第5話:走り出す二人
放課後。マサコと一緒に駅の階段を上がると、反対のホームに「彼」の姿があった。
夕暮れに染まり始めたホームのベンチに。一人でぽつんと座っている。
真っ白なシャツの袖を少し捲って、所在なげにスマホをいじっては、階段の方を何度も気にするように見ている。
「……あっ」
思わず声が漏れた。
それに気づいたマサコが、私の視線を追って目を細める。
「えっ、もしかして……。あそこにいるの、ユキちゃんの幼馴染?」
私は小さく頷くことしかできなかった。
朝、あんなに突き放すように走り去ったのに。
タカシは、私が帰ってくるのをずっと待っていたんだ。
「へぇ……。結構、カッコいいんだね、あの人」
「えっ!?」
予想外の言葉に、心臓が跳ねた。
マサコは面白そうに私を横目で見ながら、独り言のように続ける。
「いや、朝は遠目だったし分からなかったけど。私服の着こなしも自然だし、なんか目を引くよね」
動揺で、顔が熱くなるのが分かった。
私にとっては、ずっと隣にいた。空気みたい存在だったはずなのに。
「カッコいい」なんて他人に言われると、急にタカシが、私の知らない「一人の魅力的な男の子」に見えてきて、ひどく落ち着かなくなる。
「ほら、ユキちゃん!あんなに首長くして待ってるんだから。一緒に行こっ!」
マサコが私の背中をぽんと叩き、そのまま私の腕を引くようにして歩き出した。
「えっ……。でも、私……朝、あんな態度取っちゃったし。一人で行くよ」
「だからこそでしょ。あっちのホーム、ここから階段降りてすぐだよ。ほら、行こ行こっ!」
マサコの屈託のない笑顔に、さっきまでの迷いが少しだけ晴れていく……けれど。
(……マサコちゃんも、一緒に来るんだ)
タカシの元へ急ぐマサコの足取りは軽い。
ついさっき、彼女はタカシのことを「カッコいい」と言った。
その言葉が、胸の奥で小さな棘のようにチクリと刺さる。
マサコちゃんは、励まそうとしてくれているだけ。それは分かっている。
でも、これからタカシに何を話せばいいのかという緊張に、一抹の不安が混ざり込む。
もし、タカシがマサコちゃんのことを気に入ったら。
もし、私の知らないところで、タカシがどんどん「他人の目」にさらされて、遠くへ言ってしまったら?
そんな醜い独占欲を振り切るように、私は重たい紺色のスカートを揺らして、マサコに引かれるまま連絡通路を走った。
夕闇が迫るホーム。
ポツンと座るタカシの背中が、一歩ごとに近づいてくる。
今朝の「ユカリさん」との光景がフラッシュバックして、私は無意識にマサコが引く手に力を込めていた。




