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第二話

 ひとまず、最後の5名に残ることができて安堵した。

 これで無事、俺は傭兵として他国に売りに出され、戦争に参加していくこととなる。

 自分の配属先が決まるまでの間、俺たちはその期間中も鍛錬に励むのだった。


 半年が経過した。

 ある朝、俺たちは”JOKER”のリーダーから集合するよう命令がかかった。

 相変わらず、謎に包まれた人物である。黒いコートで全身を覆い、変な鳥の仮面を被っている。

 5名全員が広場に集合したのを確認し、リーダーは口を開いた。


 「お前たち、5名の行き先が決まった」

 

 ついに傭兵として駆り出される時が来たようだ。ここでの生活は長いようで短かった。

 最初は不満しかなかったが、結果的にこの環境が自分を強くしてくれたことに感謝はしている。

 肝心の行き先だが………別に、ミカザを滅ぼした国でもいいというのが正直な感想である。

 傭兵の目的は雇い国を勝たせることであり、今更、個人的な私情を持ち込むような子供ではない。

 俺は、その国を勝たせる責務を全うするだけだ。


 「まず、配属国を発表する前に―――価値のあった者。雇用金が高かったものを上から順に伝える」


 この年代で一番傭兵として価値があった者は誰なのか。

 15歳になるまで共に競い合ってきた身からすると気になるところである。

 それに、この4名の試合を一度も見れていないので、どの程度の実力者なのか未知数でもあった。

 デルとの第一試合が終わってから、他の者の試合も観戦したい気持ちはあったが。

 死体を処理して控室に戻ると、一気に疲れが押し寄せてきて眠ってしまったんだよな。

 

 「一位は歴代最高金額、15白金貨で雇われることになった"アゼ”だ」


 なんと呼ばれたのは自分の名前だった。

 名前が呼ばれたことよりも、15白金貨で雇われたことに耳を疑った。

 そんな一人の傭兵に、そこまでの大金を払うほどの価値があるのか。

 

 「二位はミシェル、5白金貨。三位はトロエモ、3白金貨。四位と五位は同額で、タロスとノーチラが1白金貨だ」


 たった5名だけで、この組織は25白金貨も稼ぐことができてしまった。

 まさか、こんなにも傭兵業が儲かるとは思っていなかった。

 この莫大な稼ぎがあるからこそ、15年代分の子供を用意し、何百人が満腹になるまでの食事と寝床を提供することが可能になっているのか。

 と言っても、その金額を稼ぐためだけに、多くの犠牲を払っていることに目を瞑る事はできない。

 この生業が明るみになった時、この組織の人間が死刑になることは免れないだろう。

 これは他人事ではない。もしかしたら、俺たちも大量殺人の罪で問われるかもしれない。

 そうなった時は、大人しく身を捧げ、どんな刑でも受け入れないといけない。

 それほど俺たちは非道な行いをやってきたのだから。


 「では、一位のアゼから配属国を伝えていく」


 ここまでの大金を払える国となると、大帝国ヴィスカルしか思い浮かばない。

 あれほど大国ならば、国民から税として金を巻き上げ、自分を雇う事は容易な事だろう。

 だが、そこまでして帝国は自分を雇いたいものだろうか。

 10年前の情報だからあてにならないが、この大陸を構成している五大国の中で、ヴィスカルは抜きんでた軍事力、圧倒的な数の兵士、莫大な領土を持っていたため、脅威となる国はいなかったはずだ。

 そんな国が、わざわざ大金を払ってまで、たかが一人の傭兵を雇う意味はないように思える。

 それとも、この10年の間に五大国の勢力図が大きく変わってしまったということか。

 

 「雇い国は、小国家リグラゼシアである」


 リ、リグラゼシア………まさかのミカザの次に小さい国であった。

 というか、まだリグラゼシアは滅んでいなかったのか。

 ミカザが滅び、次の標的にされるのはリグラゼシアだと思っていた。

 しかし、こんな大金を払ってまで傭兵を雇うなんて、相当危機的状況に陥っていることは間違いない。

 

