第11話:だんだんと近づく二人
注文を済ませて席に着いた直後、賑やかな声が私たちのテーブルを包んだ。
「あれ? タカシじゃん!」
私服を着た数人の男の子たちが、親しげにタカシの肩を叩く。
「おぉ、なんだお前らもか」
タカシが自然に片手を上げて応じた。そのやり取りは、まるでずっと前からそうしていたかのようにこなれている。
「お前、もしかして彼女? 隅に置けねーな」
「バカ言え! ……ただの、幼馴染だ」
タカシの口から出た「ただの」という言葉。 分かっている。急にこんなところで彼女だなんて言えるわけがない。でも、期待していた何かが音を立てて崩れたようで、私は少しだけ視線を落としてシュンとしてしまった。
「え、でも幼馴染さんは……わぁ、あの可愛い子が多いって評判の女子校じゃん!」
「本当だ、すげー! なあ、今度女の子紹介してよ。合コンとかさ!」
私服で着飾った彼らの勢いに、男子への免疫がない私は、ただ小さく縮こまることしかできない。
「……気が向いたら、後で聞いとくから。ほら、もう行けよ」
タカシが適当にあしらうように言うと、彼らは「おー! 頼んだぞ、タカシ!」と嵐のように去っていった。
「……タカシ。友達、たくさんできてるんだね」
私がぽつりと呟くと、ちょうど店内に受付番号を呼ぶ声が響いた。
『百三十九番のお客様ー、お待たせいたしました』
「あ、俺たちのかな。……俺がユキの分も取ってくるから、座ってろ」
タカシはそう言って、迷いのない足取りでカウンターへと向かった。 二人のハンバーガーのセットをトレイに乗せて戻ってくる、その広い背中。
(タカシは……私がいなくても、一人でちゃんと頑張ってるんだな)
私服の友人たちと笑い合う彼は、私の知らない「新しい世界のタカシ」に見えた。 誇らしいけれど、少しだけ寂しい。 そんな複雑な感情を抱えながら、私は彼が運んできてくれる「二人分の食事」を、ただじっと見つめていた。
「なんか騒がしくてごめん……」
トレイを置いて席に着くなり、タカシが眉を下げて謝ってきた。
「あいつら、俺みたいにモテないからさ。きっと……可愛い女の子を見て、テンション上がっちゃったんだと思う」
「かわ……っ!?」
不意打ちだった。 ポテトをつまもうとした指が、空中で止まる。
(可愛い……? えっ、それって、私のこと……?)
タカシは照れくさそうに視線を逸らしているけれど、その言葉は真っ直ぐに私の胸に飛び込んできた。
けれど、喜びのすぐ後ろから、また小さな不安が顔を出す。
「でも……私なんかと一緒にいて、よかったの? 学校で『女の子といた』とか言いふらされて、タカシが嫌な思いしないかなって……」
「――嫌なわけないだろ!」
タカシの声が、少しだけ強くなった。 驚いて顔を上げると、彼は真剣な眼差しで私を見つめていた。
「ごめん、強く言いすぎた。……でも、本当に嫌なことなんて一つもないから」
「……そっか。ごめんね」
(嫌じゃないんだ……)
「ただの幼馴染」という言葉で冷え切っていた胸の奥が、じわりと温かくなっていく。
「そういえば、今度の日曜……勉強会にするか」
「う、うん……いいよ」
タカシが話を戻すと、私はポテトを一口齧って頷いた。
「場所、どうする? 俺の家にするか、ユキの家にするか……。それとも近くの図書館にするか?」
タカシの家。彼の部屋。二人きり。 そこまで想像して、私は急激に心拍数が上がるのを感じた。今の私があの部屋に行ったら、勉強どころじゃなくなってしまう。
「……図書館にしよっ。その方が、集中できそうだし」
「そうか? ま、そうだな。じゃあ、朝から行くか」
「うん!」
図書館なら、きっと大丈夫。 けれど、並んで座って、静かな空間でタカシの横顔を眺める自分を想像して――結局、私の心臓はうるさく跳ねたままだった。




