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第1話

「いいか、みんな。コア・ブロックに着くまで無理はするなよ」

 突入前、隊長が俺たちにそう声をかけてくる。

「はい」

 俺を含め5人の兵隊たちは素直に応じる。隊長の言うことは絶対で、指示には従うしかない。

「カサハラ、キド、お前たちが前を行け」

 副隊長が命じてくる。副隊長の同行は初めてだったけど、当然副隊長の命令も絶対だ。

「はい」

 まぁ最近はいつものことだ。

 なので、いつもどおり俺から開け放たれた入り口へと入っていく。ホントに警備が薄そうだけど、油断は禁物だ。

 今回の任務は、この工場を破壊して機能停止にさせること。至ってシンプルだ。

 工場の見た目もシンプルで、四角のみで作られてるって感じ。色は白一色。宇宙に出てからわかったけど、カラフルなのは地球ぐらいなのかもしれない。最先端になればなるほど、色にこだわらなくなるみたい。

 最近発見されたらしいこの工場は、辺境の星にも関わらずかなり重要な部品を製造しているらしい。これであいつらにどれだけの痛手を与えられるのかわからないけど…

「罠とかじゃないっすよね」

 後ろにいる木戸君がポツリと言う。警備が少なすぎるのもかえって怪しく思える。

「その時は助けてくれ」

 俺はそう返した。実際、木戸君には何度か助けられた。

 建物は、地上部分は大したことはないけど、地下がかなり深くて広い。そして目指すコア・ブロックもそっちにある。この工場の動力源であるコアが設置されている部屋だ。

 この辺は警備も手薄かもしれないが、さすがにコア・ブロックに近づけば厳重になってくるに違いない。

(それにしても…)

 相変わらず何もかもがデカい。

 作戦会議でこの工場のマップを見ているので、工場全体がバカデカい規模だということはわかっていた。ただやっぱり、建物の作りもデカい。

 俺たちは今、全長10メートルほどのロボットに乗っている。正式名称は“バトラー”とカッコいいが、見た目はちょっと残念だ。

 100均でも売っている、関節がクネクネ動く小さな人形を知ってるだろうか。絵を描く時にポーズを取らせ、それを参考にするのだ。

 で、バトラーはまさにそれ。とにかくひたすらシンプルなロボットってこと。

(マネキンって呼んでる人もいたね)

 何百億も作らなきゃならないから、余計な装飾なんて付けてられないっていうのはよくわかる。けど隊長や副隊長ぐらい、頭に角をつけて、赤や青や黒に塗装してあってもいいと思う。それが宇宙世紀ってもんだ。

 しかしみんな全身真っ白。しかもピッカピカ。

 それじゃあ、どうやって見わけてるのかというと、モニターには乗っている人の情報が詳しく出てくるようになっている。顔写真に名前、今の健康状態など。

(いつ撮られたかわからない写真ね)

 木戸君は撮り直したいって言ってた。

 ちなみに隊長や副隊長の顔写真はない。どうせ乗ってないからだ。俺たちと違い、遠隔でバトラーを操作しているのだ。ディヴァリア人がわざわざ危険を犯す必要はない。

 遠隔操作のバトラーは動きが鈍く、ちょっとしたことでピンチになってしまい、それをこっちがフォローしなくちゃならなくなる。実際に乗ってないのに隊長だから守らなければならないというのは、ちょっとしたストレスだ。

 木戸君は過激に、『敵の弾をわざと当てちゃえばいいんすよ』と言っていた。そんな木戸君が結構お気に入りだ。

 だいぶ話が逸れたが、今俺たちはそのバトラーで行動している。全長10メートルもあるのに、普通に動き回れるぐらい建物全体が大きい作りになっているのだ。ここの天井だって、バトラーの倍近くありそう。

 じゃあ、この工場で働いてるロボットたちがデカいんじゃないかというと、おそらくそういうわけではないと思う。

「お…」

 マップでも確認していたが、入り口からずっと一本道が続き、それが巨大な空間に繋がるようになっている。で、その前まで到着した。結局何も出てくることはなくここまで到着してしまった。

「ちょっと見てくる」

 俺は後ろの木戸君に言った。

 木戸君は立ち止まり、さらに後ろのバトラーを静止させる。

 ちなみに声はどうなってるかというと、しゃべった言葉がバトラーの顔あたりからそのまま発せられる感じだ。強弱もうまく調整してくれる。聞く方も人間の時に聞く感覚と一緒。前からの音は前から聞こえ、横の音は横から、後ろの音は後ろから聞こえる。

 どんな技術かわからないけど、とにかくよくできている。

(……)

 俺はゆっくりと慎重に進み、ソーッとだだっ広い空間の方を覗き込んだ。

(スゲェな…)

 だだっ広い空間は中央に巨大な穴があり、何か荷物を積んでるようなフワフワ浮いた乗り物が、入っていったり出てきたりしている。地下の作業場へ物資を運んでいるのだろう。

(ホントに誰もいない…)

 乗り物はたくさん飛び回ってるけど、ロボットの姿はない。警備ロボットだけじゃなく、作業してるロボットも。

 メインは地下の方で、地上の方は放置区域なのだろうか。まぁ、ここ以外にも地上に繋がる通路は無数にあり、それらすべてを警戒してられないのかもしれない。

「―って感じです」

 俺はみんなに報告した。

「下に降りる手段はあったのか?」

 隊長が聞いてくる。

「近くにはなさそうでしたね」

 俺は答えた。

 残念ながらバトラーは、通常の状態では空は飛べない。飛行用の装置があり、それを背中に取りつければ飛べるようになるけど、今回それはない。

 帰りは瞬間移動であっという間だが、目的地に着くまではなかなか骨が折れそうだ。

「でもまあ、コア・ブロックの位置は大体わかってるので、一気に行っちゃいましょう」

 俺はみんなにそう提案した。


 私たちは大きな穴の前まで来た。

 この広間自体の大きさにも驚いたけど、穴の大きさにも驚いた。向こう側が遥か遠くだ。

 一応警戒はしていたけど、荷物を乗せて空を飛んでいる乗り物たちは周りに興味ないみたいで、カサハラの言うように安心して来られた。

「メチャクチャ深くない?」

 恐る恐る下を覗き込み、私は隣のニーナに声をかけた。柵も何もないので、ちょっとしたことで落ちちゃう可能性がある。

「これはちょっと怖いね」

 同じように、慎重に下を覗きながらニーナも言う。

 どれくらい深いか想像もつかない。当然バトラーにも遠くを見る機能はあるけど、それでも測れないほどの深さだ。それこそ、こっから落っこちたらバトラーは無事でも、中の私たちは死んじゃいそう。それぐらいの恐怖感はある。

 にも関わらずだ。カサハラとキドはこの穴から下へ行こうと言い出した。

「無理はするなと言っただろう」

 当然隊長が怒り出す。

「大丈夫ですよ。それに、その方が早いです」

 まったく意に返さないカサハラ。別の下に降りる方法をまったく考えていない。

「あ、大きいの来たからあれにしましょう」

 乗り物は大小様々あり、カサハラの言うように―かなり大きめの物がちょうどこちらに向かってきた。全体的にそうだけど、どれもスピードはそれほどでもない。

「先に俺と木戸君が飛び乗るんで、みんなもすぐ飛んでください。遅くなると遠くなっちゃうんで、その分危険です」

 カサハラはそう言うと、キドと一緒に目標と決めた乗り物の方へ走っていく。

「おい、待て…」

 副隊長が止めようとしたけど無理だった。2人はあっという間に乗り物に飛び乗っちゃった。

「ソフィー、行かないとヤバいんじゃない?」

 ニーナが言い出す。

「え?行くの?」

 私は、他人事のようにカサハラとキドのことを見ていたが、これは私の問題でもあった。

「マジ?…」

 そう思っていると、

「2人も行こう。グズグスしてると置いていかれちゃうよ」

 後ろからジェレミーがそう声をかけてきた。

 そうこうしてるうちに、カサハラたちが乗った乗り物は、穴の方へ降り始めてしまった。

「仕方ない、行くぞ」

 隊長もさすがに覚悟を決めた。そして自ら乗り物に向かってジャンプする。

「さすが隊長」

 飛んできた隊長をカサハラがうまくフォローする。乗り物は箱形をしているので上部は平たくなっていて、それなりの広さもある。

「早く、みんなも!」

 カサハラがこっちに呼びかける。

「くそっ…」

 苦々しい感じで副隊長もジャンプする。

「先に行くよ」

 ジェレミーも続いてジャンプする。

「2人一緒でいいから、早く来い!」

 カサハラが急かす。気づくと、乗り物は結構下まで降りてしまっていた。

「ソフィー」

「もー…」

 私も覚悟を決め、ニーナと一緒にジャンプした。

 ダダンッ!

 無事着地…と思ったけど、かなり端っこの方だった。

「わ…わ…」

 焦って慌ててよろめく。と、

「おっと」

 カサハラがガシッと私の腕を捕まえてくれた。

「全員乗れたね」

 そしてのん気に言う。

「ちょー危なかったでしょ!勝手にムチャなことしないで!」

 私は、そんなカサハラに怒りを爆発させた。

「もしこれで重さでもオーバーして乗り物ごと下に落ちちゃったらどーするのよ!あなたちゃんと考えてやってるの?1人の無謀な行いが、部隊の全滅を招くことだってあるのよ!どう責任取るつもりよ!」

「みんな無事だったから大丈夫だよ」

「だからそーいう結果オーライ的な…」

 さらに詰め寄ろうとしたその時、乗り物が大きくガクンッと揺れた。

「な、何…」

「今木戸君が、強制的にこいつを動かそうとしてるんだ」

 そう言うとカサハラは、乗り物の端まで行くと、ヒョイッと飛び降りた。

「ちょっと、何してるの…」

「横にくっついて、こいつをそっちの方に動かそうとしてるんだよ」

 ニーナが隣に来て説明してくれた。

「操縦できるんじゃないの?」

 強引に動かそうってわけだ。

(はー…)

 やることが全部メチャクチャ…

「ソフィーが先に怒鳴っちゃったから、隊長も副隊長も何も言えなくなっちゃったね」

 ニーナが小声で言ってくる。

「私は別に、隊長たちの代わりに言ったわけじゃないわよ」

 言いたかったから言っただけ。

「すみません、ジェレミーさんもこっち来てくれませんか?2人じゃちょっと…思うように動かなくて」

 カサハラがジェレミーに妙なお願いごとをする。重りを増やしたいらしい。

「わかった」

 ジェレミーは即答し、颯爽と降りていく。5人の中ではかなり年長だけど、バトラーの動きは滑らかだ。

 3人が横にへばり付いたことで少しそっちに傾き、乗り物自体もそっち方向にゆっくりと進んでいる。基本この乗り物は穴の中央付近で下に降りるようになっているけど、私たちのはそこから外れて、穴の端の方に寄っていってる。

「これでダメなら、2人も頼むよ」

 カサハラがこっちに向かって言ってくる。

「はぁ?あなたたちで何とかしなさいよ!」

 私は言った。勝手に巻き込まないでほしい。

「いいよ、私が行く」

 するとニーナが言い出した。

「私の方がちょっと軽いけどね」

「あのね…」

 確かにニーナは私よりも小さいので、少しは差がある。

(ホントに少しだけ)

 でも、バトラーに乗っちゃったらそんな差はないも同然。どっちも巨大な鉄の塊だ。

「ありがとう」

 カサハラがニーナに感謝する。

 ニーナは好奇心が旺盛というか、怖いもの知らずというか、ポジティブ思考というか、何というか…とにかく何でも楽しんじゃえって子なので、こういうことはむしろ好きそう。けど、私は絶対にイヤ。

 で、その後ニーナも参加することになったけど、結局いまいち動きを制御できなかった。みんなが安心して乗れるように大きいのを選んだのはいいんだけど、今度は大きすぎたことで思うようにいかなくなってる。

