ぼかし
アナムの歓迎会として皆で酒場に入っていた時の話。
いつの間にか、俺はカイゼと話していた。
カイゼもお酒が進んでいるのが分かる。
カイゼの口も緩くなり始めたのか、どんどん自分の話をしてくれる。
「俺の仲間たちを取り戻してくれたことには本当に感謝している。」
「島の皆のお陰だろ、俺に感謝はいらないよ。
集落の人たちとまた暮らせることになって良かったね。」
「ああ、大事な存在だったからな。
少し、昔話でも聞いてくれ。」
カイゼはそういうと、昔のことを話始める。
俺はいつ生まれて、どうやって育てられたのか覚えていない。
親は集落を救うために、命を落としたと言われた。
集落内では、英雄として語られていた。
そんな親の元に生まれたから、俺は長として集落に育てられた。
俺にとってその役割は、義務でしかない。
来る日も来る日も修行や勉強に明け暮れた。
俺が長の椅子に就いたのは、丁度20歳の誕生日を迎えた時のこと。
「「カイゼ殿、おめでとうございます!」」
たくさんの料理にたくさんの歓声。
それはすべて俺に向けられたものだった。
集落内を歩けば皆が期待を込めて俺に手を振ってくれる。
でも、相変わらず義務感でその座に就いた俺は嬉しいなんて感情を持ち合わせはしない。
むしろ、虚無感に支配されてくらい自分の部屋で考える。
何で俺は、こんなことをやってきたのだろう。
すごいのは、結局親で俺は何の力もないかもしれないのに。
他に長になりたい奴だって確かにいるはずだったのに、俺が運命的に決められていた。
つまりは、不安だ。
コンコン、とドアを叩く音が聞こえてくる。
俺に仕える者の一人が、俺を心配してきてくれたようだった。
寝てるふりをしてても仕方がないので、中に入れる。
「すいませんカイゼ殿、もう眠ろうとしてましたか。」
「いや、大丈夫だ。
こんな遅くにどうしたんだ?」
「いえ、なんだか今日のカイゼ殿はいつにも増して何かに押しつぶされそうな表情をしてらして。
それに、ご飯もあまり進んでなかったみたいだったので。」
おかゆを運んでくれていたようだ。
俺はそれをありがたく頂く、優しい味わいが体中を巡ってくる。
ふと、全部を吐き出してしまいたい気持ちになった。
というか、多分吐き出した。
家族がいない寂しさとか、これから先の不安とか。
それよりも長の器に満たない自分の弱さとか。
その生まれや、境遇が俺を締め付けて苦しめていた。
でも。
「私は、カイゼ殿の努力をもちろん知ってますよ。
他の皆ももちろん、知っています。
別に我々は、機械的にあなたの親が凄いからあなたを選んだわけではないんですよ。
あなたに魅力を感じて、あなたについていきたいと思ったんです。」
とても簡単な話だったんだ。
俺は、周りが全く見えていなかった。
俺しかいない世界で、俺の中だけで勝手にふさぎ込んで悩んで。
意外と認めてくれる人たちはそこにいる。
少なくとも、目の前には一人。
「俺は、至らぬところも多いぞ。」
「その時は我々に頼っていただいてもいいんですよ。」
「明日にはもう、頼ってしまうかもな。」
「肝に銘じておきます。」
人のために生きてみようと俺は決めた。
考え方が変わるだけで、俺の世界は景色を変えた。
集落の人間は俺を仲間として迎え入れてくれたし、尊敬してくれているのが分かる。
その分、俺も返していかなくてはいけない。
俺の指導の下、人々は利益を上げる方法を学び自分たちを守る手段を得ていた。
それは、中央国にも届いていたようで俺たちの集落は瞬く間に地位を上げた。
その集落の長であり、大陸内でも強かった俺は他の国に呼ばれることも多くなる。
俺は集落の人間を信じていたから、その日も中央国へ向かう。
依頼自体は簡単で、賞金首の拘束だった。
そんなに強くはなかったが、、逃げるのと数が多いため時間がかかってしまう。
その日、帰ることが出来たのは真っ暗な夜だった。
集落に戻るが、なんと言うか生気を感じない。
というか、普段の景色が見えてこない。
流石の俺でも、集落の場所くらい理解できているはずだ。
足に何かが当たる。
柔らかくて重い感触。
下を見たら、そこには人が転がっていた。
ようやく朝日が昇って、世界は明るく照らし出される。
だが、そこに広がっていたのは絶望だった。
人は感情を失ったように、乱雑にそこに転がっている。
俺たちが過ごした建物はその影すら残さずに消えている。
俺はすぐに依頼人の男を捕まえて、拷問にかけていた。
聞き出せたのはギルティという言葉だけだったが、それだけで充分。
俺は、静かな怒りに震え動き出す。
俺には親がいなかった。
それでも、確かに家族はそこにいたはずだった。
俺の周りにいてくれた景色を広げてくれた家族を助けるまでは。
俺は悪魔にでもなってみせる。
カイゼは、ゆっくりとお酒をまた喉に通す。
「今度は絶対、家族を手放すなんてことはしない。
新たに出来た、家族も含めてな。」
今日も真っ暗の夜だった。
でも、満月が綺麗に周りを映し出してくれている。




