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大根と王妃②【改訂版】  作者: 大雪
第六章 動き出すもの
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第五十二話 選択肢

 その後、更にヒートアップした大根に関する言い合いの末、朝食の片付けの邪魔だから散歩でもしてらっしゃい――とばかりに放り出された果竪。

 当然ながら一神で彷徨かせられるわけもなく、蓮璋が慌てて追い掛ける羽目となり、二神で彷徨く事となった。


「むぅぅぅ!明燐の分からず屋ぁ!大根は神よ!世界のアイドルよ!むしろその白く艶めかしい肢体でこの世界を楽園に導くのよ!」


 どんな楽園だと突っ込みたい自分はまだまだだろうか。


「まあでも仕方無いわね、明燐は大根レベル低いから」

「大根レベル?!」

「そう、最高の称号は『大根に全てを任せます』。最低レベルだと『ふ、ふん!私は大根なんて好きじゃないんだからね!!』なの」


 つまりデレだと最高、ツンのうちはまだまだという事か――。


 って、違いが全く分からない。

 なんて迂闊にも口に出してしまった蓮璋に、果竪の瞳が光った。


 やばい、詰んだ――。


 いや、諦めるな俺。

 頑張れ俺。

 この程度の危機的状況など幾つも乗り越えてきただろう。


 最後まで諦めるな。

 活路を見いだせ。


 審判をなぎ倒してでも試合を続けるんだ――

 (※良い子は真似をしてはいけません。審判には従いましょう)


 蓮璋は脳みそをフル回転させ、果竪よりも早く口を開いた。


「そ、そういえば今頃の季節は秋の花々が一番の見頃ですね。『花の宮』とも呼ばれる王宮もさぞや美しい花々で見頃なのでしょうね」


 最悪な会話運びの下手さだ。

 蓮璋は自分の口べたを嘆いたが、以外にも果竪の瞳に宿った妖しい光は消えた。


「花……」


 反応もあった。

 蓮璋は心の中でガッツポーズをすると、更に言葉をまくし立てた。


「この隠れ里にも色々な花は咲いてますが、凪国王宮は無い花は無いと言われる程だと」


 美しい花々が咲き誇る王宮。

 百花繚乱の宮。


 凪国の中枢のおわす所。


「ああ、うん。でも蓮璋の想像しているのとは違うかな」


 そのまま近くの公園に入る。

 公園といっても広場があるだけで、今はまだ朝も早く誰も居ない。


 その広場の隅にあるベンチに腰を下ろし、蓮璋が口を開いた。


「オレの想像しているのと違うとはどういう事でしょうか?」


 美しい花々が咲き誇る場所だと、父からも教えられた。

 もしや、今は花も少なくなっているのだろうか。

 と、そんな蓮璋の心の声を聞き取ったかのように、王妃様がぶんぶんと首を横に振った。


「ああ違う違う。想像と違うっていうのは、『花』に関して。蓮璋の言ってる花は『お花』の事でしょう?でも、凪国王宮が『花の宮』って呼ばれているのは別の意味でなの」

「別の意味……」

「ほら、花って他の事も表すでしょう?たとえば『美神』」

「……え」

「あとは『後宮の花』。あの言葉にある『花』も後宮の住神、つまり妃達を表すでしょう?で、後宮の妃達は美神が常識!それと一緒なの。だから、凪国王宮は百花繚乱とか花が綺麗とか言うのは、凪国王宮には美神が多いって事を意味してるのと同じなの」


 美女、美少女は当然ながら美男子達も多い凪国王宮。

 ただし、美男子達の九割九分は『男の娘』達という現実だが。

 あれ?割合上がってるって?