(何、勝手に人生の教訓みたいなことやってんのよ)

 そして、

「ソフィー、君も頼む」

 カサハラからお声がかかった。

「ホント、いい加減にしてよね!」

 私は怒りを爆発させた。


 さすがにコア・ブロックには護衛がいた。といっても、1人乗りの小型戦車みたいなのに乗っている“フォーカー”が2体いるだけ。

(ここまで誰かが侵入してくるなんて想定してないのかな)

 途中いろいろあったけど、特に主だった戦闘はなく内輪揉め程度だったので、全員無事にここまで辿り着いた。帰ってから笠原さんがソフィーにボコボコにされるかもしれないけど。

 フォーカーたちはロボットなので、人間のように見た目を気にすることがないらしく、フォーカー自身も含めてデザインが無骨だそうだ。

 確かにフォーカーは、人間型ロボットの皮の部分を取って、中のメカメカしい感じが剥き出しっていうような見た目をしている。扉の前の2体が乗ってる小型戦車も、プラモデルの完成間近くらいって感じで、もうちょっとちゃんとしろよって言いたくなる。

(中が見えちゃってるじゃん!って)

 そんなフォーカー2体が守っている扉の向こうからかなり大きめのコア反応があるので、まず間違いなくこの工場のコアがあると思われる。これだけ大規模な工場のエネルギーを一手に引き受けてるってことは、単純にサイズも大きいはず。

 フォーカー2体はちゃんと自分のコアがあり、それで動いてる感じだ。もしかすると自分の乗ってる戦車ぐらいはそれでまかなってるかもしれない。

「どうしますか?」

 一応笠原さんに尋ねた。

 今やこの部隊の指揮を取るのは笠原さんになっている。強引にドンドン進めちゃうから、隊長も副隊長もあたふたとそれについてくるだけ。

 そもそも2人とも特に軍人ってわけではないだろう。ただのお目付役だ。今回だって細かい作戦があったわけじゃなく、現場でいろいろ判断して動くしかない。

(事件は会議室で起きてるんじゃないからね)

 有名な映画の名ゼリフだ。

 そういった意味では、笠原さんはガンガン動いてくれる。そして、力でねじ伏せ、無理矢理こじ開け、奥へと突き進んでいく。

「ちょっと後ろとか見てて。2体やっつけてくる」

 そう言うと笠原さんは1人で飛び出ていった。

 ここはT字路で隠れていられるが、コア・ブロックに続く真っ直ぐな通路に出たらもはや隠れる場所はない。

 さらに、扉まではかなり距離があるため、通常の“レイダー”では近くまで行かないと攻撃が当たらない。

(レイダーはバトラーが装備してるビームを撃つ銃ね)

 さらにさらに、明らかに相手の戦車の方が射程範囲が広そうだから、近づく前に先に攻撃される可能性がある。

 バシュ!バシュ!

 さらにいうと、フォーカーは的が小さいから非常に狙いにくい…けど、

「来ていいよ」

 あっという間に終わらせてしまった。

(相変わらずスゴいな、この人)

 移動するスピードに射撃のテクニック…バトラーでやってることとは思えない。ほぼ二発同時にレイダーを撃ち、確実にコアを撃ち抜いたので、フォーカーに反撃する隙をまったく与えなかった。

「スゴいじゃない」

 ソフィーからお褒めの言葉を授かった。

「よくやった、すぐに中に入ろう」

 隊長もお喜びのようだ。

 近くでずっと見てきたけど、笠原さんの動きは常軌を逸している。

 バトラーには融合率というのがあり、モニターにも個人情報として出ているが―そのまんま、バトラーとどのくらい融合してるかがわかる。100が最高だけど、理論上100になることはないらしい。それはもうバトラーと一体になるっていうよりもバトラーそのものになっちゃうような感じだ。

 バトラーの操縦はハンドルを握ってガチャガチャするわけではなく、バトラーの中に入り込んで、バトラーと融合することで、バトラーの手足を自分の手足のように動かして操縦する。どういう仕組みか皆目見当もつかないロボットだ。

(乗るっていうより着るっていう方が近いかもね)

 なので、複雑な操縦技術などは必要なく、誰でも気軽に乗れる。性別、年齢不問だ。

 そうはいっても、初めて乗った時はうまく動かせない。乗りこなせるようになるには、それなりの訓練が必要だ。で、融合率が50を超えたぐらいから思うように動かせるようになってくる。

(楽しくなってくるよね)

 今は大体60後半ぐらいで、たまに70を超えることがあるくらいだ。ソフィー、ニーナ、ジェレミーもそんな感じだし、今まで見てきた人もそんなもんだった。それでも十分バトラーを動かせるし、もうそんなに違和感はない。

 そんな中、笠原さんは普通に80を超えている。何回か見たけど、瞬間的に90を超えることもあった。

(どんな感じなのか想像もつかない)

 冗談っぽく、周りの動きがスローに見えるとか、360度全方向見えるとか言うけど、ホントにそんな感覚になるのかもしれない。

 80を超えると、もはや自分の動き以上の動きになり、ある意味バトラーが本領を発揮する領域だ。普通ではあり得ない動きをしてもおかしくはない。

 笠原さんのバトラーはそんなバトラーなのだ。

 ということで、扉の前まで来た。通路が20メートルぐらいの高さがあるので、当然扉もそのサイズだ。でも横はそれほどではなく、バトラー2体が一緒に通ろうとすると窮屈かなって感じ。

(ホント、一撃必殺だね)

 扉の前には笠原さんに瞬殺された2体のフォーカーの姿があった。さすがに戦闘タイプだったけど、結局活躍の場はなかった。戦車が一発でもビームを撃っていたら、もう少し手こずっていたかもしれない。

(……)

 このフォーカーが、俺たち人類の敵であり、倒すべき相手だ。そう教わった。

 コアをエネルギー源として動く機械生命体。全宇宙に存在する全人類を殲滅し、機械だけの世界を築くのを目的としているらしい。

(地球人にとっては、何のこっちゃ?だよね)

 地球は、宇宙の果ての果ての果ての星らしく、宇宙の真ん中で起こっていた宇宙大戦争にはまったく無縁だった。ちょっと前までは…

「どうやってこれ開けるの?」

 ニーナが素朴な疑問を口にする。

「特にスイッチみたいのはなさそうだね」

 ジェレミーさんがあれこれ見ている。

「破壊できそうか」

 隊長が笠原さんに意見を求めてくる。さすがに笠原さんのことを認めてきたのだろうか。

「レイダーじゃ無理そうっすよね…」

 考え込む笠原さん。

 正直、バトラーに通常装備されているレイダーはちゃっちい。普通こういう破壊工作の時は、強力なやつを一個ぐらい持ってきててもいいはず。

(でも今はない)

 俺も考え、ふと思いついた。

「この戦車使えばよくないっすか」

 フォーカーの乗っていたやつだ。結構威力ありそう。

「いいねぇ、木戸君。ナイスアイデアだ。昨日の敵は今日の友ってやつだ」

 言いたいことはわかる。

 ということで、フォーカーたちの戦車を拝借することにした。気の毒だが、破壊されたフォーカーは戦車から降ろして床に置く。

 フォーカーは2メートルぐらいの身長なので、そこまで俺らとは変わらない。ディヴァリア人もそれぐらいらしいので、地球人は宇宙規模でみても、特に大きかったり小さかったりする種族ではないみたいだ。

 そこで思うのは、バトラーでフォーカーたちの兵器を攻撃することには何とも思わないけど、フォーカー単体への攻撃は弱い者いじめみたいで若干気が引けるということだ。

(あまりないけどね)

 フォーカーからすると、巨人に襲われてるような感じだろう。まぁ今回は戦車に乗っていたので、兵器に対する攻撃ではあるけど。

「使えるの?」

 ソフィーが怪訝そうに聞いてくる。

 俺と笠原さんでそれぞれ一台ずつ戦車を受け持った。

「何とかなるでしょ」

 笠原さんがソフィーに答える。

(……)

 運動能力では勝ち目はないけど、こーいう勝負なら勝ち目はある。先にぶっ放してやる。

 フォーカーたちの扱う兵器に関する知識も植え込まれた。全部を網羅してるわけではないが、大体どれも似たようなもんなので、うまく応用を効かせればいい。

(このボタンでこうか…)

 小型の戦車なのでバトラーで抱えることができる。その状態でコクピットの操作パネルをいじくる。バトラーの指先も自分の指先と同じ感覚で動かせるので、そういった苦労はない。フォーカーたちの言語もほぼ理解してるので、順調に進んでる実感はある。何となくもうすぐ発射できそう。

「あ、撃てそうです」

 俺はみんなにそう伝え少し離れてもらうと、砲身を扉の方に向けた。そして、発射スイッチをポチッと押す。

 バッシューン!

「ヤバい―」

 思ったよりも凄まじいビームが出た。戦車を持ったバトラーごと後ろに吹き飛ぶ。

「おっと」

 すると、笠原さんがうまくキャッチしてくれた。いざという時やっぱり頼りになる人だ。

「ありがとうございます」

 俺はお礼を言った。

「スゴいじゃん、撃ち方教えてよ」

 お返しに褒められた。

「ちょっと、一回じゃまだダメでしょう。バンバン撃ちなさいよ」

 ソフィーの言うように、今の一撃じゃ扉にちょこっとダメージを与えただけだ。でも、効果はあった。続ければ破壊も可能だ。

「このボタンをこうして…」

「ふんふん」

 俺は早速、笠原さんにビームの撃ち方を教えた。


 扉が壊されて、何とか中へ入れる穴ができた。1体ずつしか通れないので、カサハラ、隊長、副隊長、ソフィー、私、ジェレミーの順に中へ入っていく。キドは念のため外を見張っている。

「スゴ…」

 どこもそうだけど、中はメチャクチャ広かった。その真ん中に、目的の巨大なコアがある。濃い赤色に光る球体で、下半分は床に埋まってるような形になっている。天井や壁からたくさんパイプが出ていて、剥き出しになっているそのコアに繋がっている。

 部屋自体に明かりはなくコアの光だけなので薄暗く、光が赤いため、真っ白なバトラーが紫やピンクに見える。

「何か匂わない?」

 私は隣のソフィーに小声で聞いた。

「何かちょっとね。あまりいい匂いじゃないけど」

 ソフィーも感じたようだ。臭いってほどじゃないけど、機械っぽい匂いがする。直接嗅いだことなかったけど、これがコアの匂いなんだろうか。

 ありがたい機能なんだかありがたくない機能なんだかわからないけど、バトラーは匂いもわかる。

 見る聴くは当然で、手で何か触った感触もわかる。そして匂いも嗅ぐことができ、無理なのは味わうことぐらい。

(そもそも口がないからね)

 まぁ、目も鼻も耳もないけど…

 のっぺらぼうのくせにいろいろできる。

「これ、もう壊しちゃっていいんですか?」

 コアの近くまで来ると、カサハラが隊長に確認する。これまで独断で進めてきたけど、さすがにこれは隊長の許可がいるみたい。

「ちょっと待ってくれ」

 隊長からストップがかかった。

(ん?)

 ちょっと意外な展開。すぐ壊しちゃうのかと思った。

 今のところ扉の前の警備員くらいしかいなかったけど、戦車使って派手に暴れたんだから、援軍が来てもおかしくない。あまりグズグズしてられないはず。

「頼む」

 すると隊長が副隊長の方を見る。

(んん?)

