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大根と王妃②【改訂版】  作者: 大雪
第四章 交流
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第三十三話 痛めた足首

 あわや転落寸前のお姫さま。

 寸でのところでかっこよく駆けつけた王子様。

 そんな王子様に助けられた筈のお姫さまに芽生えるのは、恋の花――。


 なんて事はなく。


「いい加減に大人しくしなさいっ!」

「い、いやだ!」


 王子様の下でもだえるお姫さま――の絶叫が響いた。

 ちなみにこの光景。

 見た者達は誰もが目を疑うのは間違いなし。

 なぜなら、普通は上に居る筈のお姫さまが王子様の上にのっかかっているから。

 いやいや、それは違う。

 きちんと王子様はお姫さまの上にのっている。

 なぜなら、明燐こそが王子様であり、お姫さまは蓮璋なのだから。


 果竪はそんな二人の取っ組み合いを静かに見守った。


「諦めて私に身を委ねなさいっ!」

「出来ませんっ! オレのプライドにかけてもっ」

「そんなプライドは捨てておしまいなさいっ」

「ひどっ!」


 蓮璋、そこは明燐に委ねた方が楽だよ――と、果竪は心の中だけで助言した。


「蓮璋! さっさと私に体を明け渡しなさいっ」

「やめて下さい! 誤解されるっ!」


 大丈夫、ここに居るのは三神だけだから。

 なんて事を、見張り台の前で蟻の行列を見ながら果竪は心の中だけで断言した。


 果竪の大根愛に恐れを成した結果、転落しかけた蓮璋。

 それをかっこよく助けた明燐に支えられた蓮璋の顔はすごかった。

 それもその筈。

 だって、好きな女の子にかっこよく支えられるなんて、男の矜持はボロボロである。


 だが、それに当の明燐が追い打ちをかけた。


 それは――。


「良いから早く私に抱かれなさいっ!」

「いやだぁぁぁぁっ!」


 別に、明燐が上になって、蓮璋の●●●を××して▲▲の鞭によって○○○な世界に強制的に連れて行くというわけではない。


 ただ、蓮璋を老師の元まで運びたいだけなのだ。

 足首を軽くひねってしまった蓮璋。

 ここから居住区までは距離があり、そこまでひねった足で歩けば確実に悪化する。

 だから、心優しい明燐は提案――と言う名の強制を行ったのだ。


 自分が蓮璋を抱きかかえて連れて行く――と。


 当然、蓮璋は拒否した。

 全力で抵抗し、それこそ明燐とのとっくみあいまで発展する程に。

 それが、今果竪の目の前で行われている結果だった。


 だが――。

 いくら足首を痛めているとはいえ、そう簡単に明燐に上に乗っかられるのはどうかと思う。

 簡単にマウントポジションを奪われるなんて軟弱な――とは果竪は全く思わないが、たぶん彼女の友神達である凪国上層部は思うだろう。

 そして、某天使とかは大爆笑するだろう。

 お腹を抱えてひいひい笑いこけるに違いない。

 そしてきっと明燐の兄は顔を覆って押し入れに引きこもるに違いない。


「老師の元に行くだけなのにどうしてそんなに抵抗するのですっ! 足首が悪化しても良いと仰るの?!」

「足首が悪化しない代わりにオレの心が血をふきますっ! ってか、お姫さまだっこで老師達のところってどんだけ公開屈辱羞恥プレイなんですかっ!」

「まあ! 蓮璋ってば、露出プレイがお好きなの? 見かけによらず大胆なのが好みですのね」

「何でもかんでもそっちの世界に結びつけるのはやめて下さいっ!」


 そっちの世界。

 もちろん、○○な世界である。

 ○○な世界の女王とも名高い明燐に、○○の世界での敵は居ない。


「さあ、私に全てを差し出しなさいっ!」

「出しませんから止めて下さいっ」


 互いに全力投球。

 押し合う力は拮抗し、その熱気が凄まじい白い靄を作り出す。

 それが夕日に照らされて幻想的な光景を作り出すが、その中心に居るのが美男美女となれば更に息をのむほどの代物となる。


 飛び散る汗。

 ぶつかりあう肉体。

 息も絶え絶えの声は腰が砕けるほどに甘く切ない。


 たかだか医師の所に行くだけでここまで熱くなれるのは、きっと此処に居る彼らぐらいだろう。


 だが、ここで一つ疑問が生まれるだろう。


 ぶっちゃけ、誰か他の者達を呼びに行けばいいのではないか?


