絵
6章 絵
音くんが息を引き取ってから約2日が経った。未だに信じられない。音くんがもうこの世にいないなんて。信じられないんじゃなくて、信じたくない。音くんを思い出にしたくない。思い出にしたら音くんが生きて一緒に過ごした日々が、泡と化してしまう。忘れたくないよ。音くんは、私に音を与えてくれた優しい人なんだ。優しいという言葉でまとめたくないほどのものの持ち主で、私を耳の聞こえなかった私を心から愛してくれた人だった。私から離れないで欲しかった。笑顔にしてあげたかった。最期くらい笑ってあげれればよかった。後悔ばかりが募ってでも、後戻りはもう出来ない。「音くんの馬鹿...」泣きながら出した声は、弱弱しくて掠れていた。そんな時、スマホが鳴る。着信だ。音くんのお母さんから。私は電話に出た。『もしもし?音の母です。今日の夜。お通夜を行うの。もしよければその、葵ちゃんも来てくれないかな。と思ってね。』細々しい声で話す音くんのお母さんは私と同じように、色々なことを悩み、苦しんだのだろう。私は音くんが亡くなってしまったことを受け入れたくはなかったけれど行くことにした。「行ってもいいですか...?」私の嗚咽交じりの声を聞いて音くんのお母さんは優しい声で、お待ちしてます。と答え電話を切った。
夜が来てお通夜に参列した。参列した人数はあまり多くはなかった。私の知り合いもいた。みんな音くんが亡くなるなんて思ってもなかったようだった。小さい頃は活発でよく公園を走り回るような子だった。と近所のおばさんが言っていた。私が知らない音くんのことを話す人を見ると少しずるいと感じるのは、私だけだろうか。周りからすれば、私は約3か月付き合っただけの音くんのことを何も知らないただのお嬢さんにしか見えないのだろうか。そんなことを考えていると、お通夜が終わった。音くんのあ母さんが私の傍へきて封筒を渡してきた。「ごめんなさいね。辛いのに音のために態々ありがとう。この封筒の中にはね、音が貴方へ残したものが入っているの。明日のお葬式で渡そうと思ったんだけど、今の方がいいのかなって思って。」そういって渡してくれた封筒を開け、中身を見る。その中には一枚の花の絵と、手紙が同封されていた。絵には、白い花が三本と青い小さな花が描いてあった。音くんのお母さんにこの花の名前を尋ねる。音くんのお母さんは白い花はガーベラという花で、青い小さな花は勿忘草って言うんだよ。と教えてくれた。音くんのお母さんは続けて「音は口下手だから...許してあげて。」そう言ってほかの参列者に挨拶に行った。私は花の意味を調べるー。本当に貴方は馬鹿だ。それくらい口で言えよ。そうつぶやく私の目にはもう涙があふれていた。もう一個の手紙に目をやる。
葵へ。
これを読んでるってことは僕はもう君の傍にはいないんだね。この言葉一回しか使えないから使ってみたかったんだ。カッコ付けてごめん。ださいな。(笑)早死にしてごめんなさい。もっと君と話してたかった。もっと君と時間を共にして、恋という恋を謳歌したかった。でも出来なかったね。それにあの告白以降僕は君に好きという言葉さえ言わなかったね。ごめん。初めての恋でどのタイミングで言っていいのかも探り探りでよくわからなかったんだ。不器用でごめん。ちゃんと愛していたよ。それは忘れないで欲しい。僕はもう君には会えないから。ちゃんと次の恋探してね。(笑)空から星になって見守っています。なんてね。僕が描いたあの花たち。君はわかってくれたかな。白い花はガーベラで意味は『希望』だよ。そして3本の意味は『あなたを愛しています。』青い小さな花は勿忘草で花言葉は『私を忘れないで。』って意味だよ。全部そのまま。君はこれを見たら、僕を思い出してくれるのかな。それじゃぁ。ばいばい。来世で会おう。
私はこの手紙を読んで言葉が詰まって何も言えなくなった....