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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

来ないでください豚姫様〜私のスキルは【空】です、追放してください〜

作者: 花芽黒白
掲載日:2026/10/02


俺、キョウヤは転生者だ。


トラックに轢かれそうになっている女の子を庇って死んで、気づいたら貴族である伯爵家の長男に転生していた。

最後の瞬間に見えたのは、トラックじゃなくてトラクターだった気がするが、きっと気のせいだろう。


まあ、そんなことは置いておいて。

この展開はネット小説で100回は見たお約束だ。

つまり、この後に待っているのは、超可愛い貴族令嬢と結婚してイチャイチャできるハッピーライフ間違いなしである。


「勝った。日本のみんな、すまないな。俺の完全勝利である」


……そう本気で思っていたのが5歳の時。

すべてが暗転したのは、8歳で初めて社交界デビューしたあの時だ。


わがまま三昧、贅沢三昧。まるまる太り、装飾過多でごてごて、おまけに周りの話を一切聞かない。

ほしいと思ったものは、どんな手を使ってでも絶対に手に入れたい。

そう周囲から恐れられている公爵家の1人娘、通称『豚姫様』ことリリアナに、一目惚れされてしまったのである。


時を戻そう。


あれは、社交界が始まってすぐのこと。

挨拶回りをしていた時に、俺は彼女に出会った。


リリアナである。

俺は彼女の姿を視界に捉えた瞬間、心からこう思った。

(コイツと結婚するやつは、マジで可哀想だな……)


そう深く同情し、適当に挨拶を済ませて、俺の人生の真のヒロインを探しに行こうとした、まさにその時だ。

豚姫様が、ずいっと地響きを立てんばかりの勢いで話しかけてきた。


「あら、あなた、とってもかっこいいですわね。私が婚約して差し上げますわ!」


俺は、何を言ってるんだコイツは、と思った。

頭がおかしくなりそうになりながらも、すぐに断ろうとした。しかし、最悪のタイミングで公爵様が話に入ってきたのだ。


「おお、リリアナは彼が気に入ったか! 実にめでたい。ビャクヤ殿、もちろん受けてくれるな?」


公爵からの強烈な圧。俺は心の中で必死に神に願った。

(父上、絶対に断ってくださいよ! 息子の未来がかかってるんです!)


しかし、俺の願いも虚しく、我が父ビャクヤは満面の笑みで即答した。


「おお、実にもったいなきお言葉! ぜひよろしくお願い申し上げます!」


俺の可愛い令嬢とのイチャイチャ人生、ここで終了――。

その瞬間、俺は世界のすべてに絶望した。


◇


それから7年。

俺の人生は、文字通り『豚姫様』の影に怯える日々だった。


どこに行っても、彼女がドスドスとついてくるのだ。

学園でせっかく可愛い女の子を見つけても、コイツが常に真横にぴったりと張り付いているせいで、アプローチすら掛けられない。

おまけに、やたらと物理的な距離が近いのだ。迫力がすごい。

一生コイツと一緒にいるなんて、絶対に考えられない。頭がおかしくなってしまう。


だが、今日。

ついに俺がコイツから永遠に離れる、人生最大の絶好の日がやってきた。


今日は、15歳の『スキル鑑定日』。

そして、俺の家族構成は、父、義理の母、義理の弟、そして俺だ。


そう。これもまた、ネット小説で飽きるほど見てきた展開である。


「俺のような無能な長男がハズレスキルを渡され、優秀な弟が最高の神スキルを手に入れる。そして、俺は実家を追放される」


そう、追放されるのだ!

実家を追放されれば、面倒な貴族位ともおさらば。

つまり、公爵家の権力をバックにした豚姫様とも、合法的に未来永劫おさらばできるのである!

追放された先で、俺は可愛い美少女を仲間に引き連れて、念願のなろう系ハーレムライフを送るんだ。


(さあ神よ! 私に今すぐ最高のハズレスキルを与え給え!)


そう願いながら、教会の重い扉を叩いた。


教会の中に入ると、厳格そうな神父様が待っていた。

彼が厳かに聖句を唱えると、神からスキルが授けられる。ここで俺の運命がすべて決まる。

頼むぞ、本当に頼むぞ……!


神父様が聖句を唱え終わったその瞬間、俺の頭の中にスキルの名前と効果が直接インストールされた。


【空(くう)】

効果:空中浮遊、あらゆる攻撃を空を切らせる。


要するに、自在に空を飛び、敵の物理・魔法攻撃が一切当たらなくなるという、超絶生存特化の無敵スキルだった。


(……当たりだこれ。終わった)


神はいなかった。

こんなチート級に優秀なスキルを正直に説明したら、後継者確定で、絶対に追放なんてしてもらえるわけがない。


――いや、待てよ?

