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第3話 井の中の蛙
陸上も海上も航空も、女性自衛官の人数は男性自衛官に比べて圧倒的に少ない。その為、入隊した男性自衛官達は我先にと女性自衛官を奪い合う。大した美人でなくとも、男だらけの自衛隊にあって、たまに見る女性自衛官は、正に砂漠に咲いた一輪の花とでも言えば良いのであろうか。そこで沢山の男性自衛官からチヤホヤされている女性自衛官は、外の世界から見れば、井の中の蛙とでも言えば良いか。早瀬には苦い思い出があった。入隊前の事である。東京に行くと言う彼氏にこう言われたからだ。「お前自衛官になるんだってな。いつ死ぬかも分からない兵隊なんかと付き合えるか。」その一言はかなり差別的であったが、早瀬は未だにそれを引きずっていた。もちろん、男性自衛官と話す事はある。でも、積極的に恋をしようと言う前向きな気持ちにはなれなかった。一番好きな人に一番言われたくない言葉をかけられ傷付いた心を癒すのは、もう少し時間が必要である事は確かであった。