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プロローグ

 あの日、あの光景を目にした時、この世界は如何に残酷なのかと理解した。

 権力という肩書に欲をかき、限られた資源を分け合おうとせず、同じ人間で殺し合う。

 人間を作り出した神様は、さぞ滑稽と憐れんでいることだろう。

 そして、何より可哀想なのが、ただの自己満足に巻き込まれるである。

 なぜ国の代表者同士が殺し合いをしないのか、なぜ無関係の国民を戦争に出向かせるのか、勝利して得られるものは多くの命を犠牲を払ってまでも手に入れたいものなのか………その問いに正解なんてない。

 一つ言えることは醜い争いだということだけだ。

 だから、俺は傭兵として戦争を戦争で終わらせることにした。

 

 俺、アセ・ルーデスは、ミカザという小さな国で生まれた。

 国の人間は千人程度、領土も他国と比べると十分の一しかない。

 そのため、他国から戦争を仕掛けられるのが日常茶飯事である。

 まだ、ミカザが滅亡していないのは奇跡といっても過言ではない。

 しかし、国が滅びる時は一瞬である。

 あれは俺が五歳の時だった。あの日は天気が悪く、稀に見る大雨だった。

 拭う事のない不安。気持ちが落ち着かないまま、俺は両親が仕事から帰ってくるのを待っていた………すると、突如、大きな爆発音が鼓膜を揺らしたのだ。

 こんな視界が悪いのに、他国が攻めてきたのか。

 慌てて外に出て状況を確認しにいくと、そこは絵に描いたような地獄を表していた。

 いくつもの大きな火球が、まるで流れ星のように上空から降り注いできていた。

 次々と火球は落ちていき、それに巻き込まれた人間は虫のように潰され、家は跡形も残らず燃え尽くされていった。

 早く逃げないといけない、そう頭では分かっていたものの、恐怖心が身体を支配していた。

 足が思うように動かせず、ミカザが刻一刻と滅んでいる姿を見つめることしかできなかった。

 でも、たとえミカザが滅んだとしても、家族さえ無事であれば、どうでもよかった。

 生まれた国がミカザなだけであり、この国に思い入れがないわけではないが、ここで暮らしているのは家族がいるからである。

 きっと大丈夫だ、二人は生きている。根拠はないが、何となく確信している自分がいた。

 そんな時だった。ゴトッ、と何かが足元に落ちてきた。

 視線を落とすと、そこには骨や肉がはっきりと出ている破損した右手があった。

 そして、手首には見覚えのある銀のブレスレットが付いていた。

 これは自分の父親が、結婚祝いに母親から貰ったものだった。

 その事を理解した瞬間、俺は呼吸困難に陥った。

 嘘だ、そんなはずがない。父親が死ぬなんて悪夢を見ているんだ。

 そうだ、この手は父親ではない。誰かが、父親と同じブレスレットを付けた人に違いない。

 この現実を受け止めきれず、情緒が不安定になってしまったのか、そこで俺は意識を失った。

 そこから先の記憶はない。これが5歳の時に体験した出来事である。


 後日、俺は身寄りのない子供を傭兵として育成する組織”JOKERジョーカー”のリーダーに命を助けられた。

 この組織は、質の良い傭兵を他国に売ることを生業としていた。こうして、意識を失った俺を助けたのは善意ではなく、ただの商売道具の一つに過ぎなかった。

 このさき、俺は道具として愛情もなく傭兵として育てられ、他国の戦争に参加して同じ人間と殺し合う事になる。無論、そんな人生を送りたくはない。

 色んな国を見てみたい、美味しい料理をいっぱい食べてみたい、生涯を添い遂げる恋人と暮らしたい。

 そんな極普通な人生を送りたかった。

 だが、現状、俺は命を助けてもらったことは紛れもない事実である。

 おまけに、寝床に食事も提供してもらっている。

 もし俺が傭兵になることを望まなかったら、この組織から追い出されるか、最悪の場合には殺されてもおかしくはない。

 ここから追い出されたところで、子供一人の力で衣食住を確立させていくのは不可能に近かった。

 つまり、この組織に拾われた以上、ここの傭兵になる以外の選択肢はなかったのだ。

 結果、俺は傭兵として生きていくことを決めた。

 