 そこは気にしない。


「……確かに、凪国王宮には目も眩む様な美しい方達が多いと聞いていますが」


 特に上層部は別格だった。

 彼らは都でも珍しい、いや、息をすることすら忘れる程の美貌だと聞く。

 いや、実際に余りの美しさに失神する者達も続出しているとか。


 百花繚乱の王宮。

 美しい花々が咲き乱れる宮殿。


 ああ、確かに花は『美神』となる。

 それは本物の花々が咲き誇る光景よりも麗しく、そして絶景。


「もちろん本物の花も綺麗なんだけど、上層部が居ると羞花閉月っていう言葉通り花が霞むどころか恥じらって閉じちゃうの、本当に」

「……それは、まあ」

「だから花畑とかで花を見るなら、上層部が居ない時がおすすめよ!!」


 因みに果竪の場合は、必ず明燐という上層部を筆頭に色々とくっついてきたので、いつも花が霞んでいた。

 閉じなかっただけマシといつしか思う程の哀しい光景がそこにあったという。


「でも綺麗な花も多いから、蓮璋が興味あるなら案内するよ」

「案内、ですか?」

「うん。あ、一神でまわりたいなら別だけど」

「いえ、その」


 問題はそこではない。

 ただ、普通に、ごく当然の様に蓮璋が王宮に行くことが王妃様の中で決定されている事に蓮璋は驚いたのだ。


 自分は王妃様を拉致した元凶の一神である。

 にも関わらず、彼女は――。


 いや、これはもう今更だ。


 彼女は、そういう方なのだ。


「そうですね、是非とも行きたいです」

「うん、案内するね!もちろん、この隠れ里のみんなも」

「なんか凄い団体ツアーになりそうですね」

「大丈夫よ。王宮は広いし」


 そう、広すぎて広すぎて、徒歩では一日かけてもまわれないと言われている。

 いわば、王宮自体が一つの街の様なもの、王都の中に王都があるようなものなのだ。


「むしろ広すぎて大変というか」

「……そうなんですか」

「乗り物は必須だし、何よりも建物の配置とか道の構造とかが面倒なの。侵入者防止の為にわざと惑わせる様な造りをしているから」


 それは領主の館など、地位ある者の屋敷では基本的な事だった。

 しかし王宮はそれとは比べものにならない程の技術が注がれている。


「惑わせる造りですか」

「ええ。五感全てに作用するように造ってるの。視覚での惑わし、聴覚での惑わし、五感をそれぞれ融合しての惑わし」

「って、それを口にしたら」


 警備上まずいのでは?と暗に問いかける蓮璋に果竪はパタパタと手を振った。


「ああ大丈夫。というか、そこに惑わしがあるって分かっても、対処法が無ければ同じでしょう?」

「しかし原理が分かれば対処法も」

「原理は分からないもの。知ってるのは陛下や上層部ぐらいだし」

「へ?」


 王妃である自分は知らないとあっけらかんに言う果竪に、蓮璋は目を瞬かせた。


「それに惑わしはランダムだから、その相手が来た時にどの惑わしが来るか分からないしね」


 そしてその惑わしの数は、千に近い数があるとされている。

 つまり確率からいっても、膨大な数を予測しなければならず、予測しても対処が出来ないというのはこの辺りからも来ていた。


「……凄いんですね」

「罠しかけるの大好きなのが居るから」


『ん?そんなに罠しかけてどうすんねんって?おひーさんもおもろい事聞くんやなぁ?ってか、わいにとって罠作りは趣味なんや』


 そう胸を張った、無駄に素敵な女顔の上層部が居た。

 三度の飯よりも罠が好き。

 趣味の域を遙かに超えた罠大好き男。

 手先が器用で、頭の回転も速くて実に様々な罠を作っていた。


 そしてその一つに果竪が引っかかった時には、朱詩と茨戯にヤキを入れられた事もあった。


 まああの時は、流石のあれもかなり慌てていたが。

 というか、命にかかわる罠ではなかったとはいえ、果竪の生足を周囲に披露してしまうという事態を引き起こした罠。


『果竪に何するんだよ、死ねこのクズっ!』

『女の子になんて事すんのよ!死にさらせぃ!』


 仲間と言えども容赦ない朱詩と茨戯に蹴り倒されたあれに、果竪の方が慌てて止めに入った。


 が――


『おひーさんに怪我させる気は全くないねん!ってかおひーさん優しいわぁ』


 と抱きつき、またあれは蹴り飛ばされた。


「生きてるかな?」

「はい?」


 王宮内の罠や惑わしを統括する立場に居たあれを思い出すと、いつも他の仲間達に殴られている光景が思い浮かぶ。

 あまりにもよく殴られたり蹴られたりしているので、『もしかして殴られるの好き?』と聞いた事もあったが。


『わいを殴っていいのは、上層部と陛下だけや』


 と、言っていた。


『あ、おひーさんも殴ってええでぇ!他の奴なら殺すけど』


 というお墨付きも貰ったが、促されてもやる気は全く無かった。


「――あの、その、凪国王宮の警備は本当に凄いんですね」


 黙ってしまった果竪に何とか場を繋ごうとする蓮璋。


「あ、あと!!その、凪国は他国の宮殿とか比べても、その王宮の構造美は素晴らしいものがあるとも聞いています」


 その建築技術、装飾技術を学ぶために他国からの留学生も多いという。

 そして実物を目の当たりにし、その素晴らしさに狂喜乱舞する者達も多数居るとか。


「うん、確かに凄かったわ」


 特に、王宮から追放されてからはよりいっそう強く感じるようになった。

 というのも、元々は田舎出身の果竪だが、建国以来ずっと果竪は王宮で暮らしてきた。

