第4話:新たな二人
女子校の教室は朝から独特の熱気に包まれていた。
新しい制服、新しい友達、新しい会話。
みんな、期待に胸を膨らませて「新しい自分」を演じている。
私は、俯いたまま自分の席に座った。
泣き腫らして赤くなった瞼を、少し長めの前髪で隠す。
(……最低だ、私)
自分を変えたいなんて格好いいことを言って、結局、タカシがいないだけでこんなにボロボロになっている。
机に広げた真っさらな教科書が、涙の跡で少しだけ波打った。
「ーーあれ、ユキちゃん?どうしたの、その目」
不意に上から降ってきた声に、心臓が跳ねた。
顔を上げると、昨日お弁当を一緒に食べた、同じクラスのマサコが心配そうに覗き込んだ。
「えっ……。あ、ううん、なんでもないの。ちょっと、花粉症かな」
咄嗟についた嘘。
マサコは私の隣の席に腰を下ろすと、少しだけ声を落として言った。
「……そっか。辛いね、花粉症。でも、もし『失恋』とかだったら、いつでも聞くよ?」
「えっ」
心臓が止まるかと思った。
動揺する私を見て、マサコは少し大人びた笑みを浮かべた。
「昨日、駅の改札で見たんだ。ユキちゃん、すっごい寂しそうな顔した私服の男の子に見送られてたでしょ。……彼氏?」
「あ、……違う、の。ただの、幼馴染で……」
「そっか。幼馴染、ね」
マサコはそれ以上追求せず、自分の鞄から清潔なハンカチを取り出して、私の机に置いた。
「わざわざこの女子校を選んで来たんだもん。何か。理由があるんでしょ?」
マサコが真っ直ぐに私を見て、続けた。
「理由は知らないけど……泣くほど寂しいのに、ここで頑張ろうとしているユキちゃんのことは、嫌いじゃないよ。応援してる」
マサコは、私がタカシに頼りきりだったことも、自分を変えたくてこの学校に来たことも知らない。
知らないはずなのに、彼女の言葉は、私の震える背中を温かく押してくれた。
私は、渡されたハンカチをぎゅっと握りしめた。
鼻の奥がまだツンとするけれど。
彼と同じ学校に行かなかったことを、後悔だけで終わらせたくない。
「……ありがとう、マサコちゃん」
窓から差し込み春の光
私の知らない駅までの定期券は、後悔だけじゃなく、こういう出会いも運んで来たのかもしれない。
ほんの少しだけ、前を向けそうな気がした。