 1年が経過した。自分と同じ年齢の子供が大勢死んだ………いや、俺たちが殺した。

 質の良い傭兵を育てるために、JOKERは一年に一回、同じ年齢同士で殺し合いをさせる。

 生き残ることができるのは、何百人の中から、たったの100名のみ。

 その事は当日になって知らされた。

 来年になったら、また50名。その次は20名と、ふるいにかけられていくのだ。

 その事を聞かされた時、あの日のミカザが思い浮かんだ。

 この世界で生き残るためには強くなるしか方法はない。

 ミカザに力があれば、結末を変えることができたかもしれない。父親を失わずに済んだかもしれない。

 弱者は強者に為す術もなく淘汰されていくのだから。残酷であるが、それが現実なのだ。

 そして心の準備をする暇もなく、殺し合いの幕が開けた。

 最初に殺した人間は、一番仲が良かった男の子だった。

 どんな過酷な訓練も、一緒に励まし合いながら耐え抜き、この一年を共に歩んできた。そして、俺たち二人は傭兵として活躍しようと将来を誓い合った関係だった。

 彼は、とても優しい性格であることを理解していた。

 短剣を持ち、こっちに近づいてくる彼の脚は小鹿のように震えていた。


 「なあ、手を組まないか?」


 手が触れられる距離まで近づいてくると、彼はそう提案し、手を差し伸べてきた。

 非常に彼らしい発言だと思った。だけど、この場所はそんな人物なんか求めていない。

 こうして仲良しごっこをしている間に、周囲は血眼になって殺し合いをしている。

 一緒に訓練をしていた人間とは別の人間ではないかと思うほどだった。

 それほど生き残るために彼等は必死だった。

 しかし、彼はどうだろうか?そして、その提案を受け入れてしまった自分はどうなる?

 こんな甘い考えで、俺たちは傭兵として活躍できるのだろうか。

 

 「そんな考えだと生き残れないぞ」


 「え、どうして?」


 俺は彼の手を振り払った。初めてだった。彼と意見が食い違ったのは。

 彼は自分の提案を受け入れてくれると思っていたのだろう。

 断れたことに対して、驚きを隠せていなかった。

 確かに、生き残る確率を上げるのなら、彼と手を組むことが最善の一手である。

 二人で助け合いながら、一人の者を狙っていけば、100名の中に入ることはできるだろう。

 だが、一人で戦って生き残った者と比べた時、その者と俺たちには雲泥の差が生まれてしまう。

 俺たちが手を組んでしまったら、この差を永遠と埋めることはできなくなってしまう。

 この残酷な世界を生きていくには、強くならなければならない。

 友達は大事だ。出来るのなら殺したくないのが本音である。

 でも、たとえ友達だろうが、強くなるためだったら切り捨てる。

 ごめん。もう昨日の自分とは違うみたいだ。

 この状況が自分を変えてしまった。

 俺は、右手に持っていた長剣を高く振り上げた。

 その瞬間、彼は腰が抜けたのか、その場に尻もちをついた。

 そして、俺から逃げるように後退りしていく。

 

 「………ごめんな」


 今から殺すというのに、謝ることはおかしいと分かっていた。

 彼には感謝しているし、この提案を断ったことも申し訳ないと感じている。

 だから、最後に謝っておきたかった。

 大事な人を犠牲にする分、俺は強くなってみせる。

 彼を逃がさないよう、俺は地面を力強く蹴り、一気に距離を詰めた。

 そして首元めがけて長剣を振り下ろした時だった。


 「だ、誰だよお前! 昨日のお前は、どこに………」


 彼の言葉を最後まで聞くことはできなかった。

 いくら友達とはいえ、こんなにも躊躇いなく殺すことができるとは思ってもいなかった。

 俺にとって彼はその程度の存在だったということか。

 それとも父親が殺されてから、大事な人を失うことに慣れてしまったのか。

 まだ1年しか経っていないのに、5歳の時の自分とは別人みたいだった。

 残酷は、人間を見違えるように育ててくれるみたいだ。

 その後、俺は最後の50名になるまで、ひたすら殺し続けていくのだった。

 

 

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