第6話:二人になれない二人
「ーーねぇ、君!ユキちゃんの幼馴染君でしょ?」
マサコの声が夕暮れのホームに響く。
ベンチで所在なげにスマホを眺めていたタカシが、弾かれたように顔を上げた。
「……ユキ?それと……」
タカシの視線が、私の隣で堂々と胸を張るマサコに止まる。
私は何か言おうとして、けれど喉が詰まって言葉が出てこない。
そんな私の代わりに、マサコは一歩前に出て、屈託のない笑顔を向けた。
「やっぱり当たり!私、ユキちゃんのクラスメイト。朝、彼女が急に走り出しちゃったから、気になって付いてきちゃった。君、ずっと待ってたんでしょ?」
「あ、あぁ。まぁ、少し……」
タカシの名前すら知らないはずなのに、マサコは驚くほど自然に彼のテリトリーへ踏み込んでいく。
「朝も思ったんだけど、君、そのシャツ似合ってるね。ユキちゃんが動揺するのも分かるわ」なんて、余計なことまで平気な顔で言ってみせる。
「……ユキが、俺のこと何か言ってたのか?」
タカシが少し照れくさそうに、けれど嬉しそうに私を見る。
マサコに「カッコいい」と言われていたなんて口が裂けても言えず、私は顔を真っ赤にして首を横に振るのが精一杯だった。
二人の会話は、驚くほどスムーズに進んでいく。
マサコは相手の名前を知らなくても、「君はどう思う?」と軽やかにタカシの言葉を引き出していく。
私といる時の、あの静かで、心地よかったはずの沈黙は、マサコの社交性によって鮮やかに塗り替えられてしまった。
(……なんでだろう)
ずっと見たかったタカシの笑顔。
けれど、マサコちゃんと楽しそう話す彼は、私の知らない「普通の男の子」の顔をしていた。
マサコちゃんは、私を助けてくれているだけ、それは分かっている。
なのに、紺色のブレザーを着て二人の少し後ろに立ち尽くす私は、どうしようもない疎外感に包まれていた。
二人を引き合わせたのは、私なのに。
二人の間に流れる新しい空気に、私はどうしても、入り込みことができなかった。
マサコの独壇場のまま、私たちは改札を抜けた。
二人の背中を見つめながら、私は自分の居場所を必死に探していた。けれど、追い打ちは残酷なタイミングでやってくる。
「あ、タカシ君!みーっけ!」
その声は、心臓が凍りついた。
駅前の広場。街灯の下で手を振っていたのは、朝、タカシのシャツを褒めていたーーユカリさんだった。