 ちなみに果竪はとっくの昔に気づいていた。

 しかし、気づいていてもやらない。


 別にそれは面倒だからというわけではなく、ちゃんと理由がある。

 そもそも、果竪が誰かを呼びに行ったところで、助っ神を連れて戻って来るまで蓮璋の体が無事という保証はないし、むしろ連れて戻ってくる途中で明燐にお姫さまだっこされた蓮璋の姿がお披露目されてしまうかもしれない。


 そうしたら、軽く羞恥は二倍になるだろう。

 それこそ、「こんな事なら大人しくお姫さまだっこされてれば良かった!」と世を儚むかもしれない。


 大人しくしていれば、少なくとも恥をさらすのは老師とその近しい者達ぐらいだし。


 それに、だ。

 もし果竪が戻ってくるまで蓮璋の身が無事だったとしても、今度は明燐が問題となる。

 明燐は自分のやる事を邪魔される事が大嫌いだ。

 以前、明燐のやる事を邪魔した朱詩や茨戯は徹底的に報復された。

 そして泣かされた。

 あの朱詩が本気で泣かされたのは、明燐が初めてかもしれない。


 だから、蓮璋を絶対にお姫さまだっこすると決めている明燐の前に、蓮璋を老師の元まで運ぶ神手を連れてきたとなれば――。


「怒るよね~」


 怒るどころか、鞭で瞬殺する事間違いなし。


 果竪はいたいけな子羊と言う名の助っ神達の命と、蓮璋の羞恥心を天秤にかけた。

 そして無言で子羊の方を取った果竪を誰が責められるだろうか。


「生きていれば何とかなるって言うしね」


 そうして蓮璋に生き恥をさらす事を言外に強いる果竪は、実は結構腹黒いかもしれない。

 いや、実はどころか腹黒い。

 何せ、まだ巻き込まれてないし、もう少し黙っていようと思っているところからして。

 それは果竪が上層部達に囲まれる中で見つけた処世術である。


 と、なんだか視線を感じた。


「王妃様助けてっ!」


 うわ、なんか巻き込まれる寸前だ。

 涙目でこちらを見つめる蓮璋はとても色っぽかった。

 王や上層部の男性陣に比べれば、男の娘要素は限りなく薄いのに、ゾクゾクとする程の色香を漂わせる。


「蓮璋! 助けを求めるのはこの私にですわっ」

「やめて誤解されるっ!」


 大丈夫。

 とっくの昔に誤解される光景が繰り広げられているから。


「ってか、女性にお姫さまだっこされるってどんな試練ですかっ!」


 その言葉に、果竪は叫んだ。


「蓮璋! これは愛の試練よ!」

「え?」

「死よりも辛い羞恥にも耐えて愛を貫けるのか?! それを今蓮璋は試されてるのよっ!」

「あ、愛?!」


 そうか?そうなのか?愛なのか?


 既に明燐との攻防でかなり精神的消耗していた蓮璋は、ぐらぐらとする頭で考えた。

 なんか王妃があそこまで力強く言うからには本当の様な気がする。


 一方、果竪はかなり適当なことを言っていた。

 その本音は、どうにか巻き込まれないですましたい、であった。


 だって、明燐怒ると恐いし。


「愛、ですか」

「そうよ! これを乗り越えてこそ、愛の本編が始まるのよ!」


 自分でも何言ってるんだろうとは思う。

 けれど、今までで一番口が回っている事を果竪は自覚していた。

 神も本気になれば結構色々な事が出来るらしい。


 しかし、そんな果竪の言いくるめを明燐自身が無駄にしてくれる。


「蓮璋! もう無駄な抵抗はおやめなさいっ」

「っ!」

「そうして私に大人しく抱かれなさいっ!」


 衝撃的過ぎる発言に、蓮璋の思考が正常作動し始めた。


「はっ! オレは何を!」

「明燐……」

「とっとと私に抱かれるのよ蓮璋! いくらあなたが無駄な抵抗をしようとも、私は私の望む通りにいたしますわ! そう、どれほど抵抗しようともあなたは私に抱かれるしかないのですわっ!」

