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大根と王妃②【改訂版】  作者: 大雪
第一章 出発
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第四話 襲撃

 大きく馬車が揺れ、急停止する。


「きゃっ!!」


 反動で明燐が後ろに転がり、その上に果竪が覆い被さった。


「あんっ」

「ご、ごめんっ!!」


 腰が砕ける様な甘い喘ぎが、明燐の唇から漏れる。

 その原因は、果竪が明燐の胸に顔を埋めてしまったのと、起き上がる際にその胸をわしづかんでしまった為。


 ふるふると揺れる胸は、大きな二つの白桃と、その先に色づく甘い桃色の実から出来ている。

 服の上からでも分かる豊かなそれ。

 男達はおろか同性からも垂涎ものだが、果竪は意図も容易くわしづかんだ。

 その力強い手に、明燐の全身に電撃が走り子を育む器官が疼く。

 が、果竪はそんな事には気付かずに、キョロキョロと辺りを見回していた。

 馬の甲高い嘶きの声が轟く中、護衛達の怒声が響き、緊迫した空気が伝わってきた。


「な、何?」


 馬車の扉が勢いよく開き、人相の悪い髭面の男が顔を覗かせる。


「おいっ!! 馬車から出――」


 男の顔が固まった。

 そして、そっと扉を閉めた。

 一体何だったのか?


「おい、なんで扉を閉めるんだ!!」

「駄目だ!! 開けちゃなんねえ!! この扉の向こうは魔窟だ!!」


 今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。


「良いからどけ!!」


 別の男が扉を開け放ち、顔を見せた。


「……」


 その男も扉を静かに閉めた。

 それが数回続いた。


「お前達、ふざけてるのか!!」

「だって魔窟が!!」

「なんか白いものが手をこまねいているんですっ!!」

「有り得ないものが居たんです!!」


 失礼極まりない台詞が幾つも外で飛び交っている。


「っ! もういい!! 俺が――」


 そうして開け放たれた扉。

 顔を覗かせた男。

 どうやら、今までの男達よりも地位は上らしい。

 過酷な視界への順応力も高かった。

 彼は大根で覆われた馬車内の光景に、見事に耐え抜いた。


 だが。


 倒れた明燐にのし掛かる果竪を見た瞬間、彼は叫んでしまった。


「十人並みの女が、絶世の美女を襲って、ごほぉ?!」


 男の顔面を鋼鉄の大根で殴り無言で扉を閉めた果竪。

 呆然とする明燐を後ろ庇いながら、ゼェゼェと息を吐いた。


「顔だけじゃなくて、思考と言葉も失礼ねっ!!」


 確かに自分は十人並みで、明燐は絶世の美女だが、改めて言われると腹が立つ。


「落ち着け私。とにかく、外に出てきゃっ!」


 いきなり扉が開き、近くに居た果竪が弾き飛ばされる。

 明燐が悲鳴をあげた瞬間、馬車に一人の男が乗り込んできた。

 先程の男とは比べようもないほど精悍で見目麗しい若い男だった。

 長身の体をするりと馬車に滑り込ませ、明燐の体を押え付ける。


「貴方達は」


 もしかしなくても、賊。

 馬車が急に止まった事や護衛達の叫び声、外から聞こえる怒声や刀を切り交わす音などから推測すれば、そう考えるのは簡単だった。


「お静かに。抵抗しなければ手荒なことはしません」

「護衛達は」

「オレの仲間達が相手をしています。ただ半分は既に倒れていますがね。ああご心配なさらずに。殺してはいません。但し、数日は動けないとは思います。でも、オレ達が去った後ぐらいに商人の一団が通る筈ですから運が良ければ助けられるでしょう」

「そんな……」

「それより、貴方様にはオレ達と一緒に来て頂きたい」


 そこで、男が明燐を見つめる。


「一緒に来て頂けますね? 凪国王妃」


 は?


 明燐はキョトンとした。

 凪国王妃?

 だが、今はそれよりも聞くべき事があるし、何よりも自分を王妃と誤解しているならば、どちらにしろ果竪に害は及ばないだろう。

 むしろ及ぼしたら即殺す。


「貴方達は一体何が目的――は?」

「目的は勿論貴方ですよ、王妃様」


 何だか熱い眼差しを向けてくる男に、明燐は首を傾げた。


 なんだか、これって。

 いや、まさか。

 普通有り得ないだろう――いや、有り得るか?