 これまた意外な展開。謎の副隊長がここで何か頼まれた。

「わかりました」

 副隊長はそう返事をすると、壁の方へ歩いていく。

「何するのかな?」

 私は隣のソフィーに小声で聞いた。

「知らない。何かあるんじゃないの」

 ソフィーが知ってるわけがない。期待はしてなかった。

 みんなも言っていたけど、今まで副隊長なんていたことがない。そもそも隊長なんてお飾りみたいなもんで、ただ邪魔なだけって誰かが言ってた。そんな邪魔者が2人もいたらたまったもんじゃない。

「副隊長は何してるんですか?」

 やっぱりカサハラも気になるみたい。

 副隊長は壁際にある何かの装置のような物の前にいる。

「ちょっとこのコアのことを調べてるんだ」

 隊長は言う。

(ふーん…)

 確かに何か調べてるっぽい。副隊長は何者なんだろうか。ますます怪しい。

「このコアに何かあるんですか?」

 カサハラはさらに聞く。結構グイグイいくタイプだ。

「何かあるかどうかを調べてるんだ。調べ終わったら壊していいぞ」

 隊長は答える。もうそれ以上聞くなって雰囲気だ。

 と、その時、

「ヤバい!みんなで攻めてきた!」

 扉の外にいたキドが慌てて中に入ってきた。予想どおり援軍が来ちゃった。

「私はそっちに行こう」

 ジェレミーは扉の方へ向かう。キドと一緒にフォーカーたちの相手をするつもりだ。

「私も行く。ニーナはカサハラを手伝ってあげて」

 ソフィーもジェレミーに続く。

「わかった」

 そう言われて断るわけにはいかない。私はその場に残った。

「どうだ、何かわかったか?」

 隊長が副隊長の元へ急ぐ。

「俺がコア本体を叩くから、ニーナはパイプを潰していってくれ」

 カサハラがそう指示を出す。

「わかった」

 私はうなずいた。

(パイプを潰す…パイプを潰す…)

「木戸君!帰るのは一瞬で帰れるから、あまり無理しなくていいぞ!」

 さらにキドたちにも指示を出す。

「わかってます。みんなで帰りましょう」

 キドが答え、ソフィーとジェレミーもOKサインを出す。

 ここは初めて来る所だから仕方がないけど、宇宙に待機する宇宙船にはワープで帰ることができる。私たちにとってはマンガの中の話だけど、宇宙では当たり前のようにみんなワープしている。

(超便利!)

 だから、コアを壊したあとに今来た道をわざわざ帰る必要はない。

 と、そこへ、

「カサハラ、コアを破壊してくれ」

 隊長と副隊長が戻ってきた。調べ物は終わったようだ。

「了解!」

 すぐさまレイダーを構えるカサハラ。

「隊長と副隊長も手伝ってください。ニーナもパイプを頼む」

「わかった」

「わかった」

「了解」

 3人の声が揃う。

(パイプを潰す…パイプを潰す…)

 バシュ!バシュ!…

 私はゆっくりでも確実にパイプを一本ずつ撃っていった。

 そしてカサハラたち3人は、豪快にコアにレイダーを撃ちまくっていた。


 宇宙船へ帰還した。

 コア・ブロックでは、フォーカーたちとの激しい銃撃戦もあったが、思ったよりも早くコアを破壊することができ、きちんと機能停止したことを確認してから戻ってこられた。

 功労者はカサハラ君だ。あと、キド君も頑張ってくれた。

 2人がみんなを引っ張っていってくれたおかげで、この作戦が成功したといってもいいだろう。隊長たちよりも遥かに頼り甲斐があった。

 ソフィーとニーナ―女の子2人もよくやってくれた。最後の銃撃戦のソフィーは、私なんかよりもずっと活躍していた。

 とにかく、5人が全員無事にここへ帰ってこられてよかった。

「もう着くかな」

 ニーナがソフィーに話しかける。

「そうね。戻るのはすぐでしょ」

 2人はホントに仲がいい。

 私たちは今、休憩室で休憩中。

 コアを破壊したあと、バトラーが一斉にこの宇宙船の格納庫へワープした。元いた場所だ。

 我々を降ろす時は地上へ来ていた宇宙船だが、そのあと宇宙で待機していたらしい。なので、今はもう既に宇宙にいるわけだが、外の様子が見られるわけでもないので、宇宙にいる実感はない。

 バトラーがここへ着くと、我々もようやく解放されるわけだが、その時にちょっと厄介なことがある。

 そもそも、我々がどこからどうやってバトラーに乗り込むかというと、首の後ろの付け根部分から潜り込むという感じだ。丸いハッチがあり、それがカメラのシャッターのように開け閉めされ、中は少しきつめの寝袋のようになっている。

(この表現で伝わるかな)

 そこで注目してほしいのは、バトラーに乗る時の我々の格好だ。おおよそ、パイロットというイメージからかけ離れている。

 バトラーの操縦は、ハンドルやレバーで行うものではない。バトラーと自分の神経を融合させることで、自分の手足を動かすようにバトラーを動かす。そして、バトラーと神経を融合させるには、自分たちの体をなるべくバトラーに密着させる必要がある。

 ということで、バトラーに乗り込む時は肌の露出が多い格好が相応しい。しかし、さすがに真っ裸では何かあった時に困るということで、男はボクサーパンツ、女はそれにスポーツブラを着ける。それがバトラーに乗る時の正式な格好だ。

(最初は戸惑ったがね)

 ただ、バトラーの格納庫は完全個室になっているので、周囲の目が気になることはない。表現はあまりよくないかもしれないが、サイズ的には棺桶みたいだ。体にピッタリで、ほとんど動けない。

 そんな恥ずかしめな格好でバトラーに乗り込むわけだが、寝袋状になっているところへ脚を入れていくと、ある段階で一気に引き込まれる。そこからはもうグチャグチャで、自分がどこを向いてどんなポーズをとっているかもよくわからない。とにかく、バトラーの胴体にスッポリ収まるというわけだ。

 私の身長は160後半でそれほど大きいわけではないが、地球人だって2メートルを超えるような人もたくさんいる。直立の状態ではさすがに胴体に収まりきらないと思うから、やはり丸まるなどの形になっているのではないだろうか。

 そして、引きずり込まれたあとすぐ、全身にピリピリッと軽く電気が走る。おそらくこれでバトラーと融合すると思われるが、そのあと急速に意識が朦朧としてきて、眠るように暗闇の中に落ちてしまう。

 それからどのくらい時間が経過したかわからないが、ハッと気づき目を開けると、もう既にバトラーの視界になっている。10メートルの巨人だ。

 最初は身動きがとれないが、5分ほど経てば指先から徐々に動かせるようになり、10分も経てば全身動くようになる。

 格納庫で格納されている時のバトラーは、少し後ろに傾くような姿勢で台に立っているのだが、動けるようになったら状態を起こし、すぐ目の前が扉なのでスイッチを押してそれを開け、ゆっくりと外に出る。

 外に出たら、準備運動などをして体を動かしていくと融合率が上がっていき、私の場合は60台半ばで安定するので、そうなったらもう人間の時に体を動かすのと変わらない感覚になっている。

(これが、バトラーに乗った時の一連の流れ)

 一方降りる時だが、狭い格納庫に入ると、まず最初と同じ状態―少し後ろに傾く形になって台に体を預ける。

 すると扉が自動で閉まり、バトラーの消毒作業が始まる。宇宙にはいろいろなウイルスがあるらしく、これは欠かせない作業だ。それもあってバトラーは一体一体完全隔離されているのだ。

 そのあとが問題だ。また全身にピリピリッと軽く電気が走り、バトラーとの融合が切れる。するとやはり段々と周りがボヤーッとなってきて、意識を失ってしまう。そして、気づくとバトラーの頭部後ろの床にグデーッと横になっている。肝心の出てくる時の記憶がないのだ。

 おそらく、ハッチが開き、中から押し出されるような感じでゆっくり外に這い出てくるのだと思う。さすがに、一気にスポーン!と飛び出すわけではないだろう。

 とにかく、パンツ一丁の中年男性が気を失って床に横たわっている姿は、とてもシュールだ。その醜態を周りから見られることがないのがせめてもの救いだろう。

 その状態どれだけ放置されているのかわからないが、ある時ハッと目覚める。仕方のないことではあるが、毎回やってしまった感がある。

 ちなみに、バトラーはそれぞれ特定の機体に乗るわけではなく、毎回用意された機体に乗るだけだ。機体が変わったからといって融合率が変化することもなく、どの機体に乗っても大差はないようにできている。

 その後、格納庫の出入り口から外に出ると、まず消毒部屋になっていて、そこでパイロットも消毒される。光を浴びる感じだ。

 さらに隣の部屋へ行くと、そこは更衣室になっていて、着ている物をすべて交換する。まぁ、脱ぐのは下着だけだが、着る物は肌着、下着、上着、ズボン、それと靴。ルームシューズみたいな物だ。

(全部真っ白で、いつでも下ろし立てだ)

 我々は建物の外に出ることはない。空調が整備された快適な空間で常に生活をしているので、服装が変わることはない。それは宇宙船でも同じことだ。

 宇宙には人の住めない惑星の方が多く、そこに人の住める環境を作り暮らしている。なので、そこから出ることは死を意味する。そう聞かされている。

 宇宙空間はさすがに無理だが、我々が生活している星が本当に人間の住めない星なのかどうかはわからない。逃亡させないための嘘だと疑っている者もいるが、かといって真実の場合死ぬことになるので試す勇気のある者もいない。

 そもそも、建物自体に外への出入り口がない。基本、外に出る時はバトラーに乗っている時で、バトラーは格納庫に戻らないとパイロットは降りられないようになっている。そしてバトラーに乗ってない時の移動はすべてワープなので、玄関から『いってきます』や『ただいま』をすることがない。

 要するに監禁状態ってことだ。戦争と快適な生活が保障された。

「ジェレミーさんは大丈夫ですか?疲れてないですか?」

 と、そこへ、カサハラ君とキド君がやってきた。

「ああ、大丈夫だよ」

 気にして様子を見にきてくれたのだろうか。ムチャをさせたかもしれないという思いもあるのかもしれない。

「君たちのおかげで任務が達成できてよかったよ」

 私は2人に言った。それが正直な思いだ。

「いやー、こっちも、フォローが早くて助かりました」

「そうっすね。フットワーク軽いっすよね」

 親子ほど年齢が離れた彼らにお世辞とはいえ褒めてもらえるのは、何とも嬉しい限りだ。

「お世辞じゃないですよ」

 と、その時、

「みんな、聞いてくれて」

 どこからともなく隊長の声が聞こえてきた。姿を見せることはないのだろう。

「今回の任務は、みんなの活躍のおかげで無事に果たすことができた。感謝している」

(珍しいな)

 任務のことで褒められたのは初めてだ。

「ただ今回は、工場の破壊の他に、みんなには知らせていないもう一つ特別な任務があった」

 突然言い出す隊長。

「あのコア装置を作ったのが誰か突き止めることだ」

(ああ…)

 それで、副隊長が破壊する前に何か調べてたのか…

 みんなも言っていたが、隊長の他に副隊長がいるっていうのが不思議だった。隊長のこの話からすると、副隊長はコアを調査するために同行していたということだ。

「これからそれを確かめるために、新たな任務地へと向かう」

 隊長のその言葉を聞き、

「え?今からですか?」

 思わず聞き返すソフィー。

「そうだ。新たな任務もこのメンバーで行う」

 隊長が改めてそう告げる。

「ナミダルの工場が破壊されたことを相手が知れば、製造工場を破棄される可能性がある」

(証拠隠滅か…)

「それよりも早く動いて、確実に証拠を押さえなければならない」

 そのためには、仕切り直している暇はないってことだ。一刻の猶予も許されないほど緊迫した事態ってこと。

 (その考えはわかるが…)

「行きたくない人がいた場合はどうするんですか?」

 ソフィーが詰め寄る。『自分が』とは言わず、あえて代表質問にしているのだろう。隊長に対して臆せず発言するあたり、彼女の芯の強さがうかがえる。

 確かに、たった今一つの任務を終えたばかりだ。楽そうに思える任務に見えるかもしれないが、死と隣り合わせの極限状態でバトラーを動かしていることに変わりはない。肉体的にも精神的にも、かなり疲弊するのだ。

