瞬の刹那、俺は敵への攻撃を止めて、殿下を守りに入るため下がる


「ハッ、死ね」


突如、敵指揮官の持つ剣から蔓のように黒い波動が辺りを襲う


俺は咄嗟に殿下を庇い、手に持っていた剣で蔓を捌く、地面から出た黒い何かは敵味方関係なく動くもの全てを突き刺していた


「なんだ、これは、っく!」


防いだと思った黒いソレは這うように延び俺の右腕を突き刺した、刺された部分を見ると、瘴気が立ち込め酷い痛みがする


「ほう、庇ったか、運が良い、だがこの剣には鬼の呪いがかかっている、それを受けたものは時期に死ぬ」




「それだけじゃない、この呪いで死んだやつは操ることも出来る、こんな感じにな」


そういうと確かに殺した敵が立ち上がる、目は虚ろで生気がない、まるで禁忌とされた死者使いのようだ


「アレス様、危険だ、下がれ」


「だ、だが、あの人数では」


倒した敵、それも味方も操られていた


「もし呪いの一種だとしたらお前にあれを食らわさせる訳にはいかない」


敵の操り人形となる、それは最悪の選択だった。


「だが!」


なお、続けようとする殿下の言葉を手で遮る


「大丈夫だ、安心しろよ」


今のでもう十分、時間稼ぎはしたはずだ、あともう少しで味方がくる。


それに約束したんだ。何があっても必ず守ると。皆の希望を、そして絶望の淵から救ってくれた無二の親友を



「お前には俺の命を懸けてでも、指一本触れさせやしねぇ!」


敵を睨む。今ので敵は奴以外、全員操り人形となった。生きている人間は一人だけ、つまりコイツを倒せば術も止まり戦いも終わるはずだ。


「威勢がいイネぇ」



「時間も余りなさそうだ、まずは確実に仕留めさせてもらう、やれ、お前ら」




ゾンビと化した敵は恐れることなく突っ込んでくる


呪いを受けた右腕は思うようには動いてくれない


「ゴワァァー」


死兵はとても弱かった。しかし、なにぶん数が多い


とうとう、立つことがやっとだった俺は致命傷を食らってしまった


しかし、まだ俺は死ねない。例え、心臓がとまろうとも、何を犠牲にしようとも倒れるわけにはいかないんだ。



それに、熱い。



身体が燃えるように熱く痛んできた、だが熱くなればなるほど不思議と力が溢れてくる、




「アボァぁア」


「うえせえ!」


その熱い何かを叩きつけるように、敵にぶつける。ぶつかった敵は炭と化した。


「なに!魔法が使えたのか」


魔法。それを使役するには特殊な器官をもっていなくてはならず、全体の一%程ほどと言われてる


今さら目覚めたかというのか、昔はあれほど渇望した力。


いや、魔法のの使い方は魔術だけじゃない、肉体強化といったことも出来る。無駄じゃない。それに、色をみてニヤリとした。


「これは、好都合だ」


奇遇にも、この色合いは教官と同じ雷属性、なら!



「攻式四の構え、、」


紫電一閃、多対一に対して有効な師匠の十八番。今までは劣化版だったが、これで本物が使える。


俺は敵の集団に雷撃を纏いながら突っ込む


何人か切り損ねて俺に近づく


「もらった」


が、攻撃してきたものも感電して焼き焦げとなる、これこそが大多数を相手取ることの出来る理由である


「呪いを受け頑丈に強化された兵を黒焦げだと、なんだその魔力量、ば、化け物か」



例え死んでも負けるわけにはいかない。


「来いよ、叩き切ってやる」


「よく言うナぁ、今にも死にそうなくせして」


敵の読みは正しい、なんとか気力だけで立っていたが、正直、もう激痛と疲労で倒れそうだった


だが


俺は目を閉じ、気力を集中する


「ソウゼン流、斬龍の昇り剣」


それは防御を捨てた捨て身の剣、カウンターである


「ふん、諦めたか、望み通り殺してやる」


脱力した構えを降伏と取ったのか。息巻く。


確かに俺は強がったふりはしてるが、もう体は満足に動かない。だが、向こうは攻めでこちらは守り、これこそ返し技の真骨頂だろう。


「ハァ!」


敵が己の間合いに入り、必殺の攻撃をしてくるまで避け続ける、そのため敵の攻撃は当たらない


「一つ良いことを教えてやる、俺の身体は呪いによって守られている、同じの呪いの力でなければかすり傷すらつけれないぜ」


情報を得ると選択肢が増える、がそれ即ち、その一瞬の迷いが命取りともなる、この土壇場で抱かせるとは中々の策士のようだ


この技は近づいて間合いに入らなければならないため、敵の攻撃を避ける


「ハンっ、いつまでも逃げられるとオモうな」


地中から黒い蔓が飛び出し、足に絡み付く


「これでもう逃げれネーナ~」




「そのようだな」


足の身動きがとれない、これ以上相手の攻撃を避けるのは難しい、そう判断し俺は剣を地面に差して両手を空ける


「武器を手放すとは愚かなっ、死ね!」


敵は、今こそ好機と近づいて剣を降り下ろす


損傷した左手を前に出し、やつの刀を受け止める

刀は、いとも簡単に手のひらを突き抜け骨を貫いた


呪いの力とやらは強く、腕を歪に溶かしていく、もう二度と左腕を動かすことは出来ないだろう、今ので勝敗を決したと思ったのか敵は笑みを浮かべる


だが、それは誤算であった


「捕まえた」


これで目論見は果たせた


敵はもう俺の間合い。確実に殺せる最後のチャンス、この機会を逃すわけにはいかなかった



かろうじて残った左手でを呪いの剣ごと、敵の体をつかむ。




そして、呪われた右手で地面から剣を引き抜き、構えた、鬼の呪いは既に身体の右半分を蝕んでいる


さっき奴は言った、同じ鬼の呪いの力でなければ傷が付けられないと


ならば呪われた右手で攻撃すれば効くのではないか、毒を以て毒を制す、それは一か八かの賭けだったが、やるしかない。


「これで終わりだ」



「く、くそ、死に損ないが」


どうも当たりらしく、敵もこのままでは不味いと思ったのか腕にある手工で防ぐ


「はっ!甘いんだよ!!」



掛け声と共に溜めていた今生最後の気力を剣にのせ、そのまま降り下ろす


読み通り、鬼の魔力と己の魔力が混ざりあい強力な一太刀となり相手の身体を切り裂いた


「あぁぁ、こんなところでこの私が、、」


敵が絶命したことを確認すると俺はその場に崩れ落ちた、もうすぐ死ぬのだろうが役目は果たせたからか安堵する、不思議と死が怖くなかった


それを見た殿下が近寄って来る


「おい、グレイス!しっかりしろ!」


「さわ、、んな、、呪われ、んぞ」


「バカが、おーのせーですまなー。」


音が聞こえない、怪我のせいか朧気だ、遠くで人の足音が聞こえる


「大ーーですか、殿ー、ーーー」


「リベリーー、ーーーーーー」


他のやつらが来たようだ、だが敵か味方か判断する余裕は俺にはもう残っていなかった


沢山の仲間が無くなった、自分も理想半ばで散りゆこうとしている。


後悔しかない人生だった。


こうして薄れていく意識の中で願うことしかできない。


大事な仲間たちを、そして愛する人を守れなかった自分が憎い


願わくば、神様、もう一度だけ機会を



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