5.
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「未来の王子妃は、何を大声を出しているんだ?」
「れ、レット」
「あら。朴念仁の未来のお義兄さま。おかえりなさいませ」
「朴念仁?」
エルドレットが首を傾げている間に、アーリーンは部屋の隅へとジュディスを連れて行き、その耳元でけしかけた。
「この国では女性でも家督や爵位を継ぐこともできますし、国政にも参加できます。強いのです。だから、好きになった男性への想いを、自分から告げることもできるのですわ」
頑張って下さいね、と励ますとアーリーンは出て行ってしまった。
「なんだ。アーリーンはヤミソンに会いにいってしまうのか」
「ヤミソン様とご一緒ではなかったのですか?」
「私が? いいや、ヤミソンには急遽仕事を代わって貰っただけだよ。……あぁ、よかった」
なにやら手を顔のすぐ横に置かれて、瞳を覗き込まれる。
顔が、近い。
「な、なにか?」
どきまぎと胸が激しく鼓動した。
先ほどアーリーンが唆していった言葉が頭を巡る。
「うん、ずっと探していたあなたの瞳と同じ色の翡翠が見つかったと連絡がきてね。実際に目で確かめてみたくなって、出掛けていたんだ。良かった。ちゃんとジュディの瞳の色と同じだ」
にっこりと笑って手にした翡翠を見つめる深い青の瞳が、蕩けていた。
「私の瞳の色の石は王宮でたくさん所持しているのだが、翡翠は数が少なくて。どうしても納得できなかったのだけれど、これで婚約のお披露目の際にはお互いの色を身に着けて参加できるね」
震える唇を、ジュディスは懸命に動かした。
「あの、あのね。レット。わたし、あなたが」
その言葉の続きを言おうとした時、唇が押さえられた。
あの、馬車の中と同じ。
あの時、恋をするなら自分にと、エルドレットは確かに言った癖に。
ジュディスからの告白は、拒否されてしまった。
「その続きについては、できれば私から言わせて貰いたい。許されるならば、庭園に移動して、花束を用意する時間も欲しい。それと……」
「だめ。この国に来たからには、私は、強くなるって決めたの」
エルドレットの言葉をジュディスはひと言で拒否すると、笑顔でその腕の中へと飛び込んだ。