「では逆に、行った場合の提案をしよう」

 すると隊長はそう切り返してきた。

「君たちの家族のことはみんな把握している。今現在の状況を教えることもできるし、一緒に暮らせるよう計らうこともできる」

 それが隊長からの提案だった。

(家族と一緒に暮らせる…)

 私にとっては十分魅力的な提案だった。勿論それが狙いだ。相手に響かない提案をしても意味がない。

 私には妻と一人娘がいる。宇宙へ連れてこられてからは当然離れ離れだ。そして、今の状況やこれからのことを考えると、二度と会うことはないだろうと諦めていた。

「そんなこと今さら言われたって…」

 詰め寄った当のソフィーは、少し困惑気味。確かに急な話だ。心の準備というものもある。

 まだそれほど長い期間離れていたわけではないが、今回の別れは以前の“何かの用事で少しの間家を出ている”ぐらいの別れとは、明らかにことの重大さが違う。なので、こんなにも早く再会のチャンスが巡ってくるなんて、まさに想定外だ。戸惑うのもわかる。

「この中に、家族に会いたくないって人はいる?今会うのはちょっと困るっていう人」

 突然、カサハラ君がそんな問いかけを私たちにしてきた。

「会いたくないわけはないでしょ」

 ソフィーが言う。

「別に、会って困ることもない」

 ニーナも言う。

「まぁ、そうっすね」

 キド君も言う。

(……)

 私は無言でうなずいた。

「それじゃあ新しい任務も引き受けます。家族に会うのは困るっていう人がいたら断ろうと思ってたけど、みんな大丈夫そうなんで」

 カサハラ君が上を見上げ、少し強めに声を出す。隊長に答えているのだろう。

「君ならそう言うと思った。頼りにしてるよ」

 隊長はかなりカサハラ君のことを信頼しているようだ。今回の任務で、彼に対する評価はかなり上がったのではないだろうか。

「詳しいことはまたあとで連絡する。それまでゆっくり休んでてくれ」

 そして隊長の話は終わった。

「ちょっと勝手に決めないでよ!」

 すかさず、ソフィーがカサハラ君に食ってかかる。任務中にもよく見た光景だ。

「大丈夫だよ。成功させればいいんだから」

 相変わらず前向きなカサハラ君。それだけ自信もあるということだ

 それに、私は感謝している。今回の任務を引き受けてくれたことを。年配者として恥ずかしく思うが、彼の決断力には毎度助けられている。本人はあまり気にしていないかもしれないが、汚れ役もやってくれているようなものなので、そういった意味でも感謝している。

「やる時はやる男だから、木戸君は」

「え?俺っすか?」

「あんたがやんなさいよ!」

 何だかんだでいいチームだと思う。次の任務も、みんなで力を合わせればきっと成功するだろう。


 20XX年―

 奴らはやって来た…

「え、何これ、マジ?…」

 休みの日、部屋で1人テレビを見ていた俺は思わず身を乗り出した。

 何日か前に突如宇宙に謎の巨大物体が出現したらしく、いろいろ噂になったが、その巨大物体を撮った映像がホントに流れた。特大スクープだ。

「宇宙船なのか?これ…」

 映像はちょっと荒いが、そんな感じにも見える。隕石なんかじゃなく、明らかに人工物だ。そもそもその場に止まってるっていう話だ。

 形は平べったい楕円形で、大きさがオーストラリア大陸ぐらいあるとテレビの人は言ってた。

「どういう大きさなんだ?」

 地図のイメージだと、日本の下の方にある大きな大陸って感じだ。日本なんて丸ごとスッポリ入っちゃうだろう。

「宇宙人が乗ってるのかな…」

 地球以外にも生命体が存在してたってことだ。一体どんなタイプの宇宙人なんだろうか?

「どーなるんだろ…」

 今までにない何かが、動き出した気がした。

 数日後―

「宇宙人と何か話とかしてるんですかね?」

 昼休み。弁当を食べながら俺は先輩に聞いた。

 宇宙船が現れたからといって会社が休みになることもなく、何ともいえない不安を抱きながらも、みんなこれまでと同じ生活を送っていた。

「まぁ、何か目的があって来るんだろうから、世界のお偉いさんたちとは接触してんじゃないの」

 弁当を食べながら先輩が言う。

 スクープ映像が出たあと、テレビやネットはあまり表立ってこの話題を扱うことはない。禁じられてるのか、ホントに何も知らないのかはわからないが。

 ただ、世間一般での話題はもっぱら宇宙船関連で、侵略しに来た…お友達になりに来た…など様々な意見が飛び交っている。

「日本大丈夫ですかね。除け者にされてないですかね」

 今朝のニュースでは、首相は今、沖縄に何かの視察に行ってるようだ。宇宙船のことは知らんぷりしてるみたい。

「そりゃ、裏ではみんなちゃんと話し合ってるんだろ」

 先輩は軽く言う。

「だといいですけどね」

 何かあった時、日本人だけ出遅れちゃったりしたらたまったもんじゃない。

「いろいろ事情があって、発表したくてもなかなか発表できないんだろ」

「発表したらみんなが混乱しちゃうってことですか」

「だろうな。だからタイミングを測ってるんだろ」

「ってことは、何か大変なことになりそうってことですね…」

 確かに、大したことじゃなかったり、逆に喜ばしいことだったらとっとと話してるだろう。無視してるってことが、何かを隠してるってことだ。

 真実が伝えられた時、世界がどんな反応をするのだろうか。

 数日後―

「じゃあ、今のところ仕事は普通にあるんだね」

 母さんが聞いてくる。心配してくれてるのだろう。

「あるよ。毎日普通に通ってる」

 俺は答えた。

 休みの日、久しぶりに実家に帰った。今後のことを考えると、一回家族に会っておいた方がいいと思って。

「みんなはどうなの?」

 世の中がこんなことになってから少し家族との連絡は増えたが、最新の状況を知りたかった。

「父さんと母さんは大丈夫よ。私は元々午前中だけの仕事だしね」

 母さんは近所のスーパーで働いている。父さんは俺と同じサラリーマンで、まだまだ現役バリバリだ。

「綾香のトコは全然仕事が減っちゃって、週2日しか出てないのよ」

「そうなの?」

 母さんの言葉にちょっと驚いた。妹は雑貨屋さん関係の仕事をしている。かなり仕事が減ってきたという話はこの前聞いたけど、まさかそこまでとは…

「今日は仕事なの?」

 土曜日も働いていたはず。

「今日は休みで、彼氏とデートよ」

「ふーん…」

 俺はまだ会ったことのない彼氏だ。母さんも結構イケメンと言っていた。

 こんな時にデートか…という意見もあるだろうが、こんな時だからこそ会っておきたいのだろう。今、会いたい人に会っておかないと、あとで後悔することになるかもしれない。俺がここに来たのも、同じような理由だ。

(まぁ、彼女いないしね)

 ただ来週、高校の時の友達と飲み会の予定だ。みんなも何となく今のうちに会っておきたいのだろう。

「他の国は結構大変なことになってるみたいだな」

 父さんがテレビの方を見ながら言う。テレビは今、ニュース番組とかじゃないので、世間話ってことだ。

「そうねぇ、そのうち日本だって危ないかもしれないわよ」

 母さんがこっちを見ながら言う。

 確かに、日本はまだ大人しい方みたいだ。今回の件に関して、もう暴動に発展してる国もあるらしい。どの国も、明らかな証拠があるにも関わらず黙秘を続けているからだ。国民からしたらたまったもんじゃない。

 これに関してはたぶん、時間が経つほど不安が募っていくと思う。そして最終的にはそれが爆発しちゃうわけだから、そうなる前にホントは手を打たないといけないのだ。

「何か発表してほしいけど、発表したことで大変なことになるかもしれないしね」

 だから言わないのだろう。かといっていつまでも黙ってられない。この前先輩も言っていたように、タイミングが大事だ。

「宇宙人が地球を侵略しようとしてるんじゃないか」

 父さんが言う。よくある意見の一つだ。

「そしたらどうするの?みんなで宇宙人と戦うの?」

 母さんが言い返す。

「あの宇宙船には勝てないでしょ」

 俺は言った。オーストラリア大陸と戦うのだ。日本列島に勝ち目はないと思われる。

「だからどうしようか、今頃みんな必死になって考えてるんだろ」

 父さんのこの意見もよくあるものだ。でも、何となくだけど正解に近い気がする。世界中のお偉いさんたちは今、宇宙船の対応でてんやわんやに違いない。

 そして正式発表があった時、世界がひっくり返る事態が起こるに違いない。

 数日後―

 朝10時から首相より重大発表があるとネットなどで流れ、テレビやラジオが全てその会見になった。

 会社でも、急遽テレビが持ち込まれ、みんなで見守ることになった。

『他の惑星より飛来した知的生命体から接触があり、全地球人を対象に、その知的生命体が起こしている戦争に、兵士として徴兵するという旨の通達がありました』

 記者との質疑応答などは一切なく、首相はそれだけ申し上げるとそそくさと退席してしまった。

 そのあと出てきた人が、今後の予定は各国と協議中で何か決まり次第報告するので、みんなは平静を保ってこれまでどおりの生活を続けてほしいと訴え、この会見は幕を閉じた。

「マジか…」

 本当に大変なことになった。

 その後、会社は早退者が続出。人数が半分くらいになってしまった。しかし、政府の要望は通常どおりの生活を送ってほしいとのことなので、会社自体は休むわけにはいかないようだ。

「想像をちょっと超えてたな」

 昼休み。弁当を食べながら先輩が言う。先輩も帰らず残った。

「そうですね。俺らと戦争をする気はないみたいですね」

 地球人なんかそもそも眼中になく、他のライバルたちと戦ってて忙しいから、お前らちょっと手伝えって感じ。どっかのガキ大将みたいだ。

「奴らにとっては、地球人はその程度のもんなんだろ。これ、どうするか相当悩むぞ」

「お偉いさんたちですか?」

「話し合って決められることじゃないよな。こんなの結論出ないって」

「従うか、戦うか…ですよね」

 究極の二択だ。

「いや、戦っても負けるだろうし、徴兵されても戦争で死ぬだけだろ」

 先輩が素っ気なく言う。

「どっちにしろ死ぬってことじゃないですか」

「だからどうしようか迷うんだろ。どっちかが助かるんだったら、迷わずそっち選ぶだろ」

「まぁ、そうですね」

 どっちも選べないから、どうしていいかわからない。決められない。そういう状況ってことだ。

「俺は宇宙で戦う方がいいですけどね。何か夢があるじゃないですか」

 宇宙戦争に参加するなんて、まさに映画やゲームの話だ。

「宇宙で生き残ればいいんですよ。今あいつらと戦ったら、絶対即全滅ですよ」

「地球を木っ端微塵にするビームとか発射しそうだもんな」

 スケールが違い過ぎる。

「まぁでも、どっちにするか決まらないだろうな。そうなると、宇宙人がいつまで待ってくれるのか…だ」

「答え出さなかったら、ヤバくないですか。お前らもういいってことになって、いきなりビーム飛んできますよ」

 もう既に半月以上経っている。そろそろ痺れを切らす頃かもしれない。

「んー…マジでヤバい状況かもな。だから急いで発表ってことになったのかも」

「そうですね…」

 近いうちに何かが起こりそうな気がする。世界がひっくり返る時が、すぐそこまで迫っている。

 数日後―

 それでも会社があるので真面目に出社し、開店休業のような状態で仕事をし終えたあと、コンビニすら閉まっているシャッター街を通り抜けて無事に帰宅を果たし、冷蔵庫にある物で何を食べようかなぁ…と夕飯の献立を考えている時だった。

