第70話 バージンロード
井倉はドレスを身にまとい、実父に連れられてバージンロードを歩いていた。彼女が20数年かけて作って来た思い出が走馬灯の様に頭の中を駆け巡る。彼女がバージンであろうと非バージンであろうともそんな事は関係の無い事である。今日のこの日を迎えられた事が何よりも井倉にとっては幸せであった。夫となる富夫は、タキシードに身を包みもう既に待機している。こじんまりとした式ではあったが、盛り上がるのは披露宴でやれば良い。結婚式自体は厳かで厳粛な方が良いのである。エンゲージリングの交換。誓いのキス。と言った結婚式としてはお決まりのものをこなして1時間程で式は終わった。ブーケトスも終え、いよいよ披露宴の始まりである。この日が幸せのピークであって欲しくないと思いながらも、2人の未来を悲観する人間などいるはずも無かった。結婚はゴールでは無くスタートである。それを1番分かっているのは、百奈と富夫であった。この結婚は冷静な判断であり、合理的な判断であった。と、2人は確信していた。