頭の回転の早さだけなら自信がある。俺の脳内に電撃的な閃きが走った。


嘘をつけばいいんだ。

神父様は神託によってスキルの『名前』を知ることはできる。だが、その具体的な『効果』までは知ることができない。

だから、このスキルを『空(から)っぽ』、つまり無能スキルだと周囲に解釈させればいいんだ!

そうすれば、俺は予定通り無能として実家を追放してもらえる!


「お、お父様……どうやら私のスキルは【空(から)】……つまり『空っぽ』だったみたいです。何の能力も効果もありませんでした……!」


俺はこれ以上ないほど絶望した表情を作り、弱々しく声を絞り出した。

我ながら完璧な演技だ。


「なに……!? 神父よ、それは本当か!?」


「……は、はい。神託に映りしキョウヤ様のスキル名は確かに【空】となっております。このような、効果が何も存在しない空っぽのスキルなど、私も長い神職人生で初めてでございます……!」


神父様が冷や汗を流しながら困惑している。よし、前代未聞の無能認定をゲットだ。

父親は見たこともないような難しい顔をして黙り込んでいる。


そんな中、俺が内心でガッツポーズをキメている間にも、スキル鑑定は淡々と進んでいく。

さあ、次は義弟トウヤの番だ。

頼む、トウヤ。お前が歴史に名を残すレベルの超当たりスキルを引いてくれ!


「トウヤ様……な、なんと! あなたのスキルは【剣聖】でございます!!」


神父の絶叫が響き渡り、教会内が一瞬で静まり返った。

当然だ。【剣聖】。文句なしの、この世界における最高峰の超当たり戦闘スキルだ。


「お兄様、貴方のスキルは何でしたか? 私は【剣聖】でした!」


トウヤが嬉しそうに俺に駆け寄ってくる。

よし、よし、神はやっぱり俺を見捨てていなかった! 主役が完全に弟に切り替わったぞ!


「ああ、俺のスキルは【空(から)】だったよ……どうやら何も能力がないみたいだ。トウヤ、お前がそんなに素晴らしいスキルを引けて本当によかった。これからはぜひ、お前が我が伯爵家を盛り立てていってくれ!」


俺は追放されたがって居ることがバレないように、寂しげな笑みを浮かべてトウヤの肩を叩いた。


(よし! これで間違いなく俺は用済み! 晴れて追放だ! ありがとう神様、さようなら豚姫様! 俺は辺境で最高のハーレムを作るんだ!)


脳内で勝利のダンスを踊り狂っていた、その時だった。

父親の地を這うような重々しい声が、教会内に響き渡った。


「何を言っている。キョウヤ、お前が我が伯爵家の後継者なことには変わりらんぞ」


……え?

俺の身体はピキリと固まった。あまりの衝撃に、脳が理解を拒んだ。


「な、何を言っているのですか、父上!? どう考えても、これからは【剣聖】を持つトウヤが家を継ぐべきです! トウヤも、当然そう思うだろう!?」


俺は必死の形相でトウヤに視線を送った。

(トウヤ! もちろん家を継ぎたいよな!? 兄を差し置いて自分がトップに立ちたいよな!? なあ、頼むからそう言ってくれ!!)


だが、トウヤは濁りのない純粋な瞳を潤ませ、俺の手を固く握りしめてきた。


「何を言っているのですか、お兄様! 家を継ぐのは、昔から僕の憧れである貴方に決まっているでしょう! 安心してください。お兄様にスキルがないのならば、私が【剣聖】として一生貴方を支えます! 二人で一緒に、この家を発展させて行きましょう!」


「(なんでだよお前ぇぇぇぇ!!! そこは『ハズレを引いた兄貴なんて追放だ!』ってなるところだろ!!!)」


トウヤの深すぎるブラコンぶりに心の中で絶叫した、その時。

教会の扉が勢いよく開き、あの聞き覚えのある甲高い声が響き渡った。


「キョウヤ様〜〜〜!! スキルは何でしたの!?」


リリアナだ。ごてごてと宝石を盛り付けた豚姫様が、満面の笑みで突進してきた。


その瞬間、俺の頭の中に再び電流が走る。

――そうだ。このリリアナに、俺が『無能のハズレ』であることを直接伝えればいいんだ。


いくら我が儘で俺のことが大好きすぎる彼女だって、何の将来性もない無能な男なんて御免被るはず。そうすれば、愛想を尽かして俺との婚約を向こうから破棄してくれるに違いない!