「何だ?…」

 突然寒気を感じた。メチャクチャ寒い日薄着で外に出ちゃったような感覚だ。と、次の瞬間、

「うぁ―」

 一瞬暗くなった。けど、すぐ元に戻る。

「あ?…」

 明るさは元に戻ったが、周りの景色は一変していた。

 ザワザワ…ザワザワ…

 人がウジャウジャいた。いや、ウジャウジャどころではない。人がギッシリ詰まっている。というか、周りには人しかいない。他には何もない。

「な、何だぁ?」

 この時は、何が起きたかさっぱりわからず、メチャクチャパニクった。あとで知ったことだが、実は巨大宇宙船は他にもたくさん来ていて、地球人全員がその宇宙船の中に強制的にワープさせられたのだ。

 現在―

「その時俺、仕事帰りで、1人で外で飯食ってたから、ワープしたあと周りみんな知らない人だらけで、メッチャビビったんすよ」

 木戸君がソフィーたちに面白おかしく語る。ワープの瞬間の話だ。

 目的地に着くまで時間があったので、みんな思い出話に花を咲かせていた。そういう話も、ようやく笑い話として話せるようになってきた。

 すると、

「もうすぐ到着する。準備を始めてくれ」

 隊長の声が再び聞こえてきた。

「よし、それじゃ行こうか」

 俺はみんなに声をかけ、気を引き締めた。新たな任務の始まりだ。


 作戦はこう。

 隊長たちがまずは様子を見にいって、私たちの出番があれば呼び出され、その場を制圧する。

「―って感じでしょ」

 私はカサハラに確認した。

「…ものスゴくザックリいえばね」

 ちょっと間があってからカサハラが答える。

 まぁ、作戦なんて概要がわかってればいい。実際にはその時どう動くか、その時考えなくてはならない。状況は、必ずしも私たちの思惑どおりには進まない。

 到着したのは、“レベル1679352”という人工の惑星。いろいろな物を作るためにある、星全体が工場のような惑星らしい。

 やたらと長い星の名前を完璧に覚えられたのは、頭の中に直接入ってきたから。今回もそうだけど、作戦の伝達は頭に埋め込まれた超小型端末機に送られてくる。

 宇宙船に誘拐されてすぐ、頭の上を無数の小型飛行機が飛び交う事態が起きたんだけど、その時に端末機を撃ちまくってたみたい。

 キドは、『俺はチクッときたんで、頭に何かやられたなって気づきましたよ』なんて言ってたけど、それは絶対嘘だと思う。私たちが想像するよりも遥かに小さくて、私たちでは想像もできないような方法で頭の中に潜り込んだはず。

 とにかく、超スーパーコンピュータが頭の中に一台あるようなもので、便利な時もあるし、うざったい時もある。

 ディヴァリア星のことやこの戦争のこと、戦ってる相手のことなど、基本的な知識はこの端末機を通して私たちは知った。

(バトラーの操縦方法もそうね)

 ディヴァリア星には仲間の星がたくさんあって、そのうちの一つの星の下請けの下請けの下請けの下請けの仕事をしているような星が、このレベル1679352だ。

 もしロボット軍団で使われていた装置をこの星で作っていて、それをその仲間の星が容認していたとしたら、由々しき問題ってわけ。

「よし、それじゃあバトラーに乗って待機だ」

 カサハラがみんなに号令をかける。


 ―搭乗中―


「ふぅー…」

 バトラーに乗るのは毎回大変。

「あとはもう待つしかないね」

 ニーナの声が聞こえてくる。近くにいる時はその場で聞こえているような感じだけど、離れてる場合は耳に直接聞こえてくる感じ。

「そうねぇ…」

 隊長が誰とどこで会ってどう話し合うのかはわからない。決裂した場合―私たちの出番になるんだろうけど、この5人で一つの星を制圧できるのか?という問題が出てくる。

 ただ、この星は物を作るのがメインなので、基本的には人は住んでないらしい。つまり機械が動いてるだけなので、それを制御しているコントロール室を制圧できれば、この星全体を封じ込めることができるらしい。

(でもこの星、月ぐらいの大きさあるみたいよ)

 物を作るための星とはいえ、スケールがデカい。だからちょっと不安になる。

「みんな、星のデータは確認した?」

 カサハラが聞いてくる。

「もう完璧っすよ。目をつぶったって歩けますよ」

 相変わらずオーバーなキド。

「まぁ、大体は把握してる。重要なのはコントロール室の位置だね」

 ジェレミーは冷静だ。

「けど、どこに呼ばれるかわからないんでしょ」

 ニーナも若干不安みたい。

 隊長が私たちをワープさせることになっている。時間も場所も、向こう次第ってこと。

「どこに呼ばれたって、向かう場所は一つだからな。そこに向かって突き進めばいい」

 カサハラらしい考え方。

 と、そこへ、別の声が割り込んできた。

「今からこっちに呼ぶ。すぐに近くのコントロール室に向かってくれ」

 隊長だ。遂にお声がかかった。

「みんな、準備はいいか!」

 カサハラが掛け声を発した次の瞬間、私たちはワープで飛ばされた。

(!)

 自分のいる場所が一瞬で変わるという現象にももうだいぶ慣れてきたので、ワープが終わり別の場所に来ても、戸惑うことなく瞬時に動けるようになった。

「ここは、どこ?…」

 とはいえ、状況を把握するのに少々お時間がかかる。

 空は青空で、地球でいう昼間の時間帯だと思う。

 周りには大きな建物がいっぱい。工場っていうと煙突がたくさんあって煙がモクモク出てたり、パイプがそこらじゅうを走り回ってて迷路みたいになってるイメージだけど、ここはどの建物も外観は洗練されててオシャレな感じ。工場地帯っていうよりもオフィス街みたいだった。

 いろんな形、大きさの乗り物が空を飛び交い、道路を人型のロボットが歩いている。情報どおりだけど、人の姿は見当たらない。

 ロボットたちは、突然現れた私たちを見ても特に何の反応もない。こっちも大きなロボットだから、仲間と思われてるのかもしれない。

「“203エリア”みたい」

「隣の“202エリア”に、コントロールセンターの一つがある」

「よし、そこに向かうぞ!」

 私は苦手だけど、みんなは情報分析が得意なのですぐに目的地を割り出し、カサハラを先頭に走り出す。

 すると、目の前に巨大な飛行物体が現れた。周りには小さいのもたくさん飛んでる。みんな平べったい三角形で、積み木でできてるみたいにシンプルな形だった。いかにも人間側が作ったって感じ。

「逃げろ!」

 カサハラがそう言った瞬間、その飛行機たちがこっちに向かって一斉にビームを発射してきた。警告も何もない、問答無用の攻撃だ。

 私たちはそれぞれ、慌てて近くの建物の陰に隠れた。

 味方のロボットであるはずのバトラーにも容赦なく撃ってくるってことは、隊長たちが相当何かやらかしたか、とにかく侵入者に対しては排除せよっていう命令が出ているのか…

 ボカボカドッカーン!

(にしても…)

 メチャクチャね…

 建物への被害なんかお構いなし。ガンガンビームを撃ちまくってくる。特に大きいのは火力がヤバい。下についてる小さな球体からビームを発射するんだけど、その数が半端じゃない。

「みんなはデカいのを引き付けてくれ」

 カサハラはそう言うと、1人表に飛び出していく。

 ボカーン!ボカーン!…

 そして、小さい方の戦闘機を次々と撃破していく。かなり高速で動き回ってる標的を、一発で確実に仕留める射撃の腕前はもはや神業。

「こっちもデカいのぐらい当てなくちゃね」

 バシュ!バシュ!…

 他4名はカサハラの指示どおり、敵のビームに気をつけながら親玉っぽい巨大戦闘機をレイダーで狙い撃ちにする。的が大きいから外す心配がない。

「木戸君!」

「はい!」

 小型戦闘機をあっという間に全滅させたカサハラがキドを呼ぶと、2人で近くの建物に飛び移り、ヒョイヒョイヒョイッと登ってそのまま巨大戦闘機に向かってジャンプした。

「ちょ、ちょっと…」

 2人は巨大戦闘機に何とかしがみつき、機体上部まで登り詰めた。

「マジ?…」

 確かに低い所を飛んでいたが、そもそも飛び乗ろうという発想が私には浮かばない。

 バシュ!バシュ!…

 上からの敵を想定していなかったのか、カサハラとキドは攻撃を受けることなくレイダーをひたすら撃ちまくっている。その前に4人で下からダメージを与えていたので、巨大戦闘機はたちまち火に包まれた。

 ボカーン!ボカボカボカーン!

「木戸君!」

「はい!」

 2人は燃え盛る巨大戦闘機からまた大きくジャンプすると、すぐそばの建物の壁に飛びつき、ガガガァーッと一気に降りてきた。

「信じられない…」

 やることがメチャクチャ…

 でも、そのおかげで敵を退けることができた。頼りになるけど、相変わらず危なっかしい。

「ここはちょっと面倒なことになりそうだね」

 ニーナが言ってくる。工場破壊の時に比べてってこと。

「そうねぇ…」

 こっちはちゃんとした防衛システムが働いてそう。そして私たちは敵とみなされている。狙われるのは確実だ。

 実際その後、大小様々な戦闘機が私たちの行手を阻むように次から次へと現れた。


 私は直立のまま、正面に座る星政(せいせい)管理官を見据え報告した。

「1679に、本国の部隊が?」

 管理官室は管理官しかいないのでそれほど大きな部屋ではなく、あるのも椅子とテーブルのみ。全ての仕事が卓上で完結できるけど、私はあえて直接報告に来た。

「はい。すでに制圧された模様です」

 今から約1時間前、緊急の連絡が私の元に入った。各機関にも通達し確証を得たことで、管理官にも連絡した方が良いと判断した。

「…わかった」

 かなり考えたあと、管理官は静かに答えた。

(……)

 私が黙ってその場に立ち尽くしていると、

「もう下がって結構。あとはこちらで引き受けます」

 管理官はそれだけを伝え視線をテーブルの方へ移すと、すぐに次の作業に取りかかった。今後、管理官の果たすべき役割はとても大きく重要になってくる。

「承知いたしました」

 私は一礼をし、管理官室から即刻退場した。


【工場の破壊】と【星の制圧】連続する二つのミッションを見事にクリアした。

 で、任務が終われば即帰還。バトラーで宇宙船に戻ったと思ったら、すぐに“ホーム”にワープさせられた。

 ので、結局みんなとはまともにお別れすらできなかった。

「確かに今回のは人数が少なかったからねぇ」

 笠原さんも名残惜しそう。

 バトラーから降りたあと、待機室で笠原さんと合流。その後、自分たちの部屋に向かって2人で歩く。

「あんま、ないっすもんね」

 一緒の任務をしていても、名前すら知らないっていうことがほとんどだ。

 地球人はみんなこの星にいるらしいが、地球よりも数倍大きな星に数百人規模のホームが点在しているような状況なので、違うホームの人と会うのはもっぱら戦場だ。

(外出禁止だし)

 そんな所で会ったって、会話する余裕なんてない。

「ソフィーもニーナも結構可愛いかったっすもんね」

「まぁ、いかにも欧米の子って感じだね」

 実際、ソフィーもニーナもジェレミーさんも、どこの国の人か知らない。特に聞かなかった。

 小型端末機が頭に入ったことで、言葉の壁が取っ払われた。誰がしゃべっても聞いてる人の理解できる言葉に変換されて耳の中に入るようになったのだ。

(しかも、ちゃんとその人の声で)

 そこがスゴい。

「年齢も近かったから、話しやすかったしね」

「そうっすね。笠原さんはだいぶソフィーに怒鳴られてましたもんね」

 言葉と口の動きが合っていない―映画の吹き替えを生で聞いてるような感じで、最初は違和感があったけど、周りみんながそんなだからそのうち慣れた。

(がんばって英語とか勉強したんだけどね)

