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恋についての全てを私は知りたい。 〜癖強JKが超能力で男子の心を読み恋を知る〜  作者: 向夏夜なくの
一部 三章 恋が人に与える影響について

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第36話 諦められない恋心

場面は、33話の続きからとなります。

小テストの問題を必死に解く舛谷先輩の背中に、人間大の寄生虫がくっついてしまった。


幸いにも言葉は交わせたので、交渉で何とか剥がれてはくれないだろうか。とは言え、会話するのも面倒だから、できる限りは観測分体で覗いてみようと思う。


彼女に近づいて、必要そうな情報を観測分体で読み取っていく。


名前は香取蛍華、一年一組の生徒で家庭科部に所属している。私と三花ちゃんは二組で、太陽君は三組だから、全員とクラスが違うことになる。


舛谷先輩が好きで好きで仕方がなく、告白するも失敗。それでも諦められず、定期的に舛谷先輩に話をしに行っている内に、ストーカーになりかけている状況らしい。


『何でそんなに舛谷先輩が好きなの?』

『理由なんかいらない。初めて見た時から全部が好き。大好き』


──困った。


お悩闇相談で来ているのだから、茶話部として解決案を提示してあげないといけない。けれど、この悩みを解決することは出来ない。


何故なら、舛谷先輩には秋見先輩という彼女がいて、彼は部活を辞めてしまうほどに秋見先輩のことが好きなのだから。


香取さんと舛谷先輩を付き合わせるという、根本的な解決は出来ないとして。それ以外にどのような結論を出してあげられるのだろうか。


適当にあしらって帰ってもらうことも難しそうだ、絶対また来るに決まっている。それに、彼女がどのようにして先輩をここまで好きになれたのかには興味がある。


だから無下には扱わないで、少なくともそれが分かるまでは近くに置いておきたいかな。必要とあれば、秋見先輩には悪いけれど部員になってもらうことも必要かもしれない。


「舛谷先輩はこの人、知ってるんですよね」

「ああ、前に告白されてな。俺には愛可がいるから付き合えないって言ったが、関係ないらしい」

「先輩は嫌いにさせる努力とかしました?」

「一般的に嫌われそうなことは常識的な範囲で一通り試したんだが、分からん。無駄な努力はしないことにした」

「私は何をされても嫌いになることなんて無いですぅ」


舛谷先輩は嫌われることを諦めてはいるけれど、そもそも彼女に対する嫌悪感はそれほど無いようだ。


自分を死ぬほど好きで居てくれる人がいたら自己肯定感が上がるのかも知れないし、今みたいに背中で胸も揉めるし、男の子ってハーレムとか好きなのかも知れないけどさ。秋見先輩の手前、男らしくスパッと振り切って欲しい。


スパッとといっても、どうするかは思い付かないけど……。


ボコボコにグーでパンチ!するとか、他のフリーなイケメンを差し向けても余り意味は無さそうだよね。


――三花ちゃんの観測分体って人間の記憶を元に戻すとか出来るんだっけ?


うん。

良い案はそうそう浮かぶものじゃない。


まずは、永遠にくっついている香取さんを舛谷先輩から引き剥がすことから始めよう。


「舛谷先輩は逃げないから一旦離れようか、お悩闇相談で来たんだよね」


彼女は舛谷先輩の背中に頬を擦り付けるように頷くと、余韻を感じながらも背中を離れる。


私は彼女を席に案内すると、太陽君にとびっきり精神安定出来るような紅茶をお願いする。そんなのあるか知らないけれど。


このぶりっ子で癪に触る話し方をする香取さんの相手をする私にも、妄信的に先輩を愛している彼女にも、精神を安定させることが必要だと思う。


香取さんは先輩の隣の椅子に座ると、早速お悩みを打ち明ける。


「私ぃ、自分でもおかしいって分かってるんですけど、先輩のことが好きで仕方が無くってぇ。忘れられないのですが、どうすればいいですか?」


さっき、心を読んだ通りの悩みだ。

自力では解決できなさそうで、どうしようもなくて、舛谷先輩に会えるから相談に来たってことまでは、もう心を読んで把握済み。


けれど、心が読めても答えが分かる訳じゃない。そんなこと聞かれても、正直全く分からない。


私は彼女のことをまだ全然分かってないし、分かろうともしていない。だから解決策が浮かばないのだと思う。


これだけ正直で赤裸々に相談させておいて、それじゃあダメだよね。私の気持ちはさて置き、一部長としてはダメダメだ。


何か、もっとこう、ライトなTHE学生恋愛と言うか、青春的なノリでのお悩闇を期待してたのだけど、どうしてこうなったのだろう。


「(はぁあー)」


一つ大きなクソデカため息が出る。

正直面倒で今すぐ家に帰りたい。その気持ちを抑えて、茶話部部長としての覚悟をもって、彼女をもっと知るために心を覗く。


彼女と両手を繋いで、念じる。


『あなたの今の気持ちを私に教えて』


イメージするのは、今までのような言葉だけではなくて。形の無い感情そのものを知りたいという思いを込めた。


『好きでいることは苦しぃ。諦めるのも苦しい。彼女代わってよ、ちょっとだけ舛谷君を貸してよぉ。私のどこがダメなの?どうすれば付き合えるの?教えてよ、誰か!いっそのこと忘れたいよ。苦しい──』


