第3話:気まずい二人
翌朝・駅の改札前で。
僕たちのぎこちない沈黙を切り裂いたのは、明るい高音だった。
「おっはよー、タカシ君!今日のシャツも、すごく似合ってるね!」
駅の改札前に、ユカリの弾んだ声が響く。
ふんわりとした白いブラウスに、春らしいパステルイエローのカーディガン。
僕の知らない「私服校の空気」を纏った彼女が、当たり前のように僕の隣に並んだ。
「あ……。おはよう、ゆかりさん」
隣にいるユキの空気が、一瞬で凍りついたのが分かった。
昨日、あんなに悩んで選んだこのシャツを、最初に見つけられたのが彼女だという事実。
その残酷な偶然に、僕は喉が引き攣るような思いだった。
ユカリは僕たちの間の沈黙に気づく様子もなく、不思議そうにユキを覗き込む。
「へぇ、新しいお友達?おはよ!私、タカシ君と同じクラスのユカリ。よろしくね!」
「友達」なんかじゃない。
けれど、それを訂正する間もなかった。
春を纏ったような私服姿の僕と、ユカリ。
その対角線上に、重苦しい紺のブレザーを着たユキが立ち尽くしている。
彼女の制服だけが、冬から抜け出せないままの不恰好な殻みたいに、残酷なまでに浮き上がっていた。
「……ごめん。電車来ちゃうから」
「え、ユキ?まだ時間はーー」
僕の言葉が終わるより早く、ユキは背を向けた。
「幼馴染」という言葉すら、彼女は置いていってしまった。
紺色の背中が、逃げるように階段の方へ。
「ユキ!」
僕の呼びかけも、シャツの袖を抜ける春の風にかき消された。
彼女は走り出す。僕が踏み込めない、女子校行きのホームへと。
滑り込んできた電車のドアが閉まった瞬間、堪えていたものが溢れ出した。
窓ガラスに映る自分は、涙でぐちゃぐちゃで、ひどく無様だった。
あの女の子ーーユカリさんへの怒りなんて、これっぽちも湧かなかった。
ただ、ただ。
自分の情けなさが、胸を搔きむしる。
「タカシに頼ってばかりの自分を変えたい」
そんな大層な決意を持って、別の高校を選んだのは、私だ。
毎日一緒にいれば、甘えてしまう。
彼がいない場所で、一人で立って歩けるようになりたかった。
ーーバカみたい。
自分を変えたいなんて、思わなければよかった。
あの日、プライドなんて捨てて、タカシと同じ学校に行くと泣きつけばよかった。
「……っ、う……」
嗚咽を漏らさないように、紺色の袖口で口元を強く押さえる。
ゴワゴワとしたブレザーの質感。
あの日、あんなに誇らしかったこの制服が、今は私を閉じ込める冷たい檻にしか思えない。
もし、今、私の隣にタカシがいたら。
「大丈夫か?」って、私の頭を少し乱暴に、でも優しく撫でてくれたはずなのに。
私の選んだこの定期券は、彼の手の届かない場所まで私を運んでいく。
走り出した電車の加速に合わせて、後悔だけが、どろりとした重さで心に積み重なっていった。




