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第三話

 眩しい。こうして太陽の光を浴びるのは、もう10年振りになるのか。

 組織での生活は日の光が差し込むこともなく、監獄で過ごしているようなものだった。

 小鳥のさえずり、風で揺れる木々の葉の音、雲ひとつない青空。

 自分が生きている世界が、こんなにも鮮やかだったのかと実感する。 

 胸いっぱいに外の空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。気分が良い。

 無事に傭兵として雇われ、リグラゼシアへ向かうことになったわけだが………

 さて、ここからどう向かえばいいのだろう。

 周囲は森に囲まれ、むやみに動けばすぐに方向感覚を失ってしまいそうだ。

 本当に親切じゃないな、あの組織。

 せめて、どの方角に進めばいいのか教えてほしかったものだ。

 現在地が分からない以上、すぐに向かいたくても向かえない。

 大きくため息を吐く。文句を言っていても状況が変わることはない。

 一旦、この森を抜けよう。

 俺の記憶が正しければ、リグラゼシアは大陸の北側にある。

 つまり、北へ歩き続ければ、いずれは目的地には近づくはずだ。

 確か、太陽は西から昇り、東に沈むと聞いたことがある。

 その知識さえあれば、北の方角を割り出すのは容易い。

 俺は太陽の位置から方角を定め、歩き出した。


 ーーーーー


 半日ほど歩き、ようやく森を抜けた。おまけに、運よく街を発見することもできた。

 これは願ってもない出来事だった。

 とりあえず一安心だ。日は沈みかけており、視界も心許なくなっていたところだ。

 この街で食事と寝床を確保したいが、その前に情報収集する必要がある。

 10年前の知識では古すぎる。今のリグラゼシアがどうなっているのか。

 場合によっては休む暇もなく向かわなければならない。

 傭兵として雇われた以上、その国が滅ぶまでは最低限の務めは果たす。

 ここがどこなのか、リグラゼシアの現状はどうなのか。

 その事を知るため、俺は行き交う人に声をかけていった。


 「そうなっているのか………」

 

 俺のいる現在地は大帝国ヴィスカルの領地であった。

 最初に声をかけた酔っ払っている年配の男性。

 酔っていたことで理性が働いていなかったからなのか、男性は俺の質問に何でも答えてくれた。

 どうやら、あと数日でヴィスカルが全軍を率いてリグラゼシアへ侵攻を開始するらしい。

 その事を話す自慢げに話す表情、声色からして、ここがヴィスカルの領地であることは明らかだった。

 この戦いでリグラゼシアに終止符を打つつもりなのだろう。

 全軍出撃ということは自国の守りを捨てたと言っても同然。

 そんな思い切って舵を切るということは、ヴィスカルはリグラゼシアを滅ぼせるという自信の表れだ。

 いきなり非常に不味い展開である。俺が最も恐れていた戦い方———数の暴力で攻めてくるとは。

 どれほど最強と謳われる強き者でも、弱者が束になればなるほど勝ち目は薄くなってくる。

 まして人間は知能がある分、敵の数を聞いただけで戦意を失ってしまう者も多い。

 国の命運が懸かる一戦。とてつもない窮地に立たされているはずなのに………俺は冷静でいられた。

 無論、自分がリグラゼシア出身でないこともあるが、まだ戦争は始まっていない。

 この戦いの勝敗が、どちらに転ぶかなんて神のみぞ知るというものだ。

 だが、このまま戦争になってしまえば、リグラゼシアに勝機はないだろう。

 ほんの少しでも勝率を上げるための準備を済ませ次第、武器と食料を買い、リグラゼシアに向かうとしよう。

 ―――二日後。

 ようやく準備を終わらせることができた。思いのほか時間が掛かってしまった。

 当初の予定では一日で切り上げる予定だったが、念には念を入れることにした。

 まだ全身の疲労が取れていないが、問題ない。ここからは休む暇もない。

 この街かからもやるべきことは多い。自分の体が持つかどうか、それだけが心配である。

 だが、それを言い訳に、戦争に負けることは許されない。

 負けてしまった時点で、リグラゼシアという国は滅び、大勢が殺され、生き残った者は奴隷として死ぬまで道具のように働かされる。

 勝ったところで得られるのは、一縷の希望と国が存続するのみ。

 そのためだけに、これからも多くの命が失われる。

 そして、国からすれば、何十万と保有している命を一つを失っただけにすぎない。

 命を軽んじている結果が、こうして戦争の引き金となっているのだ。

 俺の目的はリグラゼシアを勝たせつづけ、他三つの国を滅ぼすことだ。

 今回は、その目的のための肝心の一歩目。

 背中には五日分の食料が入った袋。いつ敵と相対してもいいよう腰には双剣を装備する。

 出だしから躓くわけにはいかない。覚悟を決め、俺は街を後にした。

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