第26話 とさ流のしごき(1)
早瀬の教育期間は3ヶ月で修了した。自衛隊に入隊した下士官や士長以下の隊員は必ず3ヶ月で教育期間は通過する。ただ、そこから先は一人一人違う。護衛艦に乗り組む者もいれば、潜水艦に乗り組む者もいる。そうして多種多様な職種に分かれて専門知識を学び、その分野のエキスパートとなる。早瀬の場合は、汎用護衛艦とさ(9800トン)の水雷科に配属となった。海上自衛隊の特徴として艦毎に文化や風土が違うと言う事がある。とさは、就役してまだ5年目の新造艦であったが、とさ流の伝統は乗り組み員が乗船してからその時に出来上がる。この護衛艦とさでは、ひたすら新入りにロープをほどかせ結ばせると言う「しごき」が存在していた。とさ乗り組み員はこれをSM5と呼んでいた。固いロープを5回もほどいたり結んだりしていたら、手の感覚が無くなると言う事から、こう言われた。ちなみにSM-3はイージス艦から発射されるMD用対空迎撃ミサイルである。とさにはSM5以外にもいくつかのしごきがあり、早瀬もその餌食にならねばならなかった。




