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第一話

 14歳になった。

 こんな場所に、10年近くいたら、人を殺すことに何の感情も抱くなってきた。

 毎年、淡々と作業をこなすように目の前にいる人間を殺していったが。

 断末魔を聞くことだけ慣れることはなかった。

 あの声には、悲しみや悔しさ、怒りといった感情を孕んでいる。

 だからなのか、時々、今でも空耳として聞こえてくることがある。

 生涯、自分が人殺しであることを忘れないよう呪いをかけられているみたいだった。

 当然の事だ。それを否定するつもりもない。

 6歳の時、友人を手に掛けてから、俺は自分が善良の人間だなんて微塵も思っていない。

 そして、この先も傭兵として雇ってくれた国を勝たせるため、俺は大勢の人を殺すことになる。

 その事を十分に踏まえた上で、俺はこの人生を歩み続ける。

 

 最終的に、俺たちの年代で生き残る事ができたのは僅か5名。

 どうやら、リーダー曰く総勢568名が組織に在籍していたらしい。

 最後の殺し合いでは、10名から半分の5名を決めるようだ。

 そして、ここを乗り切ることができたら、晴れて傭兵として生きることができるというわけだ。

 試合の形式は1対1の真っ向勝負。対戦相手はランダムで決められた。

 俺の対戦相手は同年代でも悪い意味で話題になっている相手だった。

 名前はデル。人間を殺すことを快楽としており、死体で自慰行為をするなどネジがぶっ飛んだである。

 しかし、戦闘センスは抜群であり、常人には思い付かない曲芸の発想で翻弄してくると聞いたことがある。

 きっと、デルとの戦いは死闘になるだろう。こいつには常人の発想が通用しない。

 戦闘において必要となってくるのは間合い。

 この距離を見誤ることがなければ、1対1の勝率は格段に跳ね上がる。

 だが、たとえ間合い管理をしていても、デルなら仕留めに来るのではないかという可能性があるだけで思考は鈍る。

 俺たちは第一試合ということもあり、対戦相手が決まってから、すぐに試合開始となった。

 俺が使う武器は小回りが利き、手数の多い双剣。

 対して、デルは右手には斧、左手には槍を持っていた。開幕から意図が読み取れない。

 基本的に両手で持って戦う事をセオリーとしている二つの武器。

 一体、どうやって戦ってくるのか予想がつかない。

 時間は無制限。どちらか一方が殺されるまで決着はつかない。

 つまり、どんなに時間をかけても、最終的に生き残った者が勝者となる。

 とにかく勝つためには情報が欲しい。なので、俺は戦闘態勢を取らず、ただ突っ立っていた。

 こちらか仕掛けてこないと分かり、デルはその誘いに乗ってくるかのように突っ込んできた。

 大きく右手を振りかぶり、斧を牽制するよう投げてきた。

 本命の攻撃は槍か。案外、安直な攻撃で驚いた。

 投げた斧を双剣で弾き飛ばし、俺は槍の先端だけに目を凝らした。致命傷だけ回避すればいい。

 攻撃したら反動がくる。特に、大きな武器であればあるほど、その反動は大きい。

 その隙を双剣の手数の多さで決着をつける。

 槍の先端が届く距離に入ると、デルは俺の思考を読み切っていたのか、自分の足元に槍をぶっ刺した。

 そして、持ち手側を思いっきり蹴り飛ばした後、すかさず一気に間合いを詰めてきた。

 デルは一人で二重の攻撃を生み出したのだ。まさか受け手に回ったことが裏目に出るとは。

 くそ、こうなったら仕方ない。

 俺は槍を双剣で弾き、その後、自分に迫ってくるデルに片方の双剣を投げつけた。

 当然、その攻撃は避けられてしまったが、避ける時間を作り出したことで、絶望的な状況から立て直すことができた―――といっても、こっちが劣勢であることに変わりはない。

 態勢が整う前に、デルは俺の目を執拗に狙ってきた。

 目を潰し、視界を奪うことで勝利を確実にするつもりだろう。

 しかし、その考えもデルの掌の上ではないだろうか。

 さっきの考えが読まれてしまったことが、自分に大きな影響を及ぼしていた。

 こういう戦い方もあるのか。やっぱり天才と戦うのは勉強になるな。

 こうなってしまうと、もう相手のペースだった。こちらに思考を読み切られる前に倒しきる。

 デルは雑な攻撃を繰り返し、俺に考える時間を与えないようにしてきた。

 このまま防戦一方だと、相手より先に俺の体力が尽きて負けてしまう。

 この状況を打破する一手を考えないといけない。

 いくら相手が戦闘の天才だからといって、絶対に勝てないことはない。

 俺なら思い付くはずだ。どんなに卑怯でもいい。脳を全稼働させろ。

 

 「そうやって、お前は両親を殺したのか?」


 デルの攻撃をいなしながら、俺は唐突に口を開いた。

 両親を殺したかどうかなんて知らない。ただ、この組織にいる子供は全員身寄りがない子供である。

 5歳の時から、人殺しに快楽を覚えているデルなら、そうではないのかと探りを入れてみた。

 その瞬間、それは図星だったのか、デルの攻撃速度が一段と落ちた。

 この好機を逃すわけにはいかない。そして、俺はデルに言葉を放つ。


 「どうだった、両親を殺めた時は? 気持ち良かったか、さぞ快楽に溺れて幸せだったんだろうな」


 デルはその言葉を聞かないようにしようと、顔をブンブンと横に振る。

 そのせいで、さっきまで完璧に目を狙っていた攻撃が当たらなくなった。

 まだ心は親離れできていないようだ。


 「安心しろ。お前も両親のもとに送ってやる」


 「や、やめてよ。死にたくないぃぃぃぃ!」


 さっきまで気味の悪い笑みを浮かべていたデルが、その時、初めて絶望に満ちた表情をした。

 そして、赤ちゃん返りをするみたいに俺の胸元に顔を埋めてきた。

 デルは攻撃をしようともせず、もう戦う気力は残っていないようだった。

 楽にしてあげよう。いつまでも両親の事を引きずっていては可哀想だ。

 俺はもう片方の双剣でデルの左胸を躊躇なく貫いた。

 勝敗は決した。非道な戦い方だったが、戦場では生き残っている者が正義である。

 この発想は、デルと戦っていなければ思い付くことはなかった。

 勝負は肉体勝負で決するわけではない。相手の精神にも攻撃を与えることで、戦闘を有利に働かせる一種の戦術となる。

 

 「勝者、アセ・ルーデス」


 判定員の声が上がり、正式に勝者が決まった。

 俺は双剣の血を振り払い、デルの死体を担ぎ、控室に戻っていった。


 

 

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