 宇宙に出ると言葉がいっぱいありすぎて、勉強してどうにかなるっていう問題じゃないのだろう。だから科学の力を利用する。

 ただそのおかげで、いろんな人に会ってもその人がどの国出身なのか気にしなくなった。むしろ、地球人という同じ仲間だっていう意識が強い。

「ジェレミーさんだってスゴかったよ。今回、4人の中で唯一フォローしなかった」

「え、そうなんすか」

 ジェレミーさんは笠原さんとは違う頼り甲斐があった。年齢もあるだろう。

「木戸君とソフィーとニーナは、危ない時が何回かあったから先にこっちで対処したりしたけど、ジェレミーさんは危ない感じにならなかった。ちゃんと周りが見えてるんだろうね」

「へぇー…」

 笠原さんにそこまで言われるってことはホントにスゴかったんだろう。

 自分でも、笠原さんに助けられたことはわかる。気づいてない方向の敵が破壊されてるから。

(あ、今ヤバかったんだ…って)

 そう考えると、今まで相当笠原さんには助けられてきた。

「ジェレミーさん、家族と一緒になれるといいけどね」

「そうっすね。そういう約束っすもんね」

 ジェレミーさんには奥さんと娘さんがいる。当然今はバラバラだ。優しいお父さんって感じがするから、家族のことがずっと心配だったに違いない。

 今回、星の制圧の任務を笠原さんが積極的に引き受けたのは、ジェレミーさんに対する思いもあったと思う。

「木戸君は、家族と会えたらどーするよ」

「え…どうですかね…」

 確かに、俺を含めみんなにその権利がある。ミッションクリアの報酬だ。

 ただ、あまりちゃんと考えてなかった。

「俺は、みんなが元気にやってるっていうのがわかったら、無理に会おうとは思わないだよね。むしろこの状況で会いたくないというか…」

「あー、それわかります」

 笠原さんの考えに激しく同意した。

 心配は心配なんで今の状況を知りたいけど、会ったところで今さらもう昔みたいには戻れないから、だったらこのままでいいんじゃないか…っていう考えだ。

「まぁでも、せっかくなんで会うだけ会おうかな。一緒に生活するのはやめとくけど」

「まぁ、そうっすね。一応がんばったご褒美っすからね」

 笠原さんは妹さんがいて4人家族だ。俺は一人っ子なので会うとしても親だけ。それがさらに気恥ずかしい気持ちになる。

「それじゃ、またね」

「あ、はい、また」

 同じホームでもさすがに部屋は違うので、笠原さんとはここでお別れ。1人で部屋に向かう。

 笠原さんと同じホームになったことは、ホントにラッキーだった。自分以外で唯一の日本人で、年齢もちょっとだけ向こうが上で、正に頼れる兄貴って感じだ。

(で、俺は頼れる弟)

 宇宙船にさらわれ、頭に小型端末機を埋められたあと、民族大移動が始まった。ワープの連続でドンドン場所が移り変わり、気がつくと周りがものスゴいインターナショナルになってた。

 仲間と群れないように孤立させるというディヴァリアの戦略だと思うが、確かに効果はあった。あの状況じゃあ誰も何もできない。

 そのあとは向こうの指示に大人しく従い、この星に着き、このホームに連れてこられた。

 そこで出会ったのが笠原さんだ。

(今までに味わったことのない感動があったね)

 みんな言葉が通じるようになったとはいえ、やっぱり同じ日本人というのは大きい。

 ちなみに、初めて会った時の笠原さんは眼鏡をかけていた。視力が悪かったんだから当然だ。

 ホームに着いてからしばらくして、健康診断が行われた。医務室にあるベッドに横になって、ピピッて音が鳴ったらハイ終了。結果、僕は健康体だったので、その後の処置はなかった。

 その検査で笠原さんは視力の弱さを指摘されて、そのまま回復手術を受けることになった。といっても、上からピカッと赤い光を浴びせられただけらしい。『木戸君、目が見えるようになったよ!』笠原さんがそう言って大興奮する姿は、今でも目に浮かぶ。

(意外と珍しいかもね)

 俺は回復手術を受けなかったけど、あとでみんなに話を聞くと、結構いろんな病気が治っちゃったらしい。もはやこっちでは、死ななければ何でも元どおりになるみたいだ。

 で、性格的にもお互いに合ったのか、俺と笠原さんはすぐに意気投合した。

 基本ホームの中では食事やお風呂は団体行動で、その中では好きに動けるから、笠原さんとはいつも一緒だ。

(ディヴァリア人は俺らを奴隷のように扱ってるわけじゃない)

 戦場には立たせるけど、そのための肉体的、精神的フォローは十分してくれてると思う。たぶん、そのぐらいの余裕があるのだろう。物理的な問題も経済的な問題も感じたことはない。衣食住を完璧に保証してくれる。

 ある程度の自由もあり、バトラーの練習も笠原さんと受けていた。笠原さんは巨大ロボットのパイロットになれたことにメチャクチャ興奮してた。ただやっぱり、ハンドルとかをガチャガチャやりたかったらしく、『これじゃ巨人になったって感じだよね』とぼやいていた。

 それでも、笠原さんのバトラーを操る能力は最初からずば抜けていて、何度『この人スゲェなぁ…』と思ったことか。

 そしてその能力は戦場でも見事に発揮され、周りが驚くような活躍を見せてくれた。

「ただいま」

 部屋に到着。中で誰かが待ってるわけでもないが、毎回入る時はあいさつして入る。

「はぁー…」

 俺はすぐにベッドに横になった。

 この部屋はもう、寝るためだけの部屋だ。ベッドと、机と椅子のセットが一つあるだけ。風呂もトイレも供用で、食事は食堂で食べる。テレビもゲームも、携帯もパソコンもないとても健康的な環境だ。

(頭の端末機が好きな時に使えればいいんだけどね)

 何度も挑戦しているがうまくいった試しはない。他の人も同じ結果みたい。

 せっかく頭の中にものスゴいコンピューターがあるので、それでいろいろ調べものをしたり、息抜きにちょっと遊んだりしたいところだけど、それが許されてない。

 必要な時にだけ、必要な情報だけが頭に流れ込んでくる。あとは向こうが操作して意図的に流すか。そういう仕組みのようだ。

(んー…)

 で、あれこれ考えてるうちに…

「ZZZ…」

 寝てしまった。

 数日後、惑星ミリタリダスへの出陣が決まった。ディヴァリアとは同盟関係にある星だ。

 撃って出る艦隊の規模は破格で、バトラーだけでも100億機出るとのこと。地球人全員でも足りない数だ。


「これスゲェな…」

 改めて周りを見て驚く。

 上を見ても下を見ても、右を見ても左を見ても、延々とバトラーが見える。ただ、前と後ろには一機もいない。大量のバトラーが一枚の紙のように薄っぺらく並んでいるのだ。

「さすがに初めてっすね、ここまでスゴいの」

 ちゃっかり隣に並んでいる木戸君も驚いている。

 実際にこの場にいるバトラーは70億ほどで、残りは待機している。全部ではないとはいえ、70億もいたらこんなことになるのだろう。

 目の前にはもう惑星ミリタリダスがある。ホントに、手を伸ばせば届きそうな距離だ。

 しかし、すでにここに1時間ぐらいいる。俺たちも待機中なのだ。

「話し合いが長引いてるんすかね」

「だろうね」

 詳しい説明はないが、おそらく話し合いが行われているのだろう。俺は、ホントに攻め込む気はないと思ってる。これはただの脅しだ。けど、それなりに本気を見せないと説得力がない。そのための100億だと思う。

 ロボット相手に戦ってるっていうのに、人間同士が争ってる場合ではない。確かに裏切り行為があったのかもしれないので、ある程度の制裁はあるだろうが、ここは穏便に済ませた方が得だと思う。

「こんなこと今までもたくさんあったんじゃないの?」

「たぶんそうっすよね」

 もしかしたら実際に戦争になって滅ぼされた星とかもあったかもしれないけど、今回はそこまでじゃないと信じたい。

「俺らがバラしちゃったヤツっすよね」

「だろうね。時期的にちょうどでしょ」

 その後の結果報告は特に受けてないが、黒だったってことだ。何をやらかしたのかはわからないけど。

「だからって別に、責任を感じることはないよ。俺らはただ与えられた任務を全うしただけなんだから」

「あ、それは大丈夫です。全然気にしてないっす」

 あとは早くこの問題を解決したいってだけだ。

「木戸君、1人であの星行って、ちょっとひと暴れしてきてよ。それで許してあげよう」

「マジっすか、俺1人っすか。どうします、大ダメージ与えちゃったら。再起不能の星になっちゃうかもしんないっすよ」

「そこは手加減しなさいよ。向こうはもう土下座して謝ってるんだから」

「いやー、暴れたら手ぇつけらんないっすよ、俺」

「鬼か。血も涙もない奴だな」

 周りからクスクス笑い声がする。どうやら聞こえちゃってるようだ。

『よっしゃ!』とウケたことを喜んでる場合ではない。もっと緊張感を持たないと…と軽く反省したその時だ―

「後方にワープ反応あり!全部隊、戦いに備えよ!」

 司令部から衝撃の通信が入った。

「敵ってことか?」

 俺はすぐに振り返った。他のみんなも一斉に振り向く。

 今回は宇宙での戦闘も想定されるので、バトラーの背中に最初から“ハイプラス”を装着している。飛行用の装置だ。名前はプラスだが形状はX型で、これを着けていれば空も飛べるし、宇宙空間だってスイスイ移動できる。

「おおぉ!何かいる」

 まだだいぶ距離はあるが、かなりの数の艦隊がいつの間にかズラーッと並んでいた。しかも、何だかとんでもないのもいる。

「あのデケェのなんだ…」

 見た目はただの丸い輪っかみたいだが、大きさが半端ない。周りの宇宙船と比べると桁違いだ。

「あれ、ロボット軍団っすよね」

 当然木戸君にもわかるようだ。シンプルなのが人間たち、メカメカしいのはロボットたちだ。

「どういうことだ?…」

 やっぱりミリタリダスが裏切っていて、ロボットたちを呼んだってことなんだろうか。わざと話し合いを長引かせていたんだろうか。

「挟み撃ちっすか?」

 木戸君がそう言って後ろをチラッと見る。

「最悪ね…」

 これでミリタリダスが背後をついてきたらそうなる。

 けどこっちにも待機中の部隊がある。数で負けることは決してないはず。

(それよりも…)

 気になるのはあのデカい輪っかだ。ただのお飾りのわけない。デカいのにはデカいなりの理由がある。

 俺は視界を望遠モードにして輪っかを見た。ロボット軍特有の外装がない内部剥き出しの感じで、フォーカーたちの姿もチラホラ見える。

 やはり兵器と考えるのが妥当で、当然真ん中の巨大な穴を利用した攻撃をしてくるに違いない。発射台がデカいと、そこから繰り出されるエネルギーもえげつないほどデカくなるはず。

 と―

「あ、ヤバ…」

 巨大な輪っかの内側が白く光り出した。そして次の瞬間―

 ズバボォーーーン!

 超弩級のビームが飛んできた。

 ドガァン!ボガァン!ドゴォン!ボゴォン!