俺は一世一代の、儚げで悲痛な表情を作って彼女に向き合った。


「実は……リリアナ。俺のスキルは【空】だったんだ。中身が何もない、完全な無能スキルだった。……だから、俺のことなんて今すぐ捨てて、君にふさわしいもっと良い人を見つけてくれ」


さあ、現実を見ろ! そして俺を今すぐ振ってくれ!


俺の告白を聞いたリリアナは、その場でピタリと動きを止めた。

当然だ。絶望のあまり言葉も出ないのだろう。


しかし、次の瞬間。彼女の顔は、かつてないほどの感動に打ち震えていた。


「キョウヤ様……! 私の将来を案じて、自ら身を引こうとしてくださるなんて……!ついに私の愛に応えてくれる気になったのですね……!!!!! 安心してくださいまし、私がそんなことでキョウヤ様を捨てるわけがないじゃないですか!!」


「……あ、」


俺は、遠い目をしながら確信した。

神はやっぱり、最初からどこにもいなかった。


リリアナの凄まじいポジティブ変換に俺の脳の処理が追いつかない。

身を引こうとした言葉が、なぜか「プロポーズへの快諾」みたいに受け取られている。ヤバい、コイツのメンタルは一体どうなっているんだ。


「い、いやリリアナ、そうじゃなくて! 俺はマジで何もできない無能で――」


俺が必死に説得そようとした、まさにその時だった。


「おおおおおお……! なんという美しい愛の絆なのだ……!!」


地鳴りのような声と共に、教会の床がビリビリと震え出した。

声の主は我が父、ビャクヤ。

感動のあまり大粒の涙を流しているが、その目から溢れ出ているのは涙だけではない。


凄まじいまでの、文字通り世界を平伏させるかのようなスキル【覇気】のオーラだった。


「キョウヤ、リリアナ殿……! お前たちの深い愛に、この父は今、猛烈に感動しているぞ……!!」


ドンッ!!! と、実体化した覇気が教会内の空気を爆ぜさせる。

周囲にいた神職たちや、護衛の兵士たちが「ひっ……!」と悲鳴を上げてその場に膝を突いた。あまりのプレッシャーに、呼吸をすることすら困難な絶望的空間。


もちろん、その覇気の中心にいる俺は、完全に直撃を喰らっていた。


(が、ガタガタガタガタ……ッ!!!)


恐怖と圧力で全身の筋肉が硬直する。喉が完全にロックされ、声が出ない。

「違う、そうじゃない、俺は追放されたいんだ」と言いたいのに、唇がワナワナと震えるだけで一文字も言葉になってくれない。


しかし、この圧倒的な【覇気】の嵐の中で、たった一人だけ。

1ミリも影響を受けていない怪物がいた。


「ええ、お義父様! 私たち、絶対に幸せになりますわ!」


リリアナである。

精神影響を一切無効化するスキル【無敵の心】を持つ彼女にとって、父親のド級の覇気すら、ただの「心地よいお祝いのそよ風」に過ぎないのだ。


リリアナは、覇気に圧されてガタガタと震えながら首を振っている俺の姿を見て、これ以上ないほど愛おしそうに頬を染めた。


「まあ……! キョウヤ様、嬉しさのあまり全身を震わせて、言葉を詰まらせていらっしゃるのですね……! 照れて首を横に振るなんて、本当に可愛いお方……!」


(ちがう……! 嬉しくない……! 恐怖と絶望で震えてるだけだ……!!)


声にならない悲鳴を上げる俺の視界に、トウヤが涙を流しながらガッツポーズをしている姿が映った。


「兄上、おめでとうございます……! 僕が【剣聖】として、お二人の愛の巣を一生守り抜きます!」という幻聴が聞こえる。


「さあキョウヤ様! 今すぐ我が公爵家へ参りましょう! 無能(からっぽ)になったキョウヤ様を、私の愛と財力で、一生ベッドの上から動けないほど甘やかして満たして差し上げますわーーー!!!」


「(だ、誰か……頼むから誰か……俺を今すぐ実家から追放してくれぇぇぇぇーーーーーー!!!!)」


ドスドスと迫り来るリリアナの両腕(絶対脱出不可能なホールド)を前に、俺は心の中で、今日一番の絶叫を上げるのだった。




ご一読いただきありがとうございました!


もし「面白い」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などで応援していただけると励みになります。

反響が大きければ、連載版としてキョウヤの次なる足掻き(第2話)を書くかもしれません……!

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