 戦いの中、どんな時でも、いついかなる時でも兄に告白してきた敵軍兵士や大将達。

 戦いの真っ最中にもかかわらず、兄に対してマウントポジションを奪い取った者達も居た。

 もちろん、そういう馬鹿達は即座に鞭で吹っ飛ばしてやったが。

 因みに果竪もマウントポジションを勝ち取ったが、その時には温かい目で見守った。

 それに、配下である侍女――涼雪が取った時には、兄に対してお赤飯を炊いてあげた。


『これで一歩進めましたね!! 後で三歩下がると思いますが』

『……』


 その後、何故か兄が両手で顔を覆って走り去ったのは、今でも不思議だった。

 自分はただ、兄の初恋を応援しているだけだ。


 怜悧冷徹冷酷非道の凪国上層部。

 暗黒大戦時の際に、後の凪国国王たる青年の軍に比較的初期の段階で関わり、功績を挙げた者達。

 凪国国王を自分達の主と認め、常にその側で戦ったのが、今の凪国上層部に当たる。

 建国後は、それぞれが自分の能力を発揮し才能を開花させ、各長官、副長官として政治の手腕を振るっている。


 が、そんな外面だけはカッコイイが、実はオトメン揃いと言われる凪国上層部。

 同性に虐げられ、女を開花させられた彼らの心を激しくぶち抜いたのが、あの涼雪なのだ。


 そして兄の初恋相手。

 他のオトメン達は、皆女子校におけるカッコイイ女子生徒をお姉様と慕うが如くの親愛の情だが、いつそれが恋心に変わるか分からない。


 涼雪はカッコイイ。

 見た目は普通の少女だが、その雄々しさに兄はぞっこんだった。

 そして大抵兄は、涼雪に気付いて貰えない恋心に悩み溜息をついている。

 それこそ、いつもの冷酷な宰相閣下が乙女にしか見えなかった。


 その様は見ているだけで、子を育む器官が疼き全身をゾクゾクした快感が通り抜ける。

 兄は憂いある顔や悲しんでいる顔が一番色っぽい。

 明燐は、何時の間にか芽生えた兄に対する加虐心が疼くのを感じた。


「って、今は悠長にトリップしてる場合ではありませんわね」


 危うくパープルな世界にトリップする所だった。

 明燐は目の前の男をジッと見つめた。

 そう……今までの奴等と比べて、目の前の男からは嫌な感じはしなかった。

 やっている事はたぶん同じ――な筈、なのに。

 それどころか、その瞳に魅入られ明燐はしばし沈黙する。

 が、その時――馬車の隅から珍妙な呻き声が聞こえてきた。


 はっ!果竪!


