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第44話 とさ流のしごき(5)
現場に行くまでは気が抜けない。早瀬はそう思っていた。そしてそんな早瀬に上官である海曹長はこんな事を言った。
「早瀬、こんな事は滅多にある事じゃない。心してかかれ!」
確かにこんなケースは稀かもしれないと思う。現場に到着すると、とさ艦長の指示でSH-60Jシーホークを状況確認の為、飛行させ情報を得る。が、海上保安庁からの提供された情報以外で目立った新情報は無かった。
「艦長!どうやら相手は対空ロケットでシーホークを狙い撃ちしようとしています。危険を察知しましたので、一旦退避します。」
その時が緊張のピークであっただろうか。対空ロケットでシーホークが撃ち落とされでもしたら、小型船舶とは言え反撃しない訳にはいかないからだ。早瀬も渡された64式小銃を念入りに整備していた。その時早瀬は思った。これは実戦なのか、と。下手をすれば命を落とすかも知れない。そう考えると、訓練でしごかれていた事がまるで御遊戯の様な気持ちになってしまうのは早瀬だけでは無いだろう。




