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おばあちゃんのやりたいこと

作者: CLEO

夏の始まりをむかえるニューヨーク。祖母はここで今日、大学を卒業する。

日本からはわたし、そして韓国に住む祖母の妹家族、西海岸のマリナデルレイに住む祖父の甥、親戚一同がかけつける。わたしの父母、祖父は他界し、直径の家族は数少ない。

卒業式を終えた後は普段ほぼ顔を合わせる事のない親戚一同で食事会が予定されている。祖母、祖母の15歳の離れた妹、その妹の旦那と長女、わたしは、Uberで、卒業式へ向かう。"80歳を迎えたハルモニ(祖母)がアメリカで学位を得たこと、こんな日が来ると想像もできなかった" とか"誇りに思う"と、みんな一斉にそんな事を口々に言う車内は熱気で窓が少し曇っていた。UberのややふくよかでだらしのないTシャツ姿の癖っ毛で毛量の多い男性と私たちの組み合わせはかなりの違和感があるが、"80を越えた祖母"× "ニューヨークでカレッジを卒業"が事実ならさほどおかしな事ではない気がした。イーストビレッジ、アベニューCよりやや東に迷い混んだところで、わたしだけUberを降りて、用事を済ませるべく、なんだか治安の悪さがまだ残るアパートとアパートの間にやたらと開発途中の空き地な多いエリアを歩く。途中ドラッグストアのおばさんに道を尋ねる。式に備えて普段より格段に奇麗な格好であるくアジア人のわたし。なんでこんなところを歩いているのかと言わんばかりの目つきで、"さっさと行け"と冷たく突き放される。これも一種の親切か?

先を急ぐと、親しみやすさと、真新しさを備えた焼き菓子屋が角にあるのが目に飛び込む。見覚えのある、焼き菓子、ブレッドプディング、キャロットケーキ、マフィン、クッキー。まさか!大きな黒板消しみたいなブレッドプディング......。

やっぱり!広尾でみた、アメリカ菓子のお店。

「わたしは、ここによく似たお店に馴染みがあって、ここではまったく土地勘がないけど、思わず入ってしまいました」と、優しげな4、50ぐらいの女性店員に話しかける。

「そうなの!まさかそんな人が来るとは!この辺りは再開発が進んで奇麗なコンドミニアムも立ってきているけど、道によってはまだアレ(かなり治安が悪い)でしょ?だから、日本のお店を知っていて、ここにも来ましたって言う人は初めて!」

「そうなんですね!わたし、このお店のブレッドプディングが日本では一番好きで、たまたまここを歩いていると、美味しそうだ〜と思って入ったんです」

「さぁどうぞ!」

時間がないのに、お豆腐一丁ありそうな、ブレッドプディングをいただく!

懐かしさとここで味わう新しさ。なんとも言えない多幸感にマッタリしてしまうが、ふと。"あぁ、卒業式、間に合うかな......。"

急に不快なブザーの音が鳴り響く。朝だ。

お昼過ぎのイーストビレッジでもない。夢だった......。

祖母がなくなって四十九日、私は一つ目の彼女の夢をみた。わたしの夢の中で、自分の夢をビジュアライズさせないでよ。こんな事、"夢"見ていたの。

私をアメリカに行かせてくれたからいつもわたしの人生まで乗っとるんじゃないかと密かに思っていた。口うるさく、色々と決めたがり、わたしの一から十を知りたがった。

わたしが、あなたのように若ければ、元気なら、アメリカで大学まで行ったならこんなジッとはしていられない。どこかから、まだそう言っているようで。ジッとしていられない彼女は、とうとう自分が動きだした。わたしの夢の中で彼女の"夢"を今後も繰り広げるの?

今日見た夢の中で、わたしの唯一の"夢"は、日本ではなかなか食べられないブレッドプディングを食べることだったな。

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