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物語る日記帳  作者: 采火
本編
2/63

薬箱の奇跡 1

 目の前の真っ赤な片目のカラスが私をつついた。きゃあ、ヤメテヤメテ。

 縁側をパタパタと走り回った挙げ句、和室のひとつに走りこんだ。そこは、今年十七になるこの家の長男、蛍野光の部屋だったのだが、部屋には見知らぬ女の子がいて、男の子と何事かを話していた。

 男の子は赤みがかっている茶髪で、Tシャツにジーンズという簡単な出で立ちだ。女の子の方はというと、対照的に真っ黒な長髪を二つにくくっていて、えーと、そう、制服! 光が通う学校の制服だ。青のチェックのスカートと同色のリボンがポイントかな? 男の子の方は言わずもがな、さっき言ったこの家の長男の光だ。女の子の方は、知らない。

 するりと部屋に入り込んだ。パタンと小さな障子の隙間を閉じる。カラスが追ってくることはもうないだろうと、ほっと胸をなでおろした。さてさて、とほっとしたところで光と女の子の会話が途切れて、光が立った。コップを持っている所を見ると、飲み物のおかわりを持ってくるのかな?

 光が、私がせっかくぴったりと閉じた障子を開けた。


「うわ、カラス!」


 え゛、カラスまだいるの?

 光についていこうとしたけれどやめた。だって、カラスにつつかれたくないんだもん。

 どうしようかなー、と入り口付近でうろうろしていると、誰かが私を見ている気がした。おかしいな。

 キョロキョロするとバッチリ女の子と目があった。あれ、やっぱりおかしいな? ……って視えてる!?


「見つけたわよ~、付喪神ちゃ~ん」

「きゃあ! 人の子、何で私が視えてるの!?」


 思わず飛び退いて及び腰になる。付喪神暦百数年、こんなこと初めてだ。

 一体どうゆうことなの!?

 とりあえず、私は自分の姿を振り返る。人間の手のひらサイズの私は、古風な淡い緑を基調とした小花模様の着物に身を包んでいる。髪は木の幹のような茶色で肩で切りそろえられてる……、ってまあ、生まれてこの方切っ たこと無いけれど。 そう、私は付裳神。つまりは妖。普通なら私のことは視えないはず、なのに。


「ふふふ、烏之瑪ったら見事に当たりを引いてくれたわねえ」


漆黒の髪を二つに分けている女の子はにっこりと意地悪そうに微笑んだ。対照的に私は冷や汗ダラダラ。でも、キリリと睨み返してやる。


「な、何よ、人の子!」

「あら? 手のひらサイズの癖に元気な付喪神ね」

「ぶ、無礼な!」


 うぅ~……。つつかれる。さっきのカラスよりは怖くないけど、人間は礼儀がなってない! 私が憤慨しつつもされるがままになっていると、女の子はポンと思い出したように手を打った。


「忘れるところだったわ。貴女、コレ知ってる?」


 そう言って、自分の脇に置いてあった鞄を手繰り寄せ、一冊の和綴じの本を取り出した。それは、綺麗な翡翠の色をした冊子で、表に墨で<交換日記>と書いてある。って、え? 交換日記? 交換日記といえば、と私はある噂を思い出す。それは最近、周りの妖達が騒いでいることだ。噂の詳細を思い出してみる。確か、緑色の冊子を持った人間の娘が妖に日記を書かせるために、あちこちに出没しているのだっけ? 目の前の人の子を見てみる。確か、その人間の名前は……、


「もしかして、結姫梨香……? うそ、私にまで日 記が回ってきたの!?」


 私は思いっきり目を丸くした。

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