黒蝶
ひらりとそれは舞っていた
時を止めた冬空の下を
はらりとそれは漂っていた
海風と山颪に吹かれながら
それはまるで黒き蝶
燃やし尽くし 燃え尽きて
風に乗り空へ旅立つ
ふと
ぱしり。幼い手が黒蝶を捕らえる
かさり。僅かな音 脆く崩れて
黒く染まった小さな手
ゆらりとそれは舞っていた
あの街のかけらが舞っていた
冬空の下を
海風に
山颪に
漂わせて
たくさんたくさん 落ちてきた
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震災当時、神戸市内震源地至近の街に住んでいました。小石を水たまりに落としたときの波紋のごとく、私の町は元漁村の田舎だったせいもありますが、他の海側の町に比べればそれほど被害もなく、インフラさえ何とかなれば、普通に自宅で暮らせました。
就職して、神戸出身と言ったら、大体地震どう?と聞かれます。苦笑いで誤魔化します。だって被災生活の中で覚えてるのは正直、ライフラインの回復日くらい。私より大変だった人はたくさんいるけど、当時小2やった私も生きるのに必死やったんやろうな。ただ、発災から3日後に空から降ってきた長田の黒い灰を掴んだときの衝撃は一生忘れないと思う。