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柿色のセカイ  作者: 萩乃
42/45

無理

それはノート取替えしてもらってから、大分たった日のことだ。





「恋ちゃん」





「え?」





「落ちてたよ」





「あ」





郁人くんが私の落ちた消しゴムを拾ってくれたようだ。





「あ、ありがとう」





「ん、あ、そだ」





「え?」





立ち去ろうとしていた郁人くんがとつぜん振り返った。





「絵、見せてよ」





「え・・・、絵?」





「そう、動物の絵!」





「あ・・・う、うん。いいよ」





近くまで顔を寄せてきて、楽しそうな笑顔を向ける。





「・・・はい」





ゆっくりと柿色のノートを差し出す。





受け取ってくれるかどうか心配しながらおそるおそる手を前にした。





「おー!上手だな!俺こんなに描けないよ!」





目を大きく開けて笑顔になる郁人くん。





それはとても嬉しいことだった。





でも、





この笑顔を見ること





それが出来なくなると、





その後すぐ聞いた。





「え!?新山引っ越すの!?」





「いやいや、違うよ。別の学校に通うだけなんだ。親の都合でさ」





次の日、学校の教室に入る前にその情報を知ってしまった。





「ひ・・・こし・・・・」





どうやら家の場所は変わらず、別の小学校に通うというのだ。





せっかく好きになったのに。





せっかく同じクラスなのに。





そんなことしか考えられなかった。




















郁人くんが別の学校に転校する日。





一度私の学校に来た。





「またね」





「今度家に遊びに行っていい?」





「どこかで会えるよね」





別れとなって、みんな口々に話しかける。





そんな中、郁人くんから話しかけてきた。





「恋ちゃんっ!」





「・・・なに?」





「家近いでしょ」





「・・・うん」





「朝、一緒に会えるといいね!」





「うん」





相変わらず無愛想な返事しか出来ない。





どうしてこんな性格なんだろう。





私馬鹿だなぁ。

















「じゃあ、またね」





学校の校門を足早に出て行く郁人くん。





それとともにみんな家へ帰って行く。





私はその場へ突っ立った。





何も伝えなくていいんだろうか。





このまま別れて





いいんだろうか?








そんな思いがこみ上げてきた。





だから私は、





郁人くんを追った。





「郁人くん!!」





大声で10m.ほど離れた位置にいる男の子を呼び止めた。





「恋ちゃん・・・?なにー?」





振り返って笑顔で私を見る。





伝えなきゃ





伝えなきゃ





「私・・・」





「うん」





「私、郁人くんが・・・」





「・・うん」





「郁人くんが、好き」





言えたと思った。





伝わったと思った。





でも、車が目の前を通った。





「わ・・・・」





車の音と影によって、『好き』が届かなかった。





「はははっ、もう一回お願い」





郁人くんが遠くから、人差し指を出す。





でも、





2回目なんて、





無理。





勇気を使い果たした。





もう、言えない。





「ご、ごめん、やっぱいいや」





そう言ってうつむいた。





「え・・・」





もう、あきれられたと思って、戻ろうと思った。





でも、





前から足音が近付いてきたんだ。





トン、トン、トン





郁人くんだ。





その時、自分の前で足音が止まった。





顔を上げると、





正面から手を伸ばされ、抱きついたような状態になった。





「え、な、い、郁人くん・・・!?」





「はい、できた」





視界が広かった。





あれ、





私、髪結んでる・・・





「可愛い」





郁人くんはそう言ってそのまま立ち去って行った。


























それっきりだ。
































「郁人、あれ、どういう意味」





「え?あれって?」





「・・・なんでもない」





「『可愛い』」





みんなが集まっている場所に向かおうとしたら





郁人が息をはくように言った。





「・・・なに?」





「・・・・って、言ったやつだろ?」





「・・・」





「お前が車が通ったときに何て言ったか教えてくれたら、意味でもなんでも教えてやる」





「・・・」





「と、言っても、また暴走して変なヤツにつかまって、俺のそばからいなくなるのは嫌だからー・・・」





「あ、れんっこおかえりー」そんな声が聞こえた。





「いない・・・か・・・・」



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