 それも、後宮という限られた空間に居る事が大部分だった。


 だから、いつの間にかそれが当然のものとなっていた。

 しかし王宮を出て、瑠夏州で一部とはいえ様々な建物を見て。


 凪国王宮の建築技術がいかに凄いかを果竪は思い知った。


「離れてみて、気づく事もあるのね」


 果竪の場合は、改めて思い知るというものだったが。


「まあでも、本当に凪国王宮は綺麗なのは確かだよ」

「王妃様」

「それに、二十年も離れていれば色々と変わったものも多いと思うし」


 そして果竪は、それらを全て見る前に王宮を去るだろう。

 王妃の退位という大イベントの末に。


 もしかしたら、蓮璋達を案内する事も出来ないかもしれない。

 そもそも王妃を退位する様な相手が悠長に王宮内を案内するなど無理だろう。

 いや、それ以前に王妃を辞めてしまえば果竪が王宮内に留まれる確率は低い。

 良くて下働きだろう。

 どう考えても、案内などしてはいられない。


「王妃様?」


 と、心配そうな蓮璋の声に果竪は慌てて我に返った。

 駄目だ、余計に気を遣わせてしまう。

 今一番大変なのは蓮璋達だというのに。


 今は自分の事は、王妃の退位うんぬんとか含めて脇に置いておこう。


 そうして果竪は、それまでの気持ちを一新するように、そして自分を奮い立たせるように、凪国王宮に関するまだ話題に上っていなかったそれを口にした。


「――知ってた?凪国王宮は、その輝く大根の様な白さから、別名『大根宮』と呼ばれているの」

「そうです――は?」


 唖然とする蓮璋。

 それも当然だ。

 というか、どんな話題選択だ。


 話題のセンスとか以前の問題である。

 しかし果竪はそんな事は気にしなかった。

 むしろ自ら口にした大根という言葉に気持ちはどんどん高揚していく。


「そう、大根の艶めかしい白さを体現したあの大理石は輝き、その美しさの前に倒れる者達も続出して」


 大根?


「それこそ、まるで愛する大根達が一糸乱れず立ち並ぶ様な造りの宮殿の数々は」

「……『大根宮』?」


 あまりにも堂々とした言いように、蓮璋は少し信じかけた。


「他にも、溢れる男の娘達が多い事から『男の娘宮』という別称もあるの」

「……」


 なんかぶるりと体が寒さで震えた。

 ってか、怨念というか殺気というか、殺意というか、そんなものがどこからともなく漂ってくるのは何故だろう?


「……そんなに、男の娘が多いんですか?」

「うん」


 即答だった。


「とにかく多かった」


 特に、建国後に起きたあの一件以来は格段に増えた。

 そしてその一端を担う煉国の元寵姫組達は年を追う事に、いや、日を追う事に更にその美しさに磨きをかけていた。


「一歩歩けば男の娘にぶつかったもん」


 それは王妃様だけではないか――という蓮璋の突っ込みは音とはならなかった。

 確かに王宮には男の娘達はかなり多いが、一歩王都に出れば格段に数は減り、各州、辺境と遠のけばその数は更に減った。


 だからこそ、男の娘は貴重。

 拉致監禁も神買いもより酷く横行するというものである。

 まあ、王都でもそういう傾向はあるのだが。


 そして果竪は、その生活環境から男の娘の審美眼に関してはかなり磨かれていた。


 美しい、確かに美しく可憐で全ての賞賛は、それこそ男の娘達の為だけにあると言っても良い。


 しかし果竪の場合はあまりにも見過ぎていたせいか、男の娘に関しては少々、いや、結構独自の観点があったりする。


 でなければ、いつまで経っても周囲を魅了し続ける元寵姫組に見惚れる事もなく普通に接する事なんて無理だろう。


 因みにそれは、果竪にとっての一番が大根だから――というだけではないという前提の元で成り立っていると信じたいが。


「蓮璋も好きな方で呼んでいいよ」

「好きな方って」

「『大根宮』か『男の娘宮』」


 え?その二択しかないんですか?


 どちらも嫌っていう選択肢はないですか?


 別の名前で呼んじゃ駄目ですか?


 にっこりと微笑まれた蓮璋は、全く退路が無い事を悟る。


 どうする?オレ。

 どちらを選ぶ?オレ。


 大根か?男の娘か?


 考えろ、考えろ


 これは一生に数回しかない、大岐路である。

 間違えれば死ぬ。


 大根か?


 男の娘か?


 有機物か?


 それとも、凪国で第四の性別とされている現存する『存在』か?


 だらだらと流れる汗。

 激しく鼓動する心臓。

 ドクドクと流れる血液の音が耳に木霊する。


 大根を選んで、神として大切な何かを捨てるか


 男の娘を選んで、男として大切な何かを捨てるか


 大根を選んで、現在の常識にクーデターを起こすか


 男の娘を選んで、新たなる性的嗜好を開拓するか



 って、別に男の娘を選んでも新たな性的嗜好なんぞ開拓はされない。


「男の娘宮で」

「そっか~」


 王妃様は少し寂しそうだったが、それ以上何も言わなかった。

 しかし周囲から突如襲いかかる殺意と憎悪に、蓮璋は思わずその場に膝をついた。


 その時、蓮璋は気づかなかった。

 彼が最悪な選択をしたという事を。


「蓮璋、どうしたの?!」


 そしてそれは、王妃様が自分の体に手を触れた瞬間、更なる濃度と質量を増したと後に蓮璋は語る。

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