「うわあぁぁぁっ!」

「さあ! 私の前に傅き這いつくばりなさいっ」


 なんで傅いてから這いつくばるのだろう。

 そのまま這いつくばった方が楽なのに。

 いや、余計な動作を一つ取り入れる事で相手が苦しむ様を明燐は望んでいるのかもしれない。


 なぜなら、明燐は上層部の男性陣や元寵姫組を鞭で叩く時、とっても嬉しそうだったし。


 そんな、およそ友神とは思えない思いを抱く果竪。

 しかし、これで果竪と明燐の友情にはいっぺんの曇りもない――信じる者は少ないが。


「さあ! 私の前にその身を投げ出しなさい!」

「誤解される! 誤解されるぅぅっ!」


 だから抵抗するから余計に酷くなるんだって――と、果竪は心の中でだけ助言する。


 と、そうこうするうちに、再び悲劇は起きた。


 グキンっ!!


「あ」


 暴れた蓮璋が振り回したのは手だけではなく、それが痛めた足にも及んだ途端――。

 蓮璋は、痛めた足首に二度目のダメージを負ったのだった。



「じゃあ明燐、きちんと蓮璋を看病しててね」

「仕方ありませんわね……全く、蓮璋はあまりにも軟弱すぎますわ」

「オレのせいですか?! オレのせいなんですか?!」


 涙ながらに訴える蓮璋に、老師を始めとした数人の里神達がそっと目元を抑えた。


 今から30分ほど前に転がり込むようにして駆け込んできた王妃達に何事かと思えば、とんでもない光景を目の当たりにした。


 明燐に抱きかかえられた蓮璋。

 もう、魂が半分飛びかけていた。


 というか、どう考えても逆ではないか?――なんて事はもはや突っ込む気すら起きない。

 とりあえずすぐに蓮璋の足首を治療した老師。

 下手な事は聞けず、ただ黙々と作業するのがこれほど大変だとは思わなかった。


 だが、そこで問題が一つ起きた。

 治療用の薬草が尽きたのだ。


 普段薬草は、森の中に生えているのを少しずつ必要な分だけ採っていた。

 本来なら老師か他の者達が行くのだが、今日は満員御礼なのかやれ怪我した、やれお腹が痛いと診療所に来る者達が居て身動きがとれなかった。

 ならばと明燐が行こうにも、夜は危険だと周囲が止める。


 だが、そうこうしているうちに、蓮璋の酷く痛めた足首は熱を持ち始めた。

 こうなったら最終手段とばかりに、老師が手の空いている里神に頼もうとした時、果竪が声を上げたのだった。


 すなわち、自分が薬草を採りに行くと。


 もちろん、周囲は王妃の手を煩わせるなんてとんでもないとばかりに明燐の時以上に止めたが、運が悪いのか、痛み止め以外の薬草もこの満員御礼の怪我神、病神の為に尽きてしまい、神手が足りなかった。


 うんうんと唸る者達を思えば、四の五の言ってはいられない。


「まあ、この里には王妃様に妙な事をしようとする者は居りませんが……」


 その点は明燐も信用していた。

 それに、外からの侵入もあり得ない。

 侵入箇所は限られており、そこを知る者達はこの里の者達以外は居ないとされている。

 しかも、果竪が行くのは、その侵入箇所からは遠い場所である。


「果竪、やっぱり私も」

「いいから、明燐は蓮璋の側についている事! きちんと世話しないと駄目だからねっ」


 怪我を悪化させたのは、紛れもなく明燐が原因だ。

 しかし、果竪も止めなかったので同罪。


 だから、それぞれに償いをする。


「それに大丈夫だよ。すぐに戻ってくるから」

「……分かりましたわ」


 そう言うと、既に診療所前に集まった薬草採りを任された里神達に混じるべく、果竪は外に出たのだった。



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