「ううぅ……」


彼女の心を覗いた途端に、深海?、いや、とても冷たい水の中に閉じ込められてしまった。


指の先から徐々に凍って自分というものが死んでいくような感覚に襲われる。


じわじわと、体の芯まで、心まで凍っていくのを待つしかない絶望。全身が闇に飲まれたように、ダークな言葉や感情に頭を支配される。


息が苦しくて、呼吸が無理になる。

厭世感。私の居場所はここには無い。


舛谷先輩にと言うよりは、漠然と世界に嫌われていて、自分が嫌いで。真っ黒なドロドロとした液体の中でもがくしかない。


黒さの濃度が段々深くなって、光を失って、何も見えなくなる。液体が次第に固まって、ついに動けない。


自分のことなんか嫌いだ。

無価値だ。

◯ねばいいのに。


頭の片隅にしまえこんでいられる程度の小さな暗い思いが、膨らんで、大きく溢れて、はぜて、私を押しつぶした。



──誰か、助けて……



「もう◯して欲しい。楽になりたい」と思った時、秋見先輩に肩を揺すられて正気を取り戻せた。


「結姫ちゃん、急にどうかした?大丈夫そう?」

「ごほっ!はあっ!はぁ。だ、大丈夫です」

「良かった。死んだ魚みたいな白目になってたからさー」


ああ、恋のつらさってこういう感情なんだ。

言葉にならない気持ちの曖昧さと、重圧と、情報量に酔って、少し吐き気がする。


何となく分かることは、今のは香取さんの内に溜まった負の感情のダムに、身を投じたであろうということだ。


辛いとか、苦しいとか、ストレスには受け止められる許容量が人ごとにあって、彼女は私のよりもその量が大きいみたい。


私には耐えられないくらいのストレスを、今の香取さんは感じている。


予想に過ぎないけれど、近々、香取さんの精神はもっとマズい状態になる。感情のダムが決壊して、その先に待つのはさっきの私が感じた終わりの瞬間。あの瞬間がずっと続くと思うと、人間どうなるか分からない。


──最悪の場合もある。


今になって、途中で観測分体で覗くこと止めていたことに気付いた。心を読むことを止めても、私の頭と体は、受けた衝撃の余韻を覚えている。


――これは何とかしないといけない。


私だけしか、分かってあげられないと思うから。


深く心を読む前の私は、香取さんの気持ちを分かったつもりになっていただけだった。


秋見先輩、怒っているところごめんなさい。できる限り悪いようにはしないので、彼女の面倒を見させてください。

そう思いつつ、秋見先輩が差し出したハンカチで涙を拭う。


ハンカチから、いつもの秋見先輩の匂いがする。私は少し平常心を取り戻せた。


彼女は今のまま舛谷先輩を好きでいたらダメということは分かっていて、それでも諦められないから相談に来た。


舛谷先輩と付き合うか、良い諦め方を教えてあげるか、どちらかの答えを出してあげれば良いと言うのは分かる。

良い諦め方って一体何だろう……。


「香取さん、舛谷先輩のことを諦めたいと考えるようになったのはいつ頃からですか?」

「えっとぉ、一ヶ月くらい前ですね」

「なるほど、自分の中でどうすれば解決出来るかは分かっていますか?」

「全ったく分からないですぅ。全部話すので、良い案を教えて貰いたくて……」


そうして香取さんは、自分が舛谷先輩を好きになってから考えてきたことを一つ一つ、思い出し思い出し話す。口調が鼻につくが、さっきよりは気にならない。


その言動は感情的で、体面とかはどうでもよくて、繰り返しで、時に理解し難くて。


「──ということがあってですねぇ。凄く嬉しかったんですぅ。あ、まだありますよ、──」


けれど、とにかく今までの舛谷先輩との時間をとても楽しそうに話す。


何故、振られた相手の話しながらニコニコ出来るのか。普通は出来ないし、しないと思う。でも、観測分体で読み取った下地があるから、何となく分かる。


――どうしようもなく舛谷先輩が好きだから


放っておいたら一生続きそうな香取さんのおしゃべり。よくも、一人の人間についてそこまで語れるものだ。


ひしひしと伝わってきた印象は、何度も恋愛感情と向かい合って、抑えて、溢れて。それを繰り返しているうちにそれを繰り返すことが当たり前のようになって、最近は時に好きでいることが馬鹿らしくもなるのだけど、結局はまた好きが抑えられなくなってしまうということ。


秋見先輩始め茶話部の皆は、もちろん舛谷先輩も当然のように香取さんの一言一句は聞こえていて、なんとも微妙な空気が部屋を満たす。


「──それでそれでぇ、先週はですねぇ──」


太陽君が温かい紅茶を運んでくるまで、香取さんの言葉は溢れて途切れなかった。

神視点で、香取さんの心理を解説します。


「舛谷先輩のことを好きで居ないといけない」「舛谷先輩を好きで無い自分は自分じゃない」という自己暗示と、「舛谷先輩に迷惑を掛けたくない、諦められない自分は弱くてダメな人間だ」という自己嫌悪の重ね合わせから、自力で抜け出せないのです。

つまり、恋のデッドロック状態という訳です。(先輩を好きじゃない私は私じゃないから、自分が嫌いな自分から抜け出せない)


普通は諦めがつくものですが、香取さんは閑話の過程でこじらせちゃっています。

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