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恋についての全てを私は知りたい。 〜癖強JKが超能力で男子の心を読み恋を知る〜  作者: 向夏夜なくの
一部 三章 恋が人に与える影響について

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第34話 【閑話】香取蛍華

前話の最後に登場した、高校一年の香取かとり蛍華けいかさんと舛谷先輩についてのお話です。少し暗いです。


時はさかのぼり、五月。

場面は結姫達と同じ高校。

(大月君が転校してきたのと同じ頃。)


【香取さん視点】

「それじゃ、今日はここまでかな。ありがとうございました」

「「ありがとうございましたー」」

「いやー。今年も部員集まったし、家庭科部も安泰あんたい、安泰!」


入学して一ヶ月、私は家庭科部に入った。


別に家庭科部に入りたいから入った訳では無くて、丁度いい部活がこれしかなかったから。


何らかには所属したくって、消去法で決めた。


今日の活動も終わって、「週一くらいでやればいいのに」という愚痴を、誰も聞こえないように言う。


月に三回しか活動が無い(そのうち一回は土曜日だ)から平日はちょっと暇で、友達はみんな部活をやってるから週末しか遊びにも行けない。


私の部活選びの条件は、週一くらいの頻度で活動があること。普通に考えて、平日毎日やるような部活は大変そうなんだよね。土日もとか論外だ。


運動神経も無くて器用でもない私は、運動部ではほぼ確実に馴染めない。だから、そういう部活に入ろうとも思えない。


最初は一ヶ月お試しで家庭科部に入ってみることにしたのだけど、結果、活動内容自体は私に合っていた。


活動の流れは月単位だ。

月初に何をするか部員と雑談しながら相談して、先生に相談しに行って。二回目で準備して。三回目に実際にやってみる。という感じ。


四月はオムライスを作った。

お母さんの作った方が数倍美味しいけど、マズイ訳じゃなくて。誰の作ったのが美味しいとか見た目が良いとか、そういう他愛もない話をしながら過ごす時間は楽しい。


本当は運動部に入ってワイワイしてみたい気持ちもあるよ?


でも成績的にもギリギリ滑り込んで入学したから、テスト期間以外も勉強しないとやってけないし、そもそも勉強始め全般的に要領も良くないので、部活をガチる余裕は無い。


家庭科部はそんな私の為にある部活のように思えた。


帰り際、下駄箱の靴を履きながら今日の宿題のことを考えていると、家庭科部の部長が話しかけて来る。


「香取さん、ちょっと待ってね。部活で伝え忘れた連絡事項があって。ちょっと時間良い?」

「良いですよぉ。ここで話します?」


別に早く帰って宿題がやりたい訳でもないし、願ってもないことだ。先輩と適当に座れる場所を探して、体育館の出入口である石階段に二人で腰をかける。


「五月なのにもう暑いよね。体育館前だけは風通りが良くて涼しいし、バレーボール部の男子が頑張ってる所も見れるしさ」


もう靴を履いたから屋内に戻るのも手間だし、体育館の運動部を見学というか覗くようなポジションにはなるものの、それが適度な雑音になるし、風通しが良くて涼しい。

良い場所だなと思った。


「この場所好きですぅ。部長って、バレーに興味あるんですねぇ」

「興味だけね、陰は陽に惹かれるというか」

「興味だけはあるんですねぇ。実は、私もですぅ笑」


入部関連の紙とか諸々の連絡を済ませると、私と部長は無駄話に花を咲かせた。


私は体育館の出入り口を閉じた金網にもたれて、部長は私と対面で話しながら私越しに部活を覗いていた。


「でも普通に考えてぇ、この体育館の中に好きな人居るんじゃないですか?」

「あ、分かっちゃう?まあでも、私じゃどうせ無理だからな。好きな人もいるらしいし、自分から告白するのも気が引けるしさ」

「好きな人とか調べてるんですねぇ」

「ま、まあ、情報として持っているという感じだな。姉ちゃんいはく、恋愛はまずは情報戦らしい」

「なるほど、勉強になりますぅう"っ!!!」


その時、私の頭にバレーボールが激ヒットした。


金網はボールが外に飛んでいくのを防ぐ為の柵で、その隙間に頭をかっちりめ込めるほど目が荒いので、金網虚しくはみ出た私の頭にボールが直撃。衝撃を頭に、もろに受けた。


痛いとかよりも驚きで、反射的に頭を抑えていると、近くのバレーボール部員が走り寄ってくる。


近づくシューズ音の方を振り返ると、金網を挟んだ凄く近くで私の頭を確認してくる人……男子が居た。


「おい、大丈夫か?」


――顔近いっ!

――しかもイケメン!!


「はぃ…ぃ!」

「良かった、気をつけろよ。サーブ打った奴に苦情言っとくな。お嫁に行けなくなったら責任とれって笑」

「はぃ!よろしくお願いしますぅ」

「!!?」


――はっ!


今、何を言ったの私は??