 「用件は済んだ。早速、その国に向かえ」


 「わかりました」


 他4名が、どこの国に行くのか気になるが、リーダーの命令であれば従わざるを得なかった。

 俺が、広場を後にしようとすると、扉の前に立っていた組織の人間の一人に声をかけられた。

 この人も正体を隠すため、狼のマスクを被っていた。


 「これが資金となります」


 「ありがとうございます。今までお世話になりました」


 小さな革袋に入った資金を受け取った後、俺は今日までのお礼を述べた。

 中には10金貨入っていた。これだけあれば、余裕でリグラゼシアに行くことはできる。

 余ったお金は武器や装備に使えってことか。

 せっかく雇った傭兵がすぐに死んでしまったら、大きく組織の評判が下がってしまう。

 その事を危惧し、俺が早死にしないよう多めに資金を用意してくれたのだろう。

 最後の最後まで道具であることに変わりはないというわけか。

 ここまで一貫していると、もはや清々しい気分だ。

 

 「最後に一ついいですか?」


 「はい、なんでしょうか?」


 「こんな事を言う立場ではないのですが………どうかリグラゼシアをお願いします。あの国は私が生まれ育った場所ですので」

 

 マスクをしていても、言葉から気持ちは読み取れる。

 こういう組織にいる以上、どこか一つの国に感情移入をするのは御法度なのだろう。

 しかし、やっぱり国が滅んでしまうかもしれない―――となると、どうしても私欲が前に出てしまう。

 この世界は不思議だ。

 いざ自分の大事なものが失うかもしれないとなると、まるで自分が最初から被害者かのよう振舞う。

 こうして自分の国を思いやることはできるのに、他国や他者となれば、身寄りのない子供を誘拐し、殺し合いに参加させることには疑問を持たないんだな。

 それとも持っているが、自分には関係のないことだから、放っているだけなのか。

 全員が全員、他者を思いやる気持ちを持つだけで、戦争なんて起きることはなかったのだろう。

 だが、これは仕方のないことでもある。人間はそういう生き物なのだから。

 誰もが自分を特別だと思い、自分が一番でないと気が済まない。

 その結果、相手が自分より優れていたら苛立ちを覚えるし、逆に相手が劣っているなら弱い者を虐めることで自分が強者であると思い込んでいたくなる。

 戦争の引き金となる理由なんて、そういった自尊心によるものだ。

 この10年間、どうしたら戦争が起きず、平凡な日常を送る事ができるのかと夜の数だけ考えてきた。

 現実的な案としては同盟を結ぶくらいだった。しかし、同盟というのは対等な関係を築くこと。

 現状、お互いが譲歩し合い、納得できる内容が生まれるだろうか。

 それが出来るのなら、はなから戦争なんて起きていない。

 話し合いで解決できるほど現実は綺麗ではない。

 となると、やっぱり争いは争いでしか終わらせることはできない。

 一つの国が勝利を積み重ねていけば、いずれ他国の力は弱まっていき、ミカザのように滅びる国が出てくる。話し合いで解決ができない以上、他国を滅ぼすこと以外に争いを失くす方法なんてない。

 世の中は強者が絶対的な正義なのだから。

 

 「その願いに応えられるかは分かりません。でも、俺はリグラゼシアが勝たせるために戦うだけです」


 俺はそう言い残し、広場を後にした。

 勝手に期待を押し付けないでほしい。そんな悲劇を味わいたくないのなら、他人に頼るのではなく、自分自身で未来を変えれるよう行動するべきだ。

 弱いままでは、何も守れないし、何も変られない―――5歳の時の俺がそうだったみたいに。

 ―――もっと強くならなければ。

 そう決意を胸に、俺はリグラゼシアへと旅立った。

 

 

 

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