久しく
「ごめんね、久しぶり」
真白が恋に、情けない笑顔を見せる。
「まし・・・・ろ・・・?」
「柴田・・・あれ、酒井真白だろ?」
「た、たぶん」
久しく見ていなかった真白は、少し化粧をしているようだ。
「真白・・・」
雄太くんが意外にも冷静だ。
それはそうだろうな。付き合ってたんだもん(たぶん)
「急にごめん。班の人とはぐれたの」
「・・・・・・・。」
皆静まっている。
何なのこの沈黙。
「そうですか。歩いているとそのうち見つかるでしょう。良ければ一緒に探しますが。」
由香さんが姿勢を正したまま腕を整える。
さすが由香さん。
じゃないっっっっ!
何で一緒に行動しなければならんのだ!
だからって「付いて来ないで下さい」なんて言えない。
だって、真白だもん。
恋は郁人とあすのの近くに駆け寄った。
頼れると感じたから、2人の間に入った。
「あれが酒井真白?可愛い人だね。」
あすのが小声で話しかけてきた。
「恋は今真白を嫌っているようで。」
郁人も小声になって寄って来た。
何故か2人の間にギュッと抑えられた。
縮こまった3人の間は暖かかった。
自分の孤独を包み込んでいるように、
暗い森での恐れを抑えるように。
窮屈な3人の所へ真白が駆け寄ってくる。
「あっ、すの・・・、郁人」
恋は2人の腕をいきなり掴んだ。
どうやら自分は真白に警戒心を抱いているようだ。
ただ、前にあった出来事を引きずっているだけ。
馬鹿みたいだ。
「恋っ、・・・・・久しぶり!」
何かを隠すように真白が笑顔を見せる。
「久しぶり」
少し冷たかったかな。
自分勝手な妄想で、相手を毛嫌いしてるのは、
私なのに。
「・・・か、髪が短くなったね!恋に似合ってるよ」
「ありがとう」
気を使って可笑しなコメントをくれたのだろう。
優しい真白のままだ。
「真白」
郁人が真白の方を見た。
「お前2Aだろ」
「久しぶり、郁人くん。そうだよ。私2年A組」
郁人には普通に話すんだな。
凄く可愛らしい笑顔で。
「急にだけど、お前周りの女子とかに―・・・・
「・・・や・・やめて・・・!!」
森に響く真白の声。
ここにいる全員驚いている。
「真白・・・?」
「酒井さん?」
「・・・・・。」
皆呆然としている。
「郁人、真白になに言ったの?」
「ちょっと心を揺さぶってみた。どんな反応来るかなって。」
「なんそれ。」
「ご、ごめんなさい。い、行きましょうか!」
初対面ばかりで敬語をずっと使っている。
焦ったようで、口に手をあててキョロキョロしている。
いつもは明るい子なのに。
「それでは急ぎましょうか。他の班に迷惑がかかります。」
由香さんが優しい空気を作り出してくれた。
緊迫した空気も少し和らぐ。
「郁人、あすの」
恋は2人を呼び止める。
「れんっこ?」 「何?」
ポケットに手を突っ込んだあすのと郁人は内側に振り向く。
「3日間よろしく。真白から防御してっ」
「はははっ、何それ~!?」
「あほぅか」
冗談、いや、私のお願いに笑ってくれた。
つられて笑ってしまう。
「守ってやるよ。」
郁人が頭に軽くポンッと手をのせる。
「よろしく」
「嘘、ほっとく。」
「え!?」
「それはそれで解決しないといけないだろ!?」
「えー・・・」
「解決できたらおんぶに抱っこでもしてやんよ!」
「いらない。」
「郁人くん面白ーい」
あすのがケラケラ笑っている。
そんな面白いこと言ったか?サムいぞ。
でも、
こんな2人になら、おんぶに抱っこしてもらってもいいかなって思った。
いや? して欲しいって思った。
郁人は私の頭を両手でずーっと触っていた。