表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/160

第一章 静かな朝、かけがえのない日常



朝の光が、カーテンの隙間から優しく差し込んでくる。

キッチンからはパンを焼く香ばしい匂いと、ミルクを温める小さな魔法炉の音が聞こえた。


「おとうさん、見て見てーっ!」


元気いっぱいの声と共に、息子のユヅがシンの胸に飛び込んできた。

まだ幼さの残る小さな手には、紙とクレヨンで作った拙い”剣”が握られている。


「お、これはまたすごい剣だな。」

シンはにやりと笑い、ユヅの頭を優しく撫でた。


「ボク、将来おとうさんみたいに強くなるんだ!」

「そうかそうか。なら、この剣で修行しなきゃな。」


シンはわざと大げさにうなずくと、立ち上がり、紙の剣を軽く振ってみせた。

ユヅは目を輝かせながら、シンの真似をして剣を振る。


リビングのソファには、サクラが小さなユウヒを抱きながら、穏やかな笑みを浮かべて座っている。

ユウヒはサクラの腕の中で眠たそうに目を擦りながら、むにゃむにゃと何かを呟いていた。


「ふふ……ユウヒも、大きくなったら、お兄ちゃんみたいに強くなれるかなぁ?」


サクラは、そっとユウヒに語りかけるように優しく微笑む。

シンはその光景を見つめながら、柔らかな眼差しで言った。


「強さなんて、焦らなくていいさ。元気で笑ってくれりゃ、それで十分だよ。」


その言葉に、サクラはふわりと微笑み返し、ユウヒの額にそっとキスを落とした。

パンが焼き上がる音が鳴り、魔法炉が自動で火を落とす。

何気ない、けれどどこまでも温かな朝――。


シンは心の中で、静かに思った。

(これが、俺のすべてだ。)


世界の頂点に立つ“技巧の到達者”でありながらも、彼が何よりも守りたいものは――

この、かけがえのない小さな家族だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