 さっき開いた扉に弾き飛ばされた果竪の姿を探すが、どうやら男には抵抗しているように見えたらしい。

 男の拘束が強くなる。


「抵抗しないで下さい」

「いえ、抵抗ではなく――って果竪!!」

「はい? ってうわぁ!」


 そこには、大きな大根を握りしめた果竪が立っていた。

 開いた扉の前で舞っていた男達すらも怯えて距離を取る。


「わざと?」

「へ?」

「私のこと、ガン無視したのって」

「え、いや」


 無視というか、居たのさえ気付きませんでした。

 なんて言ったら、その大根で殴り殺される様な殺気が漂っている。


「ええ、無視よね。無視以外はないわよね?」


 手に持っていた大根が、ミシリと指圧で砕け散る。

 動いたら殺られる。

 砕け散った大根に、誰もが自分達の未来を見た。

 そんな中、果竪は新たな大根を手に持つ。


「それに、何? 人の友人にのし掛かって」

「あ、え、いや――って!! 動かないで下さい! 王妃がどうなってもいいんですか?!」


 男が明燐の首筋に刀を突きつける。

 そんな男に果竪は怒鳴った。


「王妃は私よ!!」

「は?」


 男だけではなく、外に居た男の仲間達も同じく間抜けな声をあげた。


「え……いや、そんな嘘は。どう考えても凪国国王の妻は此方の美しい」

「いえ、果竪が王妃です」


 本来なら自分が王妃だと言って果竪を守るべきだが、そうすると余計に果竪の怒りに火を注ぎかねないと気づいた明燐は素直に言った。


「な、なんですって?」

「ですから、果竪が王妃です。凪国国王の唯一の妻にして正妃」

「嘘……」


 呆然と呟く男に、様子見に馬車を覗き込んでいた彼の仲間の男達も騒ぎ出した。


「あんな十人並みで胸もない男みたいなのがか?」

「いや、絶対男だろ。女であんなに胸がないなんてありえないし」

「そうだよ、お頭が押さえつけている女の方が美人で女らしくてしとやかで」

「それにたおやかで清純可憐だし」

「胸も大きくて腰も引き締まってて、あの美人の国王にお似合いだぜ」

「やっぱり、そっちの美人が王妃じゃないか?」

「だよな。そっちはあまりにも平凡で」

「胸真っ平らだし」


 ぶちんと何かが果竪の中で音を立てて切れた。


「おい! 失礼だぞ」


 明燐を抑えている男が仲間を叱咤するが、果竪の王妃ではなく男疑惑に対する談義は留まることを知らない。

 しかも失礼という事は、一度はそうだと認めている事に他ならないのだが、焦る男は気付かなかった。


「けど、お頭。王妃っていうからには」

「馬鹿にするなぁぁっ!!」


 完全に切れた果竪が暴れ出す。

 特大の大根を持って外へと飛び出し片っ端から男達を殴り飛ばす。


「ひぃっ!!」

「ぎゃあ!!」

「うわぁぁぁぁ!! お助けぇ〜〜」


 白い大根が紅く染まる。

 最終的には持っていた大根が真っ二つに折れると、果竪は近くの岩や大木を投げつける。

 丁度馬車が襲われた場所が場所なだけに、武器になるものは沢山あった。


「ぎゃぁぁ!! 誰か助けてぇぇ!!」

「待ちやがれ、このヤロウ!!」


 次々に血祭りに上げられていく部下達に、お頭と呼ばれた男は焦った。

 今も大木を投げつけている果竪という少女が王妃であるのは間違いないだろう。

 けれど、自分達が想像していた王妃というのはもっとこう深窓の姫君という感じだ。

 確かに王妃は庶民出身だが、あの国王に見初められるのだからそれ相応の美女であるに違いないと思っていた。

 なのに実際には平凡な少女。

 しかも、対等どころか圧倒的な力で部下達を追いかけ回している。


「よくも年頃の乙女の心をズタボロにしてくれたわね」

「ひぃ!! すいませんもう言いません貴方は絶世の美女です!!」


 追い詰められた最後の部下が必死に命乞いをする。


「謝罪はともかくとして、あからさまな御世辞はいらんわっ!!」

 それこそ、『果竪! 胸大きくなったんじゃない? 一㎜ぐらいは』と昔言われたぐらい腹が立つ。

 しかもそれが、男のくせに天使の様な美少女にしか見えない奴の発言だったと思い出せば、もっと腹が立つ。


 胸が何だ!寸胴がなんだ!!


 男のくせに恐ろしいほど色っぽくて。

 男のくせに小悪魔にしか見えなくて。

 男のくせに同性異性問わずモテまくって。

 女性変化した時にプルンプルン揺れているからって。


 いい気になるな、こんちくしょう!!

 う、羨ましくなんてないんだからね!!


 果竪はツンデレ要素を手に入れた。


「ちょっ! やめて下さい!」


 明燐を連れてお頭である男が部下の前に飛び出してきた。


「……ふっ……良い度胸ね。明燐を人質にしようだなんて」

「ち、違いますっ!!」

「さっきは首に刀を突きつけていたでしょうが!!」

「あ、あれは!! でももうしません」

「当然よ!! やったら許さないわよ!!」

「す、すいません――って、それよりもう十分でしょう?! 部下を許してください!!」

「十分? あれだけ胸が小さい、ブス、王妃らしくないと言われた私の心の傷の深さに対しての報復が、十分?」


 ブスとは言ってない。

 しかし、そんな言葉が果竪に伝わるとは思わなかった。


「大根の如き真っ白な心を穢されたこの恨み!! 晴らさないで死ぬなんてできないわ!!」

「は? 大根?」

「すいません幻聴です、気にしないで下さい寧ろ気にしないで」


 明燐が必死に自分を捕えている男に言い募る。


「ふふふ……みんな道連れにしてやるわ」

「果竪! 落ち着いて!!」

「末代まで祟ってくれるわ……あはははうふふふ」


 完全に果竪が壊れた。


「どうしましょう……押してはいけない最終兵器スイッチを押したような事態ですわ」

「き、緊急停止ボタンはっ」

「とりあえず新種の大根を差し出せば正気には戻りますが」


 胸をけなされるより、大根の方が果竪にとって比重は大きいらしい。


「大根?! 大根ならこの先の峠に生えて」


 お頭と呼ばれた男がそう叫んだ時だった。

 風を切る音に、反射的に頭を横に傾ける。

 はらりと髪の毛が数本宙を舞った。


「っ!」

「明燐様に手を出すな」

「貴方は……」


 冷たい眼差しで睨み付け、剣を構える使者団の長。

 その姿が消える。


「っ!!」


 お頭と呼ばれた男と、使者団の長の剣が激しく交わり、ぶつかり合った闘気は突風となって周囲を吹き飛ばしていく。

 そんな中、果竪はと言うと。


「うきゃああぁぁっ!!」


 ぼすんっと、一人茂みに落っこちていた。

 一方で、明燐はお頭と呼ばれる男に庇われ傷一つ無く、まるで姫君の様に守られる。

 実際、使者団の長とお頭の男は明燐を争って戦っている。

 相変わらずの逆転主従だった。

 というか、何度も言うが、果竪が王妃なのだ。

 が、たぶんこの状況では誰もが忘れ去っているだろう。


「明燐!!」


 本人でさえも。


果竪の不憫度が五割増しになりました(笑)

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