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5.都会の駅はダンジョンと呼んでいい

 どれだけ逃げたくても嫌な日はやってきてしまうもので、早くもきてしまった会合当日。


 俺は慣れない新宿の地を走っていた。


 何故か。普通に遅刻しそうなのだ。


 そもそも到着が予定より遅れてしまったものの、到着当初はまだ余裕があるから、なんて余裕ぶっこいたのだが、東京の駅というダンジョンより迷宮している存在のせいで見事に迷った。


 まずいまずいまずい、特異災害対策庁ってどこだよ。おいスマホのGPS君!? なんでこんな時に限って自分の位置をきちんと表示してくれないんだよ!


 焦りながらスマホと辺りとをにらめっこしていると、不意に誰かがこちらにかなりの速度で突っこんできた。


 ここがダンジョンだったなら、突っ込んできたものを躱した上で三回ほど斬撃を叩き込んでいたところなのだが、あいにくここは人混みだらけの新宿。

 周りが邪魔で躱すことはできず、突き飛ばしてしまえば相手が怪我をしてしまうので大人しく衝撃を受け入れるしか無かった。


「うぐっ」

「す、すみません!!」


 胸に刺さる少女の頭と、辺りにぶちまけられる、彼女の持っていた鞄の中身。


 思ったより強い衝撃に驚く。大丈夫か?ぶつかった人、かなり痛そうだけど。


「ちょっと!何してんの(みお)

「わわわ、だって夏芽(なつめ)ちゃん、急がないと遅刻しちゃうんだよ!」


 ぶつかってきた人物は小柄な少女で澪というらしい、その後ろから夏海とよばれていた気が強そうな雰囲気の少女が慌ててぶつかった少女に声をかけていた。


「ご、ごめんなさい私達、とっても急いでまして」

「いや、気にしないでいいよ。俺も中身を拾うの手伝うね」


 正直、俺もこんなことをしているだけの時間的な余裕はないのだが、さすがにこれを見てみぬふりするのは人間としてダメだろう。


 彼女の荷物を拾い集めているところで、ファイルに入った見覚えのある封筒を見つけた。差出人はIRMとなっている。

 ……これ、もしかしなくとも俺が受け取った封筒と全く同じやつだよな。


 この封筒を持って移動していて、彼女達には時間的に余裕がないと。……なるほど??


「もしかして、君達もIRMに向かう途中?」

「えっ、なんで、というかあなた達()って……?」


 澪と呼ばれていた少女が俺の言葉を聞いて、驚いたそぶりを見せる。


「実は俺の行く先も同じ場所でね。ほら」


 自分のバッグから、招集の封筒を取り出し、ピラピラと振って見せる。

 それを見て得心を得たように気の強そうな少女が言う。


「へぇ意外。お兄さんも探索者なんだ。……って会合に参加するなら時間ギリギリだけど、こんな所にいて大丈夫なの!?」

「それは君らもでしょ。慣れない場所だから道に迷っててさ、同じ所に向かってるみたいだし俺も一緒に向かってもいいかな」


 俺の言葉に二人は顔を見合わせ、そしてこくりと頷いてくれた。

 マップが役に立ってくれない状況なので本当に助かる。


「改めて、俺は黒種遙真だ。よろしく」

「は、初めまして、東雲澪(しののめみお)です」

赤見夏芽(あかみなつめ)よ。」


 あ……? なんか名前に若干の聞き覚えがあるよな気が……なんて言っている場合じゃねぇ! 冗談抜きにこのままだと遅刻する。それだけは絶対に嫌だ。あの遅刻してきた時特有の、「うわ、あいつ遅刻してきたよ」みたいな目線が嫌で、大学だって遅刻するぐらいなら欠席を決行するんだ。ましてや、政府からの招集で重役出勤をかますなんて冗談じゃない。


「とりあえず、急がないと本格的にまずいし急ごう」

「そうよね、ついてきて二人ともこっちよ」

「う、うん!」



 

 息を切らしながら、俺たちはどうにか指定の建物である特異災害対策庁本部に到着した。さすがは政府関連の施設というべきか、入口には警備員が複数立っており、出入りする者を一人ひとり丁寧にチェックしている。


「な、なんとか、間に合ったみたいね」

「うん……良かった……。けど、走ったら汗かいちゃったな……」


 二人は息を整えながらも、安堵の表情を浮かべている。俺も内心ホッとしていたが、それよりも周囲に見知った顔がないかの警戒に忙しく、反応する余裕もなかった。


 受付で身分証と招集状を提出すると、簡易的なボディチェックと顔認証が行われる。形式的なものかと思っていたが、金属探知機だけでなく魔力反応測定器まで通されるとは、さすが特異災害関連の施設。警戒が段違いだ。

