表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/62

物たち

「千羽鶴」



私の千羽鶴に 願いは込められていない

ただ『作る』ということに夢中で

『願い』という部分は きっと空っぽ

五十羽ずつ 一色だけで繋げられた多くの鶴たち

千羽などとうに超えて 五千を超えたあたりで数えることを放棄した

「あぁ あなたは私にそっくりだね」

見た目だけがやたら立派で 本来あるべきはずの願いという中身がないこの子と

図体だけが大きくて 本来もっと表現すべき感情が乏しい私


作品としては 哀れかもしれないこの子

「多すぎて邪魔」

「むしろここまであると気味が悪い」

「どうして作るの?」

たくさんそんな言葉を言われた

でも 私は

そんな歪なところが 私に似てしまったこの子のことが

好きだった


願いを込められずにつくられた鶴に

きっと意味なんかない

私はただ示したかっただけ

ただ流れていく毎日の中

空っぽな私が生きているということを

形に残したかった


鶴は今も増え続けている

いつか 私が私を空っぽじゃないと思える日まで

鶴は増え続けることだろう






「ブックカバー」



中学に入ってすぐに 本を読みだした私に

姉が貸してくれた 小豆色のブックカバー

本を読むことに夢中になっていく私を遠巻きに見つめる人たちなんかよりも

ずっと傍に居てくれた 私の理解者

このブックカバーは 私の感情を誰よりも知っている

時間も忘れてページをめくっていた私

新刊が出るのをワクワクしながら 前の刊を読み直していた私

文章の凄さを知って身を震わせた私

感動で泣いた私 楽しくて笑いをこらえる私

辛いときも 楽しい日々の中でも

ただ私と一緒に 本を読んだ


もうだいぶ汚れてしまった 私の相棒

でも

それが私とこいつの思い出で 歴史だった






「切り株」



古い切り株の上に座ると

彼の長い年月を知るような 語りかけてくるような 不思議な気分になる

『彼』とは言うまでもなく 切り株

深い年輪を刻んだ 人が座れるほどの大きな彼

数十年という長い年月の間 その場所に在り続け

今はないその体の大部分は

今もどこかで人の役に立ち続けている

私にはそんな彼の姿が どこかとても愛おしく思えた

彼は 私たち人間から見てしまえば変わり果ててしまった姿ですら

こうしてここに生き 在り続けている


どれほどの人を 彼は見てきたのだろう

どれほどの人が 彼を知っているのだろう


彼は何度 四季を感じたのだろう

人は何度 彼を見てきたのだろう


今 彼の体の大部分はどこに居るのだろう

どこで どんな姿となっているのだろう


彼しか知らない その時を

彼すら知らないだろう そのことを

私はただ想像することしかできはしない

しかし

何も語らず そこに在り続ける彼が

無言のうちに 何かを語っているように感じた







「シャーペン」



口下手な私だが 少し語ろうと思う

そうだな・・・・

このシャーペンについて 語ろうか


傷だらけで 指の持ち手はすっかり黄ばんでる

ファイルやノートにかける部分はとれてしまったこのシャーペンは

使っていて誰もいい顔はしない

これのことを ストレートに聞いてくる人もいたね

「どうして そんな汚いのを使ってるの?」って

これはね 私が小学 中学で一番仲が良かった事務の人がくれた宝物なんだよ


これをもらったのは中二の終わり

友達の少なかった私に とても親身になって話してくれた事務の人が異動になってね

その人が別れ際にくれたんだよ 

嬉しかったね 本当に

テストも その後二度あった受験のときも このペンを使ったよ

いつも『あの人が応援してくれてる』って思うと 心強かったし

不思議なことにこのペンを持つと

失敗することなんて 考えなかったんだ


もちろん 今でもペンは使ってる

人前だと視線が鬱陶しいから 使わなくなってしまったけど

日記や机でやるときはこのペンを使ってしまう

こうしている今ですら このペンは私の背をそっと押してくれる

もう会えないかもしれない 会わないかもしれないあの人へ

私は言葉ではなく こうして使うことで感謝を伝えたいんだ






「優しさ」



アイスクリームは冷たくて 甘い

コーヒーは苦くて 温かい

この二つは別のモノだけど

どちらも違うようで 同じ優しさを持つ

でも

人はモノではないから

その二つを合わせて 人と向かい合うことができる


ほら 人って素敵でしょ?

その『優しさ』って呼ばれる

とっても甘くて 温かいモノを人に向けることができる


人が人である限り

この優しさはきっと変わらない


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