新しさ
柴田恋。新しい友達が2人。
1人は上星善、黒髪の美少女。
2人目は酒井あすの、フッワフワの髪を二つに結んだ可愛い子
「良かったなー」
「え」
郁人がオレジューを吸いながら口を尖らせる。
「だってさ、たった2日で友的なモンが出来ちゃってー」
「うん、まあ良かった。」
「俺も嬉しいよー、お前、失恋してから1人だったしね」
「1人でも生きてけると思ったけど、なんか多数いてもいいかなって。」
「ははは、寂しかったヤツが言うことだから、それ。」
「うん。」
寂しいのは昔の自分なんてね。そんなことより―・・・
「うわぁっ、うぇぼしーパンでっかぁい。あすのもねぇ、お弁とデカいだよー」
「お前それちっせぇんだよー、こんぐらい食え。」
「がんばるー」
その新しい友達と昼食。
「うぇぼしー」っていうのは上星を可笑しく作り変えたバージョン。
あすのが言い出したから私もそう呼んでる。
「あー、そだ。昨日保健室で何してたんだ?教室来る前とか」
「えっ」
少し顔が赤くなる。
「何にもしてないよ。ただちょっと喋っただけだし・・・」
「だから、その話ってなに。」
「うーん、話ってほどのものでもないなっ」
話したというか、少しだけの時間だから覚えていないというか。
「ふーん、れんっこはあの郁人っていうヤツ前から知ってたの?」
「えっと、友達の恋人の友達だったから知ってた。」
真白は元気だろうか。私の好きな人を奪った女は。なんちゃって。
キーンコーンカーンコーン
「あ、予鈴。」
「れんっこ、うぇぼしー バイバーイ」
「バイバイ っつても席が遠いだけだかんね」
「はははっ」
嬉しいな、こんな良い友達が出来て。
裏切り、という言葉がトラウマの私に、友達を作る資格があるのか。
そう悩む間もないくらい早くできた。
「えーっと、5間目では学級委員を決めたいと思います。」
「えー」「俺やらねーぞー」「誰やるのー?」
先生の言葉に皆がざわめく。
そんなんパパッと決めりゃいいのよ。
誰でもいいじゃない。そんなの。
ま、私はやらないけど。
「お前ら~、これ決めないと6間目のお楽しみが出来んぞ。」
「えー、いやだー」
「だったらやれよ~!」
あぁ、うっさいうっさい。
ん? まてよ。ここで私が学級委員になっちゃえば。早く終わるかも。
っていう考えが一個もない。
はぁ、女でも男でもいいからチャチャっと!
「はい。」
隣から声がする。 郁人だ。
郁人が手を上げているんだ。
「おぉ、新山やるか。あと女子だな。」
うそ、こいつやるのか?
驚いた顔で郁人を見つめる。
その時郁人に一瞬微笑まれた気がする。
あれ、なんか悪寒がする。
「せんせーい、俺が学級委員になる条件がありまーす」
条件?
「俺がなるならー、こいつ」
こいつ?
郁人が私を指差してきた。
は?
「こいつも学級委員にしてくださーい」
「はぁっ!?」
ガタンと立ち上がった。
「おぉ、柴田か、どうだ柴田。やるか?」
「やりませんっ!」
この教師ダメだろぉっ、てか郁人何考えてんのっ!?
「俺ー、このクラスで知ってる女子がこいつだけなんで、心強いでーす。」
「私やりたくないよ! 人前に出るの向いてないしっ!」
「やってよー、どーせ暇だろー。」
「暇じゃないしっ、すこぶる忙しいしっ!」
「一生懸命頼んでんのに怒ってくるんだー、そんな根性なしだっけー?」
「・・・・っ・・はぁ・・・・?」
「お前やらないんだったら別の人に―・・・・・・・
「やってやるよっ、根性結構あるよっ、お前よりなにかと強いわっ!!」
「おっ、撤回できないからね。」
「おうよっ!」
嘘、嘘、嘘。私のバカ!根性なしとか言われて調子狂った!!!
こんなこというはずじゃなかったのに!!!
撤回 撤回!
「先生! やっぱり―・・・・・!」
「撤回できないからねー?」
う・・・
クラスメイト全員に恐ろしい目で見られた気がする。
「が、頑張ります・・・・・」
おもくそ郁人をにらんでやった。
なのにあいつは、反省した面目を見せず。
「べ―」
「ぐっ・・・」
べーってなんだべーって!! 馬鹿にしてんのか!!
もう・・・なんでもいい・・・振り回されっぱなしでも・・・・
郁人は今どんな顔をしているんだ。ムカつく顔なら即殴ってやる。
恋はぐったりしたまま郁人の方を見た。
机にひじを置いて顔を支えている。
その顔は・・・・・・
今まで見たことない笑顔。
優しい顔で黒板を見つめている。
学級委員の名前が2人書かれている。
茶色く染めた彼の短い髪は、優しくそよ風に吹かれる。
私は、彼の見てはいけない姿をみてしまったのかも。
彼の心に踏み入った自分の足は、あいまいな地面を踏みしめていた。