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第68話 親孝行
プロポーズを許諾してからはトントン拍子であった。両家の両親への挨拶も、きちんと済ませ結婚式の日取りまでスムーズに決まった。特にこれと言って反対される事は無く、早瀬と富夫の両親は、「もう大人なんだから。」と、深い所まで口を挟む様な事はしなかった。早瀬は特別悪い事をした過去は無かったが、親孝行をしてやりたいと言う事はずっと心の中で思っていた。富夫にその事を話すと、ドレス姿と子供を見せられれば充分に親孝行じゃないかと言われた。確かにその通りである。孫の顔を見せてやれば、良いかも知れない。しかし、それだけで早瀬は満足出来なかった。そこで早瀬は手紙を書く事にした。それも1通ではなく4通。2通は結婚式用。もう2通は結婚式の前に両親に見て貰う為のもの。文字にする事で産んでくれた思いに対して応えられるならば何枚何十枚だって書く。これは早瀬なりのケジメのつけ方だったのかも知れない。心のこもったものであれば、下手くそな文章でも、伝わればそれで良いのだ。




