謎
「貧血か何かね。少し寝て食事を十分にすれば和らいでくるわ。」
んんー・・・・・ 保健室・・・? 先生の声?
「分かりました。言っときます。」
「んー」
誰かと誰かのやり取り。 男女?
あ、そうだ。 あたしついさっきにぶっ倒れたんだ。
「しっばた~!」
「コラ しっ!!」
郁人が女子が睡眠中のベッドに乗りかかってきた。
「わっ 郁人くんっ! なにしてんのぉっ!」
手を広げて仰向けでベットへ寝っ転がる郁人に怒鳴った。
「あ、起きた。」
「起きた。じゃないよっ!なにやってんの!普通女子の足へ乗るかっ!」
「乗る。」
「のらねーよっ!!」
「おーおー元気だねぇ さっきまでスースー言って寝てたのに。」
「寝てないよ!」
「寝てた。」
「寝たよぉー・・・」
「どっちだよ」
「寝ちゃったよぉ!」
「く く く」
クスクス笑う郁人を、ほっぺを膨らませてにらむ。
「あ、そだ。」
郁人がイスに座り直して私のほうを向く。
「貧血だってよ、昼ごはんはめっちゃ食えとかなんとか。」
「あ、貧血か、ありがとう。カゼひいてたから、そっちかと思った。」
「ほんと? カゼも貧血もあるんだったらなおさら注意しろよ。」
「うん、ありがとう。」
・・・・・無駄に優しい・・・・ この人は誰にでもこんな感じなのか?
「話できるくらいなら教室戻んな~」
保健の先生だ。確かに授業を休んで寝るわけにもいかないし。
よし、休み時間の間に戻ろう。
「失礼しましたー」
郁人がでっかい声で叫ぶ。
「ちょ、郁人くん声デカいっ」
「ははは、いーじゃーん、てか『郁人くん』っての堅苦しい。」
「へ?」
「郁人って呼んで。」
「・・・・・分かった。・・・郁人・・・」
恋が郁人の顔を眉をひそめて見た。
「完璧っ!」
無邪気な笑顔を見せる郁人。
それにつられて笑顔になる。
でもまだフラフラする。貧血で。
病み上がりってのも怖いな。
「柴田」
「ん?」
「手」
「やだ 恥ずかしい!」
即答だ。あいつの考えることなんてお見通し。
「中学生じゃないんだからさー。フラつくだろー?」
「フラつくけど・・・」
「んじゃ 決まり」
「えっ!?」
郁人が私の手を無理強いに引っ張っていく。
バッカじゃなかろうか・・・
こんなん見られたら、郁人の・・・彼女・・・とか泣くだろうな・・・
教室に着いた。
「もう手離すね。」
「うん」
その時目の前のドアが全開になった。
「あ、キタキタ柴田さんっ!!」
「え・・・あ、はい・・・」
誰だ? 新しいクラスメイトか。
「見たよ見たよ! 何あれって思った!!」
「ほんと ほんと、うらやましいなー!」
「・・・何が?」
女子たちの黄色い声。
「もー 私が説明すっから座れー。」
「上星さん?」
「あーあー、新山はどっか行けー」
「はいはい」
と、言うと郁人がどっかへ行った。
「あんね、恋が倒れたときにぃ・・・・
「柴田っ!!」
「恋!?」
「どうしたの!?」
「ヤバい 保健室!」
床に倒れている恋を、みんなで取り囲む。
しかし、誰も運ぼうとしない。
「せ、先生呼んでこようかっ!」
1人の女子が行動に移そうとする。
「いい。俺が行ってくる。」
そこを郁人がしゃがんで恋を持ち上げる。
「に、新山くんっ・・・!?」
「保健室行ってくるわ。」
「え、あ、よろしく・・・・」
お姫様抱っこで、教室のドアを足で開ける。
・・・・と、いう一部始終。
「まぁそれはそれは格好良かったね。」
いちおう状況は理解した。
えーっと、
私が倒れて、皆騒いで。
郁人が現れて、皆驚いて、
郁人が私を抱っこして、
頭持って足持って
階段下りて保健室。
そのままベットへ・・・・
いやいやいやいやいやいやいや!!
頭持って足持ってのとこおかしい!!
あぁ、なんか今日1日で結構疲れた。
小学校の運動会より、もっと。
なんだか私の知らない郁人を知りたくなった。
恥ずかしいことを普通にこなす郁人を。
これは恋? なんてね。
そんなわけない。
そこまで尻軽女じゃないからね。
だってこの前告られて、
「好きです」って言われたら
「だから?」「何?」「私とどうなりたいの?」
なんて 笑
その後即男がどっか行った。
根性なしめ。
そんな私を底知れず、郁人が恋を眺めていた。