苗字
「れんっこぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「は?」
「のしっ」
「うわぁ」
あすのが私の上に馬乗りしてくる。
「な、何急に・・・!」
「なんで言ってくれないのぉ~~!!」
「は!?なにが!?」
「苗字」
振り向くと郁人が本を読みながらつぶやく。
「苗字が真白と一緒。」
「あ・・・、あぁ。そんなこと」
「そんなことじゃないよぉ~、なんで酒井なの~!」
「うっさいうっさい。早朝ですよ」
もー、今5時ですが・・・。
朝の。
5時ってことは他の班は寝てるってことだよ。
分かんないかねー。
「苗字が一緒なんてよくあるでしょ!?騒がなくていいの!」
「・・・そうなのー?」
不安げな表情のあすの。
「そうなの」
にこやかな笑顔で心配させないようにする。
コンコンッ
ふいにドアにノックが聞こえた。
「は?誰だ?こんな朝早く」
「先生かもよ、寝なさいとか言って」
由香さんがまたまた不安げにドアノブに触れる。
カチャ・・・
ドアをゆっくり開くと、廊下側の窓から噴出す風。
その風にのって、甘い花の香りが漂った。
「朝早くにすみません・・・」
消えそうなのに、よく通る声。
それは、
ふわふわの髪を左手で優しく寄せる、
真白だ。
「ま、真白・・・?」
私と郁人。そして、雄太くんまでもが驚いている。
「どうされました?こんな早くに」
由香さんが冷静な笑顔で首をかしげる。
「あの・・・」
ピンクの唇と頬が持ち上がる。
「れ・・、恋と、郁人くんと・・・、雄太くんに・・・・。」
「用事があるのですね?」
「うん・・・」
由香さんと真白がドアに寄り添うぐらいの近さで話す。
郁人も雄太くんも驚いているようだ。
「ここじゃ・・・ない所で・・・」
ずいぶんかしこまっているようだ。
昔はだいぶ元気で明るい性格だったけど。
白く透き通った真白の肌を、1粒の小さな水滴が落ちるのを、
私は確認した。