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色と音色  作者: 花車
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愛してる

5章 愛してる

僕は海で叫んだ後の記憶がなかった。

僕はまた倒れたらしい。起き上がってスマホを確認する。君からのメッセージだ。開こうとしたとき、先生から声をかけられスマホを伏せた。先生が僕に言った。君はもうすぐ死ぬだろう。と。早くても明日。遅くて後3日。僕は一か月も昏睡状態だったらしい。それに加えて寿命も減っていた。君からの通知が何百件と来ていた理由が分かった。僕はもう正気を保てなかった。なんで起きなかったんだ。早く起きれば、目覚めれば君ともっと笑える日があったはずだ。僕は馬鹿だ。正真正銘の馬鹿だ。僕は自分に嫌気がさして、重い体を起こして起き上がり、屋上へと向かう。外の空気は心地いい。潮風だ。しょっぱいな。僕は屋上のベンチに腰かけた。後ろから声がした。「音くんー!私だよ!」心地い声がする。振り返ると、日差しで照らされた君が立っていた。「葵...」そう言うと、「うん。そうだよ。葵だよ。」そう返事が来た。ん?何かおかしい。なんで返事が出来た?耳が聞こえないはずじゃ...「音くん。私ね。聞こえるよ。音くんの優しいその声。今の私は聞こえてるよ。」そう嬉しそうに言う君が、愛らしい。僕の目はいつの間にか熱くなって、でも冷たい何かが流れた。それがなにかわかるまで、そう時間は掛からなかった。涙だ。泣いているのか。君の耳が聞こえるようになった喜びから?それとも君の耳が聞こえるようになったのに、僕がもう長く君と一緒に居れなくなってしまうからか?僕にはわからなかった。

君の耳が聞こえるようになったのはつい最近のことだったらしい。何か特別なことがあったわけでもなく、何気なく生活していたら急に耳が聞こえるようになったみたい。変だよね。と君は笑って話した。その言葉に続けて君は言った。「私、音くんのこと笑顔にできなかったや。約束守れなくてごめんね。」そう言われた。僕は君のおかげで幸せだよ。そう言った。でもなんで急に?僕はまだ言ってない。あと数日で花と散ることを。けど、僕は続けて君に言った。「僕こそごめん。きみともっと一緒に居れなくて。」その時一瞬だけ、色が見えた気がした。君の瞳が夕日に照らされ赤く揺らめいている。これが色か。これが僕が最期に見た色だったー。

暗い世界。真っ黒だ。箱の中なのか?声が聞こえる。確かではないけれど、葵の声な気がする。透き通るような優しい声。これは葵の声だ。「音くん。ごめんね。もっと話したかったよ。もっともっと一緒に過ごしたかった...」嗚咽を混じりながら話す君。僕も声を出したい。でも声が出ない。なんだろ。あぁ。僕は死んでしまったのか。これは噂で聞くやつだ。死後数時間聴覚だけ生きているというやつか。嫌だな。返事も出来ないのに、君の泣き声を最期まで聞くなんて。ごめんね。最期まで悲しませて。ごめんね。最期まで幸せにさせてあげられなくて。ごめんね。ちゃんと愛してるって伝えられなくて。ばいばい。また、来世で会おう。

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