 大きい宇宙船が集まっている所を狙われた。回避することもできず、次々に爆破していく。

「くそ…」

 大抵の宇宙船にはバリア発生装置が設置してあり、今も機能していた状態だと思うが、そのバリアが耐えきれずに船体に直接ダメージを受けてしまったようだ。被害を受けた船の中には、まだ後ろ向きだった物もある。

 周りにいた小型機やバトラーはそもそもバリアがないので、こんな攻撃ひとたまりもない。

 逃げるのにワープを使いたくなるが、この距離だとワープを追跡されてしまう可能性があり、もしこの状態で基地に逃げ込めば、そこにロボット軍団が殺到するという事態になりかねない。

 だからこういう場で逃げるためには、ただ高速で移動し離脱するしかない。つまり全速力で走れってことだ。

「全軍、出動!」

 ようやく号令が下され、みんなが一斉に飛び出していく。

「いくぞ、木戸君」

「はい」

 俺もみんなに続いた。

 こっちも、相手の輪っか以外も、まだ射程距離ではない。唯一輪っかの攻撃だけがこっちに届いてしまう状況だ。なのでまず、距離を縮める必要がある。

 70億のバトラーが一気に攻め入る光景は圧巻だ。今度は上も下も右も左も前も後ろもバトラーだ。バトラーに埋め尽くされてる。

 バシュン!バシュン!バシュン!

 と、遂に射程距離内に入った。大型の宇宙船から放たれたビームが飛んでくる。

 バシュン!バシュン!バシュン!

 で、それはこっちも同じで、ビームがロボット軍団に向けて飛んでいく。

 ちなみに、ロボット軍との戦いは少々厄介で、こっちの乗り物をオートなどで操縦するとロボットたちに乗っ取られる危険性があり、十分な注意が必要とのことだ。

(全部が全部というわけじゃないらしいけどね)

 バトラーの操縦が体を動かすような感じなのも、その対策もあるみたいだ。機械に頼らず自分の感覚で操縦する。

「これだけいると、結構やられちゃいますね…」

 木戸君がそう声をかけてくる。

 みんなうまく敵のビームを回避してはいるが、全員が避けきれるわけではない。巻き添えをくらうバトラーが何体か出てくる。

 お互いに攻撃が当たる距離まで来ると、進撃するスピードがグッと落ちる。それでもこの数なので、大量のバトラーが突き進む。俺と木戸君もそうだ。

 するとまた、

 ズバボォーーーン!

 輪っかからビームが放たれた。

「な、何だ?」

 しかし今度は、巨大な一本のビームではなく、小さめのビームが無数に飛んできた。発射台がバカデカいので、ビームの数も飛んでくる範囲も通常の兵器とは比較にならない。

 俺たちの方までは飛んでこなかったが、やっぱりこれも甚大な被害が出た。

「あれもヤバいっすね…」

「相当ヤバいね…」

 何といってもデカさがヤバい。今までに遭遇したことのないスケール感だ。

 元々宇宙には、地球人にとっては規格外の物がたくさんある。最初に地球にやってきた宇宙船はオーストラリア大陸ぐらいの大きさがあったし、実はそれを何十機も格納できるさらに超巨大な宇宙船もあった。

 ただ、戦艦や小型戦闘機なんかはあまり大きいのはない。地球人から見ても普通サイズだ。デカくても標的にされるだけで、実戦向きではないのだろう。

 あの輪っかは鉄砲の銃口部分だけのような感じで―いわば本体がないので、大きいけれど、ある意味無駄を省いて小型化された兵器ともいえる。

「俺、ちょっとあそこに行ってみるよ」

 輪っかの方を指さし木戸君に言った。何だか段々興味が湧いてきた。

「え、あのミスターの所ですか?」

 ひねり過ぎててわかりづらい木戸君の表現。

「木戸君、とにかく生き残ることだけ考えるように」

 俺はそんな木戸君にそれだけを伝え、ちょっとスピードアップしてこの場を離れた。

「笠原さんも無理しないでくださいね」

 引き止めるなんて野暮なことはしない。それが木戸君のいいところだ。

 バシュン!バシュン!バシュン!

 戦艦同士による激しい撃ち合いが続く。

 そんな中、機動力がある小型機や一部のバトラーが、遂に敵と接触し始めた。

 ロボット軍の戦闘機は、プラモにしたら結構格好よさそう。その点、こっちの乗り物はおでんの具みたいだ。輪切りの大根に三角のはんぺん、真っ二つの卵みたいな形ばっかり。味気ない。

(味は染み込んでそうだけどね)

 木戸君みたいなことを言ってみた。

 バシュン!バシュン!バシュン!

 意外にみんな知らないことだけど、うちらとロボット軍のビームには違いがある。

 パッと見はどっちも真っ白なビームだけど、よぉーく見ると、うちらは青みがかった白でロボット軍は緑がかった白なのだ。なので、集中して見ると、青いビームと緑のビームが飛び交っているのがわかる。

 だからといって、緑のビームだけ気をつけてればいいってもんでもない。味方のことを狙って撃ったんじゃなくても、たまたまこっちに向かって飛んできちゃう青いビームもある。流れ弾ってやつだ。

 バシュン!バシュン!バシュン!

 そういうのにも注意するってなると、360度全方向を注意しなくちゃならなくなる。俺の場合は、俺自身も含めた周囲を見るような感じで周りを警戒している。

 ―というようなことを木戸君に言ったら、『それはもう幽体離脱っすよ』と冷静につっこまれた。

(まぁ確かに)

 ただそれはあくまでもイメージするってことで、実際にそう見えてるわけじゃない。けど、イメージしておくと、本当にいろいろ見えてくる。思い込むことで、本当にその能力が発揮できるようになったりするもんだ。

「危なっ…」

 バシュン!

 こうしてる間にも、敵の攻撃を避けつつ、敵を撃破しながら進んでいる。今はちょっとだけヤバかった。

 おかげで無事、ミスターに近づいている。とはいえ、まだ敵の本隊に辿り着いてないのでこの程度で済んでいるが、ミスターの近くまで行くには敵本隊に突っ込んでいかなきゃならないので、手荒い歓迎を受けることになるだろう。

「よしっ」

 俺はハイプラスのスピードをもう少しアップさせた。


 突撃命令が出て、70億のバトラーが一斉に動き出した。

「スゴーい….」

 その光景はまさに圧巻だった。それと同時に、改めて宇宙空間の広大さを実感した。70億ものバトラーがこうして自由に動き回れるのだ。

 この戦場にはワープで呼び出され、その段階から綺麗に整列していたので元々前後にバトラーの姿はなかかった。その状態で発進したから、最初は何も遮る物がなく開放的な気分で前に向かっていたけど、段々スピードに差が出てきたことで、いつの間にか前方がバトラーで埋め尽くされていた。

 バトラーの性能に個体差はないので、搭乗者の熱量が反映しているのだろう。積極的な人、まぁまぁ普通の人、消極的な人…大体この三段階ぐらいにわかれてる感じ。

(私はまぁまぁ普通かな)

 なので、前にも後ろにもバトラーがたくさんいる。

 先陣を切って走ってそうなのが、カサハラとキドの2人。もしかしたらホントに今頃、先頭の先頭にいるかもしれない。

 ニーナは私と同じで、中央集団って気がする。その辺でばったり出くわすかもしれない。

 ジェレミーさんは慎重派だから、殿を務めるタイプだ。後ろも警戒しつつ、全体を見渡してそう。

 そんなことを考えていると、

 ズバボォーーーン!

「きゃあ!」

 また大きな輪っかが攻撃してきた。今度はさっきとは違って、細かいビームが無数に飛んでくる。まるでシャワーみたい。そのうちの一つがかなり近い場所を通っていった。

「大丈夫?」

 ちょっと叫び声が大きかったのか、隣のサマンサが心配そうに声をかけてくる。

「大丈夫、ビックリしちゃって…」

「今のはスゴかったね…結構やられちゃったみたい…」

 これだけバトラーがウヨウヨいれば、適当に撃ってもそれなりの数に当たっちゃう。的を絞らせないようにもっと全体的に広がるか、元を断つしかない。

「あのデッカいの、壊せるのかな?」

 サマンサもそう思ったのか、私に意見を求めてくる。

「数はこっちの方が多そうだから、みんなでやればいけるでしょ」

 バトラーの数も多いけど、戦艦の数だってたくさんある。集中して狙えば、あれぐらい大きくても破壊は可能なはず。

「っていうか、壊さないとヤバいでしょ」

 あんなのをいつまでのさばらせておいたら、勝ったとしても甚大な被害が出ちゃう。まだ二発しか撃ってないけど、その凶悪性はよくわかった。

「先頭の方は、もう戦いが始まってるみたいね」

 望遠モードを使って確認したのか、サマンサが教えてくれた。

 バトラーには、大人の地球人が全員乗ってると考えていい。そうなると当然、戦闘向きの人とそうでない人が出てくる。地球でも元々軍隊に所属していたような人は、最初から戦い方を知っている。

 私たちは兵隊として地球から連れてこられたので、戦場での行動も学ぶ。でも、すでに実戦を経験したような人たちとは明らかにスタートに差がある。

 ただ、バトラーの操縦はそういうことは抜きなので、軍人じゃなくても超絶うまい人がいる。

(カサハラみたいなね)

 もう戦い始めてる人たちは、たぶんどっちかだと思う。戦争の知識や経験が豊富な人たちか、もしくはバトラーの操縦に長けた人たち。じゃなきゃ積極的には突き進まないだろう。

 戦いにもバトラーの操縦にも不慣れな私たちのような人は、あとからついていく派だ。基本的には戦える人たちに任せて後方支援をする。

 やりたくはないけど、やるしかないのでやっている。正直、そんな気持ち。

 バシュン!バシュン!バシュン!

 近くのバトラーがレイダーを撃ち始めた。

 気づくと、敵の戦闘機がすぐそこまで来ていた。数は少ないので、ただ突っ込んできただけって感じだからあっさり返り討ちにあったけど、遂に戦闘エリアに入ったってことだ。

(負けない!)

 私は覚悟を決め、気合を入れた。戦場では迷ってる暇はない。一瞬で散ってしまう。

「行こう、サマンサ」

「ええ」


 戦闘が激しくなってきた。

 バシュン!バシュン!バシュン!

「わ、わわわわ…」

 というか、俺1人狙われてるみたいな感じだ。周りに仲間がいなくなってしまった。どこもかしこも敵だらけ。どうやら層の分厚い部分にぶち当たってしまったようだ。

「くそっ…いったん退避…」

 やられちゃったら元も子もない。俺は後退して手薄な所を探すことにした。急がば回れだ。

 ここまで来ると、戻るのももう面倒くさい。だったらみんなが来るのを待ってた方がいい。スタミナはまだまだ十分ある。

 バトラーもハイプラスもレイダーも、超濃縮されたエネルギーがギッシリ積まれているので、エネルギー切れで動けなくなるなんてことはほとんどあり得ない。今まで一度もない。

 バトラーはワープの使用を制限されていて、使えるようにするにはエネルギーを使い果たさなければならない。しかし、それは現実的には不可能なので、要は壊れるまで戦えってことなのだ。

 というわけで、迂回路を探しているその時―

「んん?」

 バシュン!バシュン!バシュン!

 俺以外に集中攻撃をくらっているバトラーがいた。

「よしっ」

 早速助太刀に入る。敵は気を取られていたので瞬殺だった。

「大丈夫ですか?」

 俺はそう声をかけた。見た目は特にダメージを受けた感じはない。

「ありがとう…」

 中の人が応える。声は男っぽい。戦場では個人情報が最小限しか出ないので名前などはわからないが、健康状態には問題なさそうだ。

「こんな所で何してるんですか。1人になったら危ないですよ」

 自分のことは棚に上げておく。

「戦ってるだけだ…兵士だからな…」

 それはわかるけど―

「死にますよ、こんなことしてたら」

 今だって俺が来なかったら危なかった。

「死ぬまで働くのが兵士だ…死んだらそれまでだ…」

 やたらと兵士を強調したがる人だ。そしてこの感じは、ちょくちょく見かける症状だ。現状に絶望し、自暴自棄になっている。

「そんなに簡単に死んでどーするんですか」

 正直、ちょっと厄介なことに関わっちゃったかなとも思うが、このまま放っておくこともできない。一応説得してみるつもりだ。

「生きてたって何もないだろう。ただ戦うだけだ」

 完全に絶望しちゃってる感じ。

「今は戦うだけだけど、この戦争に勝てば戦う必要もなくなって、普通の生活ができるようになるかもしれないじゃないですか」

 戦争がなければ兵士はお払い箱だ。そうしたら―前の生活には戻れないだろうけど、戦いのない新しい生活が始まるはず。

「勝てるわけないだろう、こんな戦争…」

 当然そう言い返してくる。とにかくスケールが大きすぎて、簡単に終わるものじゃないと思ってしまうのだ。

 だが、この戦争だって何万年も続けてるってわけではなく、たかだか何百年前からって感じらしい。

 確かに、ロボットが相手だから敵が無限に増えそうなイメージもあるけど、核となる存在もいるので、それを破壊できれば大きく勝利に近づける。

 終わりが見えない争いではなく、ゴールはきちんと用意してある。そのゴールへ辿り着くのが、今この時ではないと言い切ることはできない。可能性はゼロではないのだ。

 ―なんてことをいちいち語り合うのは面倒くさい。

 ドカッ!

