未知の視線
桜木フユコさんは、四十歳バツイチです。
「恋だ愛だは品切れ中」が口癖のシングルマザーで、高校一年生と小学六年生の二人の息子を育てています。二人ともフユコさん似のハッキリした顔立ちのイケメンです。
今日も早朝から、宅配業者の倉庫で荷物の仕分け作業を終え、帰宅後、朝食の支度し、二人の子供を学校に送り出しました。
手早く身支度をして出勤するのは〇×建設。勤めて、もうすぐ二年です。小さな体のどこにそんな力があるのかと思う程、エネルギッシュに仕事をこなすし、しかも、彼女は帰国子女で英語がペラペラなのです。
心配なのは、お昼ご飯を食べないこと。食べ盛りの男の子二人がいるので食費の節約なのでしょうか、いつも昼休みは喫煙所で煙草を吸って、済ませています。体に悪いですよね。女性の事務職は、仕事が出来てもお給料は高くない。ダブルワークでも、生活は苦しいのでしょう。だから、今日は御自宅のドアに、スーパーで見繕った食料の袋を提げてあげました。
夕方、帰宅したフユコさんは、袋を手に取り、中を見て眉をひそめ、キョロキョロと辺りを見回した。少し、驚いたのかもしれないけれど、そのまま家の中に持って入ってくれました。喜んでくれたようです。
大丈夫、毒なんか入っていませんよ。どれも、ちゃんとしたメーカーの製品だから、安心して食べて下さいね。昔の事件みたいに罰当たりな真似はしません。まして、フユコさんに、危害を加えることなんて出来るはずがない。私はね、頑張っている人を応援したいだけなんです。次の日も、その次の日も、私は袋を提げました。
一週間ほど経った夜。
今夜は残業ですか? それとも、道が渋滞しているでしょうか。フユコさんは、まだ帰宅していない。師走で皆忙しいですね。息子さん達は、もう帰宅したようです。
あ、帰って来ました。フユコさんの軽自動車です。今から、お夕飯を作るのですね。働くお母さんは、大変です。私の差し入れが役立っていると良いのですが。この頃、窓のカーテンがピッチリと閉めらるようになりました。窓ガラスは冷えます。寒くなりましたから、風邪を引かないように気を付けて下さいね。
次の朝、私は見てしまいました。町内のゴミ集積場に出されたゴミを。中身は、私がフユコさん宅のドアに提げてあげた食料です。ええ、何を入れたか全部覚えています。だって、フユコさんが好きな物ばかり買い揃えたのですから。全て未開封でした。食べ物を粗末にする人は嫌いです。まさか、フユコさんが、そんな事をする人だと思いませんでした。
それからしばらく経ったある朝、警察の方が訪ねて来ました。フユコさんが遅くなったあの夜、どうやら警察に相談に行っていたようです。私のした事は犯罪ですか? 頑張っている人を応援しただけなのに。どんな法律に違反するというのでしょうか。観察し、大好きなフユコさんを応援しただけですよ?




