第42話 運命の行方(2)
――同日、授業後
太陽君と話したお昼休み以降、二カ月先の進路についてずっと考えていた。
このままこの学校に残って茶話部を続けたい気持ちもあるし、太陽君とも秋見先輩とも一緒に居たい。
午後の授業の間では、結局答えは出せなかった。
何かの決断をする時には、判断基準が必要と思う。だけれど、天秤のどちら側にも同じくらいの重りが乗っかっていて、どうしても決められそうにない。
人生を決めるかもしれない判断だから、1週間くらいは悩んでも良いはず。家に帰ったら、またゆっくり考えよう。
それよりも今は、目の前のことに集中しないと。
私と太陽君は、先生に呼び出された通りに校長室までやって来た。
「「失礼します」」
太陽君と一緒に校長室へ入ると、思わず背筋が伸びる。校長、教頭、学年主任、茶話部の顧問の先生が勢ぞろい。
――これは絶対に大ごとだ。
太陽君は大丈夫と言っていたけれど、そんなことは無いって雰囲気で分かる。
校長先生は前にお茶会をした時の優しい表情が硬くなっているし、教頭先生は何も言わずとも顔が怒っている。
その空気に飲まれてそそくさと入室する太陽君を見て、少し気持ちを落ち着かせる。
こういう時は気持ちで負けてはいけないので、私の方から校長先生に話しかけよう。
「校長先生、今日は何の用ですか?急に呼び出されて驚いてます」
「とても驚いている様には見えないですよ。急に呼び出したことは悪かったね。今日は少し聞きたいことがあるのです。まずはこれをご覧なさい」
咳払いを一つして、校長先生は机上の資料を渡してきた。
――教育委員会からの通告?
「この度、教育委員会から知らせがありまして、何でも茶話部の中で重大な問題が発生しているという匿名通報があったようです。そこで、学校側としても調査を行い報告をしなければならない。それに協力して欲しいのです」
――匿名通報?
誰がそんなことをしたのだろう。顧問の先生では無いことは心を読んで確定しているし、私に恨みを持った生徒か、他の先生によるものだろうか。
そもそも通報されたところで特段問題はない。だって、本当に問題は無いのだから。
私はまだ強気で行く。
「事実無根です。もちろん協力は惜しみません。既に調査はしたのですか?」
「顧問の先生に聞いてみた所、全く問題ないと言っていました。部長である企比乃さんも事実無根と言うし、通報自体が誤りの可能性もあるとは思われます」
「つまり、疑いは晴れたと言うことですね。では、これで失礼します」
校長先生は、可能な限り早く帰ろうとする私を引き留める。
「もう少し待ちなさい。私もそうしたいのは山々ですが。それが、そうもいかない事情があります」
「というのは?」
「この匿名通報には証拠があると教育委員会が言っていてね。その証拠は学校側の我々にも知らされていない。ですが、あちら側は重大な問題があることを確信しているようです。調査というのは名目で、暗に《《きちんと処分して報告せよ》》ということになります」
――何だそれ。めちゃくちゃだ。
そんな理不尽を押し付けられて、黙っている私じゃない。密告者の犯人探しをしないでは居られない。
校長先生を始め、先生達四人の心を読む。
『匿名通報の詳細を教えて』
『『『何も知らない』』』
これだけ先生が揃っていて何も知らないなんて、どう考えてもおかしい。
――もしかして、太陽君が通報したの!?違うよね
『匿名通報の詳細を教えて』
『何も知らないよ』
ああ、良かった。良くはないけれど。
太陽君に裏切られたのかと思った。
ほっと、肩を降ろすのもつかの間、校長先生は話を続ける。
「私としても、苦しい判断ではある。ですが、何も無いというのは少し無理があるとは思いませんか?企比乃さん」
「何も無いので、嘘はつけません。仮定の話、このまま無いと言い続けたらどうなるのですか?」
「良くて茶話部の廃部。悪くて停学か退学になります」
――ああ、本当に最悪だ。
何か術は無いのだろうか。
とにかく今は時間がいる。時間を稼げば方法も見えてくるはず。匿名通報者は必ずこの学校にいるだろうから、片っ端から心を読んで犯人を見つけてやる。
「そうですか。無いものを有るとは言えません。部員にも聞いてみたいので、一週間の時間を下さい。来週のこの時間に改めて報告に来ます」
「一週間ですね。良いでしょう。ただし、教育委員会への報告にも期限がありますから、その時に最終的な処分まで決定しなければなりません」
「とても不本意ですが、分かりました」
…
校長室を後にした私達は、そのまま一緒に下校することにした。
「太陽君、全然大丈夫じゃなかった」
「そうだね……」
「私、絶対に通報した犯人を見つけるから。そうしたら茶話部を続けられて、それで……」
茶話部を続けて、私は本当に学校に残りたいのかな。匿名通報はある意味で、太陽君についていく理由になるのかも知れない。
転校してしまえば、部活も停学も関係ない。きっと、全ての問題が解決する。
――これは運命なのだろうか。
運命が、私は太陽君と一緒に居るべきと言っている?
「ごめん、やっぱり私、自分がどうしたいのか分からない」
「ゆっくり考えてよ。結姫の人生だからさ。でも、本音は、もちろんずっと一緒に居たい」
「うん、分かっているから。どちらにせよ、まずは犯人探しをしてみる。ちょっと色々あり過ぎて、一個ずつ片付けていかないと」
「そうだね、そうしようか」
私の進路のこと、
匿名通報のこと、
香取さんのこと、
難しい問題が山積みで、頭がパンクしそうだ。
明日から頑張ろうと思って、隣を歩く太陽君の手を握る。
この温度を感じていられるのは、もうそんなに長くないのかもしれない……。
匿名通報により、茶話部は完全崩壊の危機です。
果たして、犯人は見つかるのか。
結姫ちゃんは進路をどうするのでしょうか。




