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海の底
遠くに見えた キラキラとした日々を
私は独り 呟いた
『あぁ 羨ましい』
わかっていました 私には無理だってこと
わかっていました 私には届かないということ
わかっていました 私にはそんなものはないということ
私には 何もなかった
幼馴染も 友達も 恋人も
欲しいと願った頃にはもう 手遅れ
私は それらを手に入れる方法がまったくわからなかった
話題も 話し方も 触れ合い方も 距離の取り方も
わからなくて 怖くて 触れることを諦めた
海の底から見つめる陽の明るさ
それはきっと こんな感じ
明るくて 優しくて
欲しいけれど 届かなくて
もし そこに辿り着けたとしても
海底の生き物は そこで呼吸することすらままならない
零れた呼気は泡となり
ゆっくり上へとあがっていく
羨望と嫉妬 そして ほんのわずかな淡い希望をのせて
声にならぬ想いが 届かぬ海上へと昇っていく
死してこの身が泡となり 海の藻屑と消えたなら
どうか 次は自分が海上の生き物となりますように