一瞬だけ目が合うと、彼は何事も無かったかのように部活へと戻っていった。


「蛍華ちゃん大丈夫?頭にタンコブ出来てない?」

「本当に大丈夫ですぅ、驚いただけですぅ。それより先輩!今来た男の子の名前って分かりますか?」

「ああ、分かるとも。彼は二年の舛谷珀君、身長高くてイケメンだよね」

「ちなみに先輩の好きな人って……?」

「ははーん。もしや、一目惚れってやつ?大丈夫、私の推しは彼じゃないから。応援してる」



帰り道、私の頭は舛谷君でいっぱいだった。

あんなに近くで男子の顔を見たことがあっただろうか。いや、あったかも知れないけれど、これ程鮮明に記憶に刻まれたことは無かった。


私は恐らく、今日を一生忘れることは無いだろう。


夕陽が鮮やかで、アスファルトの石粒が普段よりもはっきり見えて、脳が冴えるような感じがする。心地よい風が、肩まである私の髪をなびかせる。


「……これが恋か?初恋かぁ?」


これが舛谷先輩と私との出会いであった。





それからというもの、私は家庭科部の先輩と協力して情報収集に務めた。


具体的には、たまに体育館に覗きに行くとか、部長権限で部活の時間を使って皆と恋愛相談をしたりなどした。


その結果分かってしまったことは、彼にはお付き合いしている人が居るということだった。相手は二年の秋見さんという人らしい。

情報源は家庭科部の二年の先輩なので、ほぼ確実だ。


それでも。

情報源の先輩に案内して貰って、二年生の教室にまで秋見先輩を覗きに行った。彼の彼女がどんなものか見てみたかったから。


私が教室を覗くと、彼女はクラスメイトの男子と楽しそうにお喋りをしていた。

しかも、クラスの全女子の中で、彼女は一番かわいく、輝いて見える。


――帰宅部のクセに……。


その姿を見た途端、私の中の暗い感情がグツグツとあふれてきた。


人生楽しそうな人だな。

なんというか、私が確実に勝っているのは胸の大きさくらいで、それ以外には勝ち目が無い……か。


せめて私みたいな女の子だったらその席を代われた可能性はあるかもだけど、余りに人間が違いすぎる。


男馴れしてそうだけど清楚感があって、体の線も細くて、コミュ力が高そうな感じ。私とは正反対のような人間に見えた。


――そりゃそうか、そうだよね。


あんなに優しくてカッコいい先輩なのだから、その彼女さんだって、あのくらいじゃないと釣り合わないよ……。


「……そうだよね。そうだ、そうだ」


私は秋見先輩を見に行ったその日、家に帰ってから独りで泣いた。


諦めないといけないと思って、忘れないといけないと思って。


何で私なんかがお付き合い出来ると思っていたのか、自惚うぬぼれていたことに気付いた。自分のことを嫌った。


――だけど、舛谷先輩のことを忘れることは出来なかった。


忘れようと思っても、何度そうしたくても、出来なかった。


学校に行く度に、部活で先輩の顔を見る度に、都度、逐一、もれなく悲しい気持ちがフラッシュバックする。


授業中にも思い出して、涙が出てきて、気づかれないように涙をぬぐった。


――忘れることは出来なかった。それだけ私の記憶に強く残っているから。


気持ちを切り替えることも出来ないけれど、屈しなかった。毎日学校に行って、勉強して。とにかく勉強して忘れようとした。


勉強に集中している時だけは、私は彼を忘れることができたから。


分からない問題で気が散ると、彼を思い出してしまう。でも、解けるようになると、その問題で彼は思い出さない。そして、彼は次の分からない問題で現れる。その繰り返しだ。



そうしていること半年。十一月。

時間経過と試行錯誤によって、私の想いはもはや概念にまで昇華された。


つまり、忘れるのでは無く、神格化させることによって恋愛対象ではなく信仰対象にすることが出来た。私の精神は神を得て安定した。


――これが“悟り“なのだろうか。


何しろ、一件落着。たまに理由も無く涙は出るけど大丈夫。


部活だって前みたいに楽しいし、勉強の成績もちょっと良くなったし、結果良かったのかも。


「おはよう!」

「部長!おはようございますぅ。人生は経験ですね」

「?……ま、まあそうだね?お裁縫セット持ってきた?」


カバンをゴソゴソして、裁縫箱をデデーンと掲げる。


「いいね!家庭科部の皆は良いお嫁さんになれるよ」

「そうですね。頑張りますぅ」


「あ、そう言えば、……って何でもない!」

「何ですか?気になるじゃないですかぁ」

「いや、何でもないから、忘れよう。私は忘れた。聞かない方が良い。フリじゃなくてね。また病んじゃうかもしれないし……」

「私も聞いたこと忘れるので教えてください!私も成長してるんです。部長ぉ」

「そうか。なら言うけど。例の舛谷君だっけ、彼女と別れそうらしい」

「そ、そうなんですねぇー。へぇぇー」


何でもないように、興味が無いように振る舞う。


秋見先輩を見に行ってから数ヶ月、気持ちが落ち込んで家庭科部の先輩たちのお世話になった。出来ればもう迷惑は掛けたくない。


けれど別れそうと聞いた途端に、嬉しいのか悲しいのか、一体なんなのか分からない感覚に襲われた。


――あ、そういえば……。


私、なんで舛谷先輩に告白もせずに諦めようとしてたんだっけ。秋見先輩と別れるってことは、秋見先輩じゃない私にも可能性が出てきたってことだよね。


心の重しが軽くなったような気がして、同時に心の奥に閉じ込めていた想いが再び溢れ出てくる。


──その時、私の中で神格化されていた舛谷神は堕天した。


私が届きうる、望める範囲の存在だと再び思ってしまった。


そうして私の精神は、また乱れ始める。

重めの話でした。

次話まで閑話が続きます。

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