 まあこれだけ厳重に調査したところで、探索者であればその身一つでテロを起こせる可能性もあるということを考えると、これでも足りないぐらいなのかおしれないが。


「身分確認完了しました。参加者の皆様は、こちらのエレベーターから二十三階へお上がりください」


 案内に従って向かった先は、ガラス張りの高層フロアで、見下ろせば、ビル群の隙間に新宿の喧騒がミニチュアのように広がっている。


「わあ……! すごい景色だね夏芽ちゃん!」

「そうね……流石は上位探索者の会合、こんな所でやるのね」


 気持ちは分かる。俺もwebで調べた時にこの画像見た時は「めちゃめちゃ儲かってるんだろうなあ」と思ったものだ。まあIRMが営利目的で作られた組織じゃないことは知ってるんだけど、自分たちの稼いだ税金がこの建物になってるんだと思うと少しだけ複雑な気持ちにもなるというものだ。


 会場には既に多くの探索者たちがいくつもある丸いテーブルを囲んで思い思いのメンバーと会話をしていた。


 ……これ、二人と一緒に来ていなかったら、俺確実にボッチだったな。 


「黒種さん! 有名な探索者の方ばかりですよ!! あの方はアナザーランキングで~……」


 東雲さんが、別人かと見間違う勢いでテンション上がってる。この子あれか。探索者オタクか。すっごい勢いで探索者について捲し立ててるけど、ごめん東雲さん。半分くらいしか聞いてない。隣にいる赤見さんも慣れているのか呆れ顔だ。


「ごめんね、この子探索者が好きすぎて」

「見てれば分かるよ。幸せそうでよかったじゃん」


 一通りはしゃいで落ち着いたのか、東雲さんはこちらに視線を向けた。そして、何かを思いついたように手を叩く。


「……あ! そういえば私、ここに招待されるレベルの探索者の方なのに、黒種さんのお名前は今日初めて伺ったんですよね」

「そういえば、そうね。私も上位の探索者に関してはそれなりに覚えてるけど、黒種さんの名前は初めて聞いた気がする」


 ……うげ、こっちに矛先が向いた。


 やっぱり来たか、その質問。いやまあ、周囲からもちょくちょく「こいつ誰だ……?」って顔をされてるなとは思ってたけどさ。


「あー俺、そんなに知名度がある訳でもないし、ランキングも……今はたぶん1600位前後くらい、かな?」

「えっ……あ、そうなんですか……!」


 明らかに「うわ、コイツのランキング……低すぎ……?」って顔をしている東雲さん。


 きっと、そこまでは思ってはいないんだろうけど、嘘だろ…? って思われてるのが東雲さんの表情が正直すぎて筒抜けだ。


 実際のところ、日本の探索者の中で1600位って言うと、普通にそこらで自慢したらめちゃくちゃびっくりされるくらいには探索者としては上澄みも上澄みだ。

 

 ……だけど、本来この会合は日本をガチで背負って立つレベルの超超々上澄みしか参加出来ないものなのだ。具体的にはアナザーランキングでトップ100に食い込むような人ばかりなので、そういう人達と比較すると、俺はもはや異物レベルで浮いてしまうのだ。

 

 俺の言葉を聞いて明らかに言葉を選んだように、赤見さんが聞いてくる。

 

「そ、それって……この会合の参加者としては、かなり下の方なんじゃない?」


 言外に「お前なんでこの会合呼ばれたの?」って言われた。泣こうかな。

 ……俺も逆の立場だったら同じこと思うだろうし当然か。

 

「まあぶっちゃけ最下位なんじゃないかな?」


 ランキングは実力とイコールじゃないって言っても限度があるからなぁ。

 この初々しい女の子二人組ですら、きっと日本最高レベルの探索者なのだろうから。


「――遙真はランキング最下位でも、実力が最下位ってわけじゃないでしょ」

「そ、そうよね! 実力がランキングに直結するわけじゃないもの……って、え?」

「ぁ、えあ、あ……」


 当たり前のように発言に割り込んできた第三者の声に声に赤見さんは困惑し、その姿を見たせいで東雲さんはまともに声が出せていない。

 

 そして俺はと言えば、その声を聞いて思わず顔を手で覆いたくなる。

 

 ……この場所で、よりによってお前かよ。


 振り向けば、黒いスーツ男を着こなした、男の俺ですら見惚れる程の超絶美形の男。

 その男はダンジョンヒーローズメンバーにして、かつての俺の友人。


『真実』のダンジョンヒーロー。月下祐樹(つきしたゆうき)がそこに居た。

Tips:ワールドランキング・アナザーランキング

探索者の貢献度に基づいて決められている、ランキング。日本で「ランキング」というとアナザーランキング、日本以外の国だとワールドランキングという言葉をさすことが多い。

ダンジョンヒーローズのサポートと訓練を惜しげなく受けた、日本の探索者のレベルがあまりにも他国と比較して高いため、日本は隔離のような扱いを受けておりこのようなランキング形式となっている。


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