「な、何するんだ…」

 俺は自陣の方へそのバトラーを蹴った。

「いいから、とっとと戻れ!」

 そして言った。

「みんなもこっちに向かってるから、すぐに合流できる。そしたらみんなと協力して一体でも多くロボットを倒せ。それが今、あんたのやることだ。あとのことはあとで考えろ」

 俺だって暇じゃない。いつまでも付き合ってられない。

「あんたは強い。みんなを助けてあげてくれ」

 ここまで無事に1人で来られた実力は本物だ。俺が保証する。ロボットとの戦いでも間違いなく活躍できるはずだ。本人にやる気があればだけど…

「お、お前はどうするんだ…」

 もっともな質問だ。逆の立場なら俺もそう思うだろう。

「俺はあのデカい輪っかに用があるんだよ」

 で、俺はそう答えた。そのために今ここにいる。

「はぁ?」

 何言ってんだ、お前…っていう反応をする。逆の立場なら俺もそう思うだろう。

「いいから、俺のことは放っておいて、さっさと帰れ!いいな!」

 もうここには用はないので、話を強引に切り上げて俺は1人ミスターの方へ向かって発進した。

「ちょ、ちょっと―」

 何か言いたそうだったけど無視。ドンドン離れていった。

(早く行かないとみんなも来ちゃうからな)

 せっかくなら一番乗りを狙いたいところだ。完全な自己満足だけど…

 その後、紆余曲折を経て、本当にミスターの元に辿り着いた。あと少しというエリアが一番敵の数が多く、死に物狂いで何とか切り抜けたが、近くまで行っちゃうと逆に攻撃を受けることもなくなり、ミスター自体にも防衛機能がないのか―無事に目的を果たせた。バトラー一機なんて、小バエが飛んでるくらいのもんなんだろう。

「デッケェ…」

 近づく段階で既にデカいと思ったけど、間近で見るとさらに圧倒された。

 ロボット軍団特有の外装がない内部剥き出し状態で、まだ建設途中のような感じだ。中の通路なども所々丸見えで、フォーカーたちが歩いてる姿が見えちゃう。

「何か、うまく攻撃して壊せないかな…」

 本体を破壊するのは無理でも、兵器としての機能を停止させることができれば大成功だ。

(……)

 俺はミスターをじっくり観察した。

(コントロール室みたいのはないかな…)

 ここを壊せば一発!みたいな…

(んー…)

 見れば見るほど…

(無理だな…)

 そういうレベルの建造物ではないことがわかる。所詮、小バエは小バエだ。小さすぎる反乱者だ。

 と―

「そんな所で何をしている?」

 通信が入った。味方からだ。声に聞き覚えはないが男の声っぽい。ディヴァリア人だろう。

「いや、その、何というか…」

 返答に困ってしまう。

「まぁ、今は理由はどうだっていい。それよりも、君は…カサハラというんだな」

「ああ、はい…」

 そういうことはすぐに判明しちゃうみたい。

「今から私の指示するポイントにすぐに向かってくれ」

「は?」

 突然命令が下された。と、同時に、モニターにミスターの映像が出てくる。

「私の指示するポイントに向かってくれ」

 二度言われた。声ちょっと強め。

「ああ、はい…ここに向かえばいいんですね」

 拒否するどころか、聞き返すことすらできない雰囲気だ。機嫌を損ねる前に了解するしかない。

「頼んだぞ」

 通信が切れた。

(指示するポイント?…)

 正直、よくわからない状態で答えていた。なので、ミスターの映像を改めてチェックする。

「ああ、これか…」

 で、すぐにわかった。赤く点滅する光が指示するポイントのようだ。白い光は現在地。

(結構ありそうだな…)

 当たり前だが、映像のミスターは実物よりもだいぶ縮小されているので、ポイントまでの実際の距離をなめてはいけない。

「ま、命令ならしゃーない」

 とにかく俺はそのポイントへ向かった。

 その間も、特にロボット軍団による妨害はなく、俺の存在は完全にないものとされているようだ。敵がここまで来ることを想定していなかったのだろうか。たまにずさんなところがあるのが、ロボット軍団の可愛いところだ。

(この辺かな…)

 指示されたポイントに到着。すると―

「遅いぞ、何やってた」

 さっきの人からいきなり通信が入った。どうやら待ち焦がれていたようだ。

「あ、はい、すみません…」

 こっちはそんなにゆっくり来たつもりはない。ホントに遠かったのだ。ミスター恐るべし。

「まぁ、いい、よくやってくれた」

 上げたり下げたり忙しい人だ。

「これからそこに向かって全艦一斉射撃を行う。君のバトラーはワープを解除しておいたから、ギリギリまで粘ってから逃げてくれ」

「は?」

「発射まで10秒だ。幸運を祈る」

 通信が切れた。

「マジ?」

 ギリギリまで粘るって…

 次の瞬間、味方陣地で無数の光が見えた。そして一斉にこっちに向かっビームが―


「何、あんた、あのデッカい輪っかの所に1人で行ったの?」

 ソフィーが驚く。まぁ、無理もない。俺だってビックリだ。

「そうなんすよ。メチャクチャ大変だったっすけどね」

「何であなたが答えるのよ」

 ニーナにつっこまれる木戸君。

「何しに行ったの?」

 ソフィーが聞いてくる。もっともな質問だ。

「あんだけデカいと、やっぱ近くで見てみたくなるっすよね」

「だから何であなたが答えるの」

 再びニーナにつっこまれる木戸君。

「でも、そこ目掛けて全艦ビームを発射したから、あのデカいのが破壊できたんすよ」

 それでもめげずに、俺に代わって語ってくれる木戸君は偉い。

 俺の記憶にあるのは、ビームがこっちに向かって一斉に発射される瞬間までだ。その後はギリギリでワープをして、ホームに無事帰還した。

 ミスターが再起不能になったところや、ディヴァリア軍がロボット軍に勝利したところなんかは、控え室のモニターで1人で見てた。

「じゃあカサハラ君は、あの戦いの勝利の立役者ってことだ」

 ジェレミーさんが言う。

「まぁ、結果的にってことですけどね」

 別に狙ってやったわけじゃない。むしろ利用されたって感じだ。一歩間違えばミスターと一緒に華々しく散っていた可能性だってある。

「ムチャクチャなことしたんだから、褒めなくていいわよ」

 相変わらずソフィーは手厳しい。

「でも、そのおかげで勝てたんだから、感謝しなくちゃ」

 それに比べてニーナはいい子だ。

「ただ、そもそも戦いのきっかけを作ったのはこのメンバーだからね」

 ジェレミーさんが指摘する。

 確かに、俺たちが工場の破壊から惑星の制圧まで見事に完了させ、その成果がミリタリダスへの出撃に直結していると思われる。

 だが詳細はわからない。あの戦いも、結局最後はディヴァリア軍対ロボット軍になり、ディヴァリア軍が勝ったことで終結した。けど最初は、ディヴァリア軍対ミリタリダス軍のはずだった。

 あのあともミリタリダスには何のお咎めもないみたいだから許されたってことだろうけど、あれだけの数で攻め入った大戦(おおいくさ)なんだから、ホントに何もないということはないだろう。

 みんなの間でも様々な憶測が飛び交っている。

 ミリタリダスがあの状況を脱するために、裏切っていたのを裏切ったんじゃないかという説だ。ミリタリダスはホントにロボット軍団と通じていたが、偽のSOSを出して軍隊を呼び寄せ、最新鋭の兵器であるミスターを破壊するのに一役買ったんじゃなかろうかというのだ。

 また、そもそも裏切るふりをしてロボット軍団に取り入っていて、ロボット軍団の最新鋭の兵器を調べ、それを破壊するためにあの状況を作り上げたんじゃなかろうかという説もある。

 真相は、下っ端の俺らには永遠の謎だ。というか、知ったところで意味はない。あの時のあのバトラーのパイロットではないが、俺たちは兵士としてただ戦うしかないのだ。

(まさか死んでないよな)

 俺が命がけで逃したのだ。死んでたらただじゃおかない。

 あの戦いには、この場にいる全員が参加していた。そしておそらく、これから来る人たちもだ。

 今日は遂に、家族と対面する日だ。ということであのメンバーが再び集結した。意外と早いもんで、あれからもう既に半月経っている。

 その間に会っているのは同じホームの木戸君だけだけど、5人揃ったらすぐにあの時の雰囲気に戻った。それだけ、いいチームだったってことだ。

 家族に会うのはかなり特別なことなので、俺らは謎の場所へ集められた。どこかのホームなのかもしれないが、なぜか三回もワープさせられた。ニーナとジェレミーさんは四回だそうだ。

 家族で同じホームに住むという選択肢もあるが、別々の方がいいこともある。それは、それぞれの家族で決めればいいことで、どうするかは実際に会ってみないとわからない。

(……)

 そもそも、会うことがいいことなのかどうかもわからない。

 俺はもしかしたら、このメンバーに会うことが目的だったかもしれない。

 ここが地球で、まだディヴァリアに侵略されていなかったら、家族と話すことはたくさんあったはずだ。しかし今のこの状況で、会ったところで何を話せばいいのだろうか。

「家族に会うのが、そんなに楽しみじゃなさそうだね」

 そんな思いを察したのか、ジェレミーさんがそう声をかけてきた。

「楽しみじゃないわけじゃないんですけどね…」

 複雑な気持ちだ。

「まぁ確かに、何話していいのかわからないっすよね」

 木戸君もどちらかというとこっち派だろう。

 ジェレミーさんはもう親の立場だから、家族に会いたいっていう思いが俺らとはちょっと違う気がする。ただそう考えると、親は俺や綾香に会いたいのかもしれない。

「男って面倒くさっ…家族なんだから、気ぃ使わないで普通にしゃべればいいじゃない」

 ソフィーが言ってくる。男ってことで一括りにされても困るが…

「だからその、普通にしゃべるっていうことが難しいんでしょ。私もちょっとわかる気がする」

 意外にもニーナはこっち派だった。

「お父さんもお母さんも、君たちの無事な姿が見られるだけで、十分嬉しいよ」

 ジェレミーさんの言葉はホントに親の言葉だ。だからこそ、こういう時はありがたい。

「そうですね。とりあえず会えるってことだけでも喜びますよ。そのあとのことはそのあと考えます」

 みんなの気持ち、考えもある。たぶん、俺がみんなに会うのが久々なように、みんなもそれぞれ久々の再会になるはず。俺同様、複雑な思いを抱いてるかもしれない。

 と、その時、部屋の扉が開いた。外には、たくさんの人が立っていた。木戸君の家族、ソフィーの家族、ニーナの家族、ジェレミーさんの家族、そして…

「父さん、母さん、綾香…」

 3人の無事な姿を見て、自然と涙がこぼれた。

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