個室空間
ん・・・・ここ・・・、どこだ?
目を覚ますと、暗くて狭い小さな個室。
その中に恋はいた。
痛い、
頭が痛い。
薬が少し残っている。
誰か―――・・・
そんな思いで、ドアであろう場所を開こうとする。
グッ
あ、開かない・・・!?
なにここ?鍵かかってるの?すごい狭い!
「あははっ 捕まえてすぐ逃がすワケないじゃん!」
ドアの向こうから声がする。
「・・・君・・・」
「あれ!?気づいちゃったぁ!?ごめんねぇ痛くして!」
「誤る気があるなら早くここから出して」
向こうにいるのはきっと、郁人のことが好きな女子。
こんな子だったなんて。
「誤る気!?そんなん無いんだけど、お前が誤れよな!!」
「・・・は?」
「ここねぇ、だーれもいない廃屋のエレベーター!怖いでしょ!狭いし誰もいないのよ!?きゃははははっ!」
「・・・」
「あんたさぁ、今携帯もなにもないでしょ!?奪ったもんね!助けも呼べないよ!相手が探し出そうとしてもGPSだし、大分時間かかるんじゃない!?」
「・・・」
「あのねー、私ら用事あってぇ、お出かけするんだよねぇ、だからぁ、バイバーイっ」
一方的な会話で腹が立つ。
ってか、お出かけ・・・って・・・
「ちょ、ちょっと待って!お出かけってなによ!まさかこのまま放置するつもり!?」
「えー、バレたぁ?はははっ」
え・・・ ま、待ってよ!!
「んじゃ、おとなしくしててよね~」
「待って、エレベーターって・・・古いんでしょ!?誰も助けが来なかったらどうするつもりよ!?待って!私が何をしたって言うのよ!」
その瞬間、ドアがこじ開けられた。
「お前は私の邪魔だ。」
そう言ってドアを思い切り閉める。
ガチャガチャと鉄がぶつかり合う音。
南京錠。
そんな感じがする。
「やだ、出して!クソ!ナス!かぼちゃ!」
パニックで何を言っているのか自分でも分からない。
ヘタリと床へ座り込む。
息が荒くなっていた。
「落ち着こう・・・」
意外にも恋は、冷静だった。
どこか出れる場所があるはず、穴でもなんでも探そう・・・
「真白!!」
「こっち、早く!」
こちらも息荒く、
校門に駆けつける。
「れ・・・、恋は!?」
「分かんない、車はこっちへ行ったの、電話もメールもダメみたい。奪われたんだわ」
あすのを抱きかかえた真白は、あいた手を東に向ける。
「ど、どうなるんだよ!?」
郁人もパニック状態。
「早く見つけよう・・・!」
東へ走り出す。
真白がその手を強く掴んだ。
「やみくもに走り回っても無駄よ、スマホにGPSがあるでしょ。そこから探し出そ!早く見つけるには効率的だわ。」
「あぁ・・・」
強く握った手は熱かった。とても。
「郁人・・・この辺りは廃墟が多いのだから見つけるにも時間がかかる。どれがどれだか分からなくなるでしょ。」
「じゃあGPSが反応した辺りを手分けして探そう!」
「探す・・・って・・・、いちいち中に入るの?」
「当たり前だろ!」
「・・・分かった。」
真白が嫌そうな顔をする。
「・・・上星にでも付いて来てもらえ!」
そう言って真白の頭を軽く叩く。
「あすのちゃんは?」
「まずこいつは学校で見ていてもらえ、それしかない。」
「うん」
話がどんどん進んでいく。
助けるために―――・・・・
ガタッ
エレベーターの中で飛び跳ねてみる。
結果。
グラッ!
「ぅわぁ!」
ペタッと音をたてて倒れこむ。
「も、もろっ・・・・」
誰か・・・、早く来てよ・・・
狭い場所でたった1人。
音も、話し声もない。
古ぼけてカビくさい壁。
こんな所でずっと居ろとか言うの?
そんな思いで涙がこみ上げてくる。
でも恋は泣かなかった。
何かを抑えて。
「私はここだよ」
そう言って壁にもたれる。
「ここだよー・・・」
暗くなっていく個室に1人、震えを